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第4章 第4話
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「おお、こわいこわい。どうする? 俺を撃つか? 撃ってもいいぞ。
その前に自宅警備員がひとり死ぬだけだ。かわいそうにな。お前のせいで、今度はお前が殺した彼女の兄貴が死ぬぞ。もちろん、外せばお前も死ぬぞ」
「あんたにタカミさんを撃てるのか?」
「撃てないと思われていることに、むしろ驚きすら覚えるよ」
「違うよ。安全装置がかかったままの銃で、人が撃てるのかを俺はあんたに聞いてるんだよ」
一条は舌打ちした。図星だった。
「あんたはさっきタカミさんをその銃で殴った。
素人ならまだしも、安全装置がかかってなかったら暴発する可能性があることくらい、銃の扱いに長けた元刑事さんならよくわかってるはずだ」
「ガキのくせに、まったくよく見ていやがる」
タカミもこのガキも、ろくに世間も知らないくせに、昔からそこらへんの下手な大人たちより目ざといのが気に入らなかった。
さっさと始末しておくべきだった。
「セーフティロックを解除している間に、俺はお前に撃たれて終わりか……
まさかこの俺がこんなガキにな……」
一条は死を覚悟した。そんな風に見えるよう装った。
タカミがそばにいる限り、目の前の雨合羽のガキが自分を撃ってくることはないだろう。必ず拳銃を奪い取ろうと近づいてくる。そのときがチャンスだった。
拳銃を逆に奪い取ることは容易い。ついでに両腕をへし折ってやればいい。それには2秒もかからない。首の骨をへし折るのをオプションでつけてやってもコンマ数秒加算されるだけだ。
一条は警察学校でただ訓練を受けただけではない。主席で卒業した。その後も公安の連中やSP、時には自衛官を相手に学んだ技を磨き上げていた。
相手を徹底的に無力化、あるいは殺害するために必要な筋肉だけを鍛え、他の不要な箇所の筋肉がそぎおとされたその身体は、一見華奢に見えるがもはや全身が凶器だった。
その瞬間、脱ぎ捨てられた雨合羽が、一条の顔を覆った。
間髪入れず、拳銃を持つ手と、利き足を撃ち抜かれた。
冗談だろ、と思った。まさかこんなガキが、と。
利き足に撃たれた銃弾は正確に関節を撃ち抜いてきていた。
右手はもう拳銃を握るどころか、ペンを握ることさえ難しいかもしれない。そういう場所を撃ち抜いてきていた。
「冗談で拳銃を人に向ける奴がいるのか?
俺はガキだけど、昔の不良が持ってたバタフライナイフとは、これを持つ訳が違うんだよ」
思考さえも読まれていた。
冗談だろ、と思いはしたが、口にした覚えはなかった。
一体どれだけの修羅場を経験してきたら、まだ18歳の少年が命のやりとりで自分をこうも簡単に負かすことができるのか。
少年の背丈や顔立ちや声が、4年前とまるで変わっていないことが逆に恐ろしかった。
普通は命のやりとりをいくつも経験すれば、顔つきや声色が変わるものだ。
人の命を奪うということはそういうことだった。
一条がそうだった。
奪ってきた命を背負っているつもりは彼にはなかった。警察官である彼に命を奪われるということは、それだけのことをしたのだ。だから背負う必要はない。そう考えていた。
だがそれでも、顔つきや声色は自分の意思に反して勝手に変わっていくものだ。
こいつは、人の命を奪うことについて考えたことすらないということか。
「ユワを殺したときに70億人分考えた。それ以上考える必要はもうないだろ」
また思考を読まれた。
「確かにそれ以上考える必要はないよな……」
そうだった。
一条が一度だけこの少年に会ったとき、彼はすでに恋人をその手にかけた後だった。
だから一条が知る4年前の彼と今の彼は何も変わっていないのだ。
体勢を崩した瞬間、さらに2発銃弾を撃ち込まれた。今度は両脚の神経を正確に撃ち抜かれた。
「あんたがタカミさんを裏切るなら、俺はあんたを容赦しない」
この両脚はもう二度と動くことはないだろう。
医療機関はとうに機能していない。機能していたとしても、神経を撃ち抜かれてしまったら、ブラックジャックのような天才外科医にでも頼まなければどうしようもなかった。
「だったら、なぜ殺さない?」
殺してくれ、と思った。
ハルミを追いかけることもできなくなったこの身体にもう意味はない。
