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第8章 第5話
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「4人の賢者は、さらにこう言ったそうです。
『あなたがお持ちの聖石や、我々の持つ聖石は、元の世界にある聖石と、すべて目に見えない力で繋がっているのです』
『聖石に触れ、念じるだけで、聖石は元の世界に繋がる扉へと形を変えます』
ですが、王族の末裔は簡単には信じませんでした。
『それが本当ならば、やってみせてみよ。
世界中に散らばったクルヌギアの民の末裔たちを帰すことができる扉を作ってみせよ』
4人の賢者は、それで信じてもらえるならばと、ひとりの賢者を王族の末裔のそばに残し、3人のうちのひとりは西の果てにある島へ、ふたりは東の大きな海の真ん中にある双子島へ向かったそうです」
そういうことか、とタカミは理解した。
アリステラの民の末裔をすべて元の世界に帰すには、彼がレインに作らせようとしていたように、巨大なゲートを作る必要があったのだ。
そのために選ばれた島がアトランティスであり、双子島というのがムー大陸とレムリア大陸だったのだ。
「それからしばらくして、王族の末裔の元に、賢者の使いから知らせが届いたそうです。
3人の賢者は、西の果ての島と東の海の真ん中にある双子島と共に消えてしまったと。
3人の賢者が作った扉はどこにも見当たらず、3つの島はまるで海の中に消えてしまったかのようだったということでした。
それを聞いた王族の末裔は、
『これは一体どういうことか』
そばに残っていたひとりの賢者に尋ねました。
賢者は答えます。
『我々が帰るべき世界は、すでになくなってしまっていたということでしょう。
世界自体はなくなってしまっていましたが、聖石だけがそこにあったのです』
王族の末裔にはその意味がよくわかりませんでした。
『この世界における最初のクルヌギアの王や、王に生涯仕え、我々4人の賢者の師であった英雄もまた、近い将来世界がなくなることを知っていたのでしょう。
だから、この世界にクルヌギアの国ごとやってきたのでしょう』
賢者の言葉は、王族の末裔には一切理解できませんでした。
王族の末裔は、長い長い時間の中で、何度も何度も代替わりをし、クルヌギアの王族ならば知っていて当然のことさえ、親から教えられることがなくなっていたのです。
王族の末裔の親が悪いわけではありません。
親も、その親も、そのまた親も、一体いつからかはわかりませんが、教えられることがなくなってしまっていたからなのです。
『あなたは知らないかもしれませんが、この世界は丸く、球のような形をしており、この世界よりもはるかに広く大きな常闇(とこやみ)の中にあるのです。
この丸い球のような世界は、太陽のまわりをぐるぐるとまわり続けているのです。
夜空に輝く月は、この丸い球のような世界のまわりを、やはりぐるぐるぐるぐるとまわり続けています。
星々はすべて人の身ではたどり着けないほど高く遠い場所で輝く太陽なのです。
クルヌギアが元々あった世界もまた、夜空に輝く星々のどれかのまわりをぐるぐるとまわりつづける丸い球。
その球の世界がなくなり、聖石だけが常闇の中を漂っていたのでしょう』
王族の末裔が理解できたのは、3人の賢者と彼らとともに元の世界に帰ろうとした一部のクルヌギアの民の末裔たちは、3つの島ごとその常闇の中に放り出されてしまったということだけでした」
つまり、アリステラが帰るべき世界などとうになくなっていたということだった。
だから「クルヌギア」なのだ。
帰還する事のない土地、冥界を意味するシュメール神話の言葉である「クル・ヌ・ギ・ア」をアリステラと置き換えているのだ。
そのことを知っているからこそ、アリステラの女王や民の末裔たちは、元の世界に帰ろうとはしなかったし、しないのだ。
だから、この世界に居座り続けようとしているのだ。
