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第7章 第9話
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アリステラが帰るべき異世界を一体どうやって見つけるか。
その問題はタカミを深く悩ませていた。
正直な話、アリステラを異世界に帰す必要はなかった。
帰したところで、異世界でもおそらく10万年が過ぎているため、アリステラが存在した土地は、別の国になっているだろう。10万年の時を遡って帰すことができれば話は別だが、異世界にはアリステラの居場所はもうない。
ユワとハルミさえ取り戻すことができれば、この世界から追い出すだけでよかった。
例えば、地球の引力下にある宇宙空間だ。
おそらくはショウゴやレインも一度は考えたことがあるだろう。
宇宙空間に転移させられたアリステラは、大気も気圧もなく、おまけに無重力という条件下で生存することは不可能であり、さらに地球の引力内にあれば、大気圏に突入し燃え尽きることになる。
だが、もしアリステラがそのような状況下や大気圏突入に耐えるだけの力を持っていたら?
そのときは、アリステラは地上に舞い降りてくる。
エーテルを使って引き起こす災厄だけではなく、今度は魔法(エーテライズ)による軍事力によって、全力で人類を滅ぼしにかかるだろう。
また、地球には宇宙空間以上に解明が進んでいない場所が存在する。
深海だ。
人類の今の技術ではたどり着くことさえ出来ない、水深1万メートル以上の超深海帯に転移させることができれば、アリステラはその水圧に耐えることはできないだろう。
しかし、やはりここでも、もしそれに耐えられる力を有していたら、という問題が発生してしまう。
自由に災害や疫病、天変地異を引き起こせるアリステラが、まだどれだけの力を隠し持っているのか、確かめるすべがない以上、軽率に宇宙空間や深海に転移させるべきではなかった。
アリステラが帰るべき異世界を見つけるために、何かヒントが欲しかった。
アリステラの女王の演説が始まったとき、すぐに録画しておくべきだった。なぜ思いつかなかったのか。
理由は簡単なことだった。
女王が4年前に死んだはずの彼の妹と同じ顔をしていたからだ。
そのそばに小久保ハルミがいたからだ。
演説が流れる映像端末以外の電子機器の電力が復活していることに気づけなかったからだ。
タカミは、女王が語ったアリステラと野蛮なホモサピエンスの10万年の歴史の中に、何かヒントがあるような気がしていた。
確信があるわけではなく、直感でしかなかったが。
あの演説は、あまりに急すぎた。
誰も、電力が回復していることにすぐには気づけなかったらしく、いくらネットを漁っても、録画された映像は出てこなかった。
この数日間、「機械仕掛けの魔女ディローネ」に世界中のパソコンやスマホ、ブルーレイレコーダーなどを調べさせてはいるが、今のところ発見できてはいなかった。
「なかなか、あのときの映像は見つからないみたいだね」
屋上からレインと一緒に降りてきたショウゴが、彼にそう声をかけた。
レインはバスルームに向かっていった。雨で冷えた体を温めるつもりだろう。
窓の外はいつの間にか夕方になっていた。
アリステラを国ごと異世界に転移させるゲートを作る訓練は、今日はもう終わりらしい。
生まれつき体内にエーテルを持ち、物心ついた頃からエーテルを扱えた彼女でも、ゲートを作るのは人が通れる程度の大きさのものでも、体力や精神力を相当奪われてしまうという。
ショウゴが読心術に目覚めた日は、能力に目覚めたばかりだったということもあるが、翌日の夜まで丸1日寝ていたほどだった。
ゲートを作るのは、おそらくその何十倍も難しい。それくらいは何の能力も持たないタカミにもわかった。
現状タカミたちが住むマンションは、電力はソーラーパネルだけでなくエーテルが補ってくれており、水は屋上の貯水タンクに十分にあったから、今は浴槽に湯をはることもできるようになっていた。
彼女には随分無理をさせてしまっていたから、ゆっくりと体を休めてほしかった。
「でも、不思議だね。人類はまだ30億人以上生き残ってるはずなのに、誰ひとりあの映像を録画していなかったなんて、そんなこと本当にあるのかな」
「30億人のうち、たぶん25億人くらいは暴徒になっちゃってるからだろうなぁ」
ちゃんとあの映像を最初から最後まで観たのは、人類の1割か、よくて2割程度だろう。
ショウゴは「う~~ん」としばし頭を悩ませた後で、「あっ」と何か閃いたような顔をした。
「監視カメラだよ」
と少年のように目を輝かせた。14歳のときから変わらない少年のままの顔で。
「監視カメラ?」
「監視カメラの映像に、あの放送の音声だけでも残ってないかな。
この街にはないけど、都市部のビルには街頭テレビがあるよね。あれにもたぶんあの放送は流れてたんじゃないかと思うんだ。その近くにある監視カメラを調べてみるのはどうかな」
音声まで録画する監視カメラが世界中にどれだけ存在するかわからなかったが、彼の提案はどうやら試してみる価値がありそうだった。
その問題はタカミを深く悩ませていた。
正直な話、アリステラを異世界に帰す必要はなかった。
帰したところで、異世界でもおそらく10万年が過ぎているため、アリステラが存在した土地は、別の国になっているだろう。10万年の時を遡って帰すことができれば話は別だが、異世界にはアリステラの居場所はもうない。
ユワとハルミさえ取り戻すことができれば、この世界から追い出すだけでよかった。
例えば、地球の引力下にある宇宙空間だ。
おそらくはショウゴやレインも一度は考えたことがあるだろう。
宇宙空間に転移させられたアリステラは、大気も気圧もなく、おまけに無重力という条件下で生存することは不可能であり、さらに地球の引力内にあれば、大気圏に突入し燃え尽きることになる。
だが、もしアリステラがそのような状況下や大気圏突入に耐えるだけの力を持っていたら?