「タカミさんが悲しむからだ」
そんな理由か。
一条はもはや笑うしかなかった。
その前に自宅警備員がひとり死ぬだけだ。かわいそうにな。お前のせいで、今度はお前が殺した彼女の兄貴が死ぬぞ。もちろん、外せばお前も死ぬぞ」
「あんたにタカミさんを撃てるのか?」
「撃てないと思われていることに、むしろ驚きすら覚えるよ」
「違うよ。安全装置がかかったままの銃で、人が撃てるのかを俺はあんたに聞いてるんだよ」
一条は舌打ちした。図星だった。
「あんたはさっきタカミさんをその銃で殴った。
素人ならまだしも、安全装置がかかってなかったら暴発する可能性があることくらい、銃の扱いに長けた元刑事さんならよくわかってるはずだ」
「ガキのくせに、まったくよく見ていやがる」
タカミもこのガキも、ろくに世間も知らないくせに、昔からそこらへんの下手な大人たちより目ざといのが気に入らなかった。
さっさと始末しておくべきだった。
「セーフティロックを解除している間に、俺はお前に撃たれて終わりか……
まさかこの俺がこんなガキにな……」
一条は死を覚悟した。そんな風に見えるよう装った。
タカミがそばにいる限り、目の前の雨合羽のガキが自分を撃ってくることはないだろう。必ず拳銃を奪い取ろうと近づいてくる。そのときがチャンスだった。
拳銃を逆に奪い取ることは容易い。ついでに両腕をへし折ってやればいい。それには2秒もかからない。首の骨をへし折るのをオプションでつけてやってもコンマ数秒加算されるだけだ。
一条は警察学校でただ訓練を受けただけではない。主席で卒業した。その後も公安の連中やSP、時には自衛官を相手に学んだ技を磨き上げていた。
相手を徹底的に無力化、あるいは殺害するために必要な筋肉だけを鍛え、他の不要な箇所の筋肉がそぎおとされたその身体は、一見華奢に見えるがもはや全身が凶器だった。
その瞬間、脱ぎ捨てられた雨合羽が、一条の顔を覆った。
間髪入れず、拳銃を持つ手と、利き足を撃ち抜かれた。
冗談だろ、と思った。まさかこんなガキが、と。
利き足に撃たれた銃弾は正確に関節を撃ち抜いてきていた。
右手はもう拳銃を握るどころか、ペンを握ることさえ難しいかもしれない。そういう場所を撃ち抜いてきていた。
「冗談で拳銃を人に向ける奴がいるのか?
俺はガキだけど、昔の不良が持ってたバタフライナイフとは、これを持つ訳が違うんだよ」
思考さえも読まれていた。
冗談だろ、と思いはしたが、口にした覚えはなかった。
一体どれだけの修羅場を経験してきたら、まだ18歳の少年が命のやりとりで自分をこうも簡単に負かすことができるのか。
少年の背丈や顔立ちや声が、4年前とまるで変わっていないことが逆に恐ろしかった。
普通は命のやりとりをいくつも経験すれば、顔つきや声色が変わるものだ。
人の命を奪うということはそういうことだった。
一条がそうだった。
奪ってきた命を背負っているつもりは彼にはなかった。警察官である彼に命を奪われるということは、それだけのことをしたのだ。だから背負う必要はない。そう考えていた。
だがそれでも、顔つきや声色は自分の意思に反して勝手に変わっていくものだ。
こいつは、人の命を奪うことについて考えたことすらないということか。
「ユワを殺したときに70億人分考えた。それ以上考える必要はもうないだろ」
また思考を読まれた。
「確かにそれ以上考える必要はないよな……」
そうだった。
一条が一度だけこの少年に会ったとき、彼はすでに恋人をその手にかけた後だった。
だから一条が知る4年前の彼と今の彼は何も変わっていないのだ。
体勢を崩した瞬間、さらに2発銃弾を撃ち込まれた。今度は両脚の神経を正確に撃ち抜かれた。
「あんたがタカミさんを裏切るなら、俺はあんたを容赦しない」
この両脚はもう二度と動くことはないだろう。
医療機関はとうに機能していない。機能していたとしても、神経を撃ち抜かれてしまったら、ブラックジャックのような天才外科医にでも頼まなければどうしようもなかった。
「だったら、なぜ殺さない?」
殺してくれ、と思った。
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「タカミさんが悲しむからだ」
そんな理由か。
一条はもはや笑うしかなかった。
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