そのときは、アリステラは地上に舞い降りてくる。
エーテルを使って引き起こす災厄だけではなく、今度は魔法(エーテライズ)による軍事力によって、全力で人類を滅ぼしにかかるだろう。
また、地球には宇宙空間以上に解明が進んでいない場所が存在する。
深海だ。
人類の今の技術ではたどり着くことさえ出来ない、水深1万メートル以上の超深海帯に転移させることができれば、アリステラはその水圧に耐えることはできないだろう。
しかし、やはりここでも、もしそれに耐えられる力を有していたら、という問題が発生してしまう。
自由に災害や疫病、天変地異を引き起こせるアリステラが、まだどれだけの力を隠し持っているのか、確かめるすべがない以上、軽率に宇宙空間や深海に転移させるべきではなかった。
アリステラが帰るべき異世界を見つけるために、何かヒントが欲しかった。
アリステラの女王の演説が始まったとき、すぐに録画しておくべきだった。なぜ思いつかなかったのか。
理由は簡単なことだった。
女王が4年前に死んだはずの彼の妹と同じ顔をしていたからだ。
そのそばに小久保ハルミがいたからだ。
演説が流れる映像端末以外の電子機器の電力が復活していることに気づけなかったからだ。
タカミは、女王が語ったアリステラと野蛮なホモサピエンスの10万年の歴史の中に、何かヒントがあるような気がしていた。
確信があるわけではなく、直感でしかなかったが。
あの演説は、あまりに急すぎた。
誰も、電力が回復していることにすぐには気づけなかったらしく、いくらネットを漁っても、録画された映像は出てこなかった。
この数日間、「機械仕掛けの魔女ディローネ」に世界中のパソコンやスマホ、ブルーレイレコーダーなどを調べさせてはいるが、今のところ発見できてはいなかった。
「なかなか、あのときの映像は見つからないみたいだね」
屋上からレインと一緒に降りてきたショウゴが、彼にそう声をかけた。
レインはバスルームに向かっていった。雨で冷えた体を温めるつもりだろう。
窓の外はいつの間にか夕方になっていた。
アリステラを国ごと異世界に転移させるゲートを作る訓練は、今日はもう終わりらしい。
生まれつき体内にエーテルを持ち、物心ついた頃からエーテルを扱えた彼女でも、ゲートを作るのは人が通れる程度の大きさのものでも、体力や精神力を相当奪われてしまうという。
ショウゴが読心術に目覚めた日は、能力に目覚めたばかりだったということもあるが、翌日の夜まで丸1日寝ていたほどだった。
ゲートを作るのは、おそらくその何十倍も難しい。それくらいは何の能力も持たないタカミにもわかった。
現状タカミたちが住むマンションは、電力はソーラーパネルだけでなくエーテルが補ってくれており、水は屋上の貯水タンクに十分にあったから、今は浴槽に湯をはることもできるようになっていた。
彼女には随分無理をさせてしまっていたから、ゆっくりと体を休めてほしかった。
「でも、不思議だね。人類はまだ30億人以上生き残ってるはずなのに、誰ひとりあの映像を録画していなかったなんて、そんなこと本当にあるのかな」
「30億人のうち、たぶん25億人くらいは暴徒になっちゃってるからだろうなぁ」
ちゃんとあの映像を最初から最後まで観たのは、人類の1割か、よくて2割程度だろう。
ショウゴは「う~~ん」としばし頭を悩ませた後で、「あっ」と何か閃いたような顔をした。
「監視カメラだよ」
と少年のように目を輝かせた。14歳のときから変わらない少年のままの顔で。
「監視カメラ?」
「監視カメラの映像に、あの放送の音声だけでも残ってないかな。
この街にはないけど、都市部のビルには街頭テレビがあるよね。あれにもたぶんあの放送は流れてたんじゃないかと思うんだ。その近くにある監視カメラを調べてみるのはどうかな」
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