いや、違う。何かおかしい。
タカミは、大切なことを忘れていたことに気づいた。
「タカミさん、確かユワは……」
ショウゴもどうやら気づいたようだった。
「そうだ。ぼくとは血が繋がってない。
ユワが生まれてすぐ、あいつの本当の両親は死んでる。
うちの父親とあいつの母親が学生時代からの知り合いで、他に身寄りのなかったユワを引き取ることにしたんだ」
だからユワは、レインのように母親からおとぎ話のようにクルヌギアの話を聞いていない。
聞かされるはずだったが、聞くことができなかった。
「母はクルヌギアの話は、人に話してはいけないと言っていました。わたくしに女の子が生まれたときにだけ話すようにと。
アンナ……いえ、姉も叔母からそう聞かされていたはずです。
おそらくですが、クルヌギアの話は、アリステラの女王の末裔の資格を持つ女性だけが、次の女王の末裔の資格を持つ者だけに伝え聞かせるもの……」
ユワだけでなく、ユワのそばにいる小久保ハルミはもちろん、ユワに仕えるアリステラの民の末裔たちも、新生アリステラを名乗る人々は、誰もアリステラには帰る世界がないことを知らない。
もし今のアリステラの女王が本当にユワなら、あの放送のときはユワじゃなかったとしても、ユワの人格がまだ残っているとしたら、ユワは必ずショウゴが生きているこの世界を守ろうとするだろう。
帰還する事のない土地とは知らず、帰るべき世界へ帰ろうとするだろう。
問題はそれだけじゃなかった。
4人の賢者の中でひとりだけ生き残った者がいることがタカミはどうしても引っ掛かっていた。
「わたくしは、アンナを、姉を殺した遣田ハオトという男こそが、ひとりだけ生き残ったクルヌギアの賢者ではないかと考えています」
「あんな奴が賢者だなんて、ずる賢い者のことを賢者って呼ぶんだったかなって思っちゃうくらいだけど、まず間違いないだろうね」
やはり、レインもショウゴも同じことを考えていたようだった。
「たまたま登った塔で、たまたま綱渡りの途中で落ちたり、たまたま落とし穴に引っ掛かったりして、たまたま開いた宝箱に、たまたま悟りの書が入ってるのを見つけたら、たまたま塔の近くにダーマの神殿があったんだろ」
帰るべき世界がもう存在しないことを知っていながら、そのことを誰にも教えず、3人の賢者をわざと死なせたんじゃないかとさえ思えた。
あの男ならやりかねなかった。
『あなたがお持ちの聖石や、我々の持つ聖石は、元の世界にある聖石と、すべて目に見えない力で繋がっているのです』
『聖石に触れ、念じるだけで、聖石は元の世界に繋がる扉へと形を変えます』
ですが、王族の末裔は簡単には信じませんでした。
『それが本当ならば、やってみせてみよ。
世界中に散らばったクルヌギアの民の末裔たちを帰すことができる扉を作ってみせよ』
4人の賢者は、それで信じてもらえるならばと、ひとりの賢者を王族の末裔のそばに残し、3人のうちのひとりは西の果てにある島へ、ふたりは東の大きな海の真ん中にある双子島へ向かったそうです」
そういうことか、とタカミは理解した。
アリステラの民の末裔をすべて元の世界に帰すには、彼がレインに作らせようとしていたように、巨大なゲートを作る必要があったのだ。
そのために選ばれた島がアトランティスであり、双子島というのがムー大陸とレムリア大陸だったのだ。
「それからしばらくして、王族の末裔の元に、賢者の使いから知らせが届いたそうです。
3人の賢者は、西の果ての島と東の海の真ん中にある双子島と共に消えてしまったと。
3人の賢者が作った扉はどこにも見当たらず、3つの島はまるで海の中に消えてしまったかのようだったということでした。
それを聞いた王族の末裔は、
『これは一体どういうことか』
そばに残っていたひとりの賢者に尋ねました。
賢者は答えます。
『我々が帰るべき世界は、すでになくなってしまっていたということでしょう。
世界自体はなくなってしまっていましたが、聖石だけがそこにあったのです』
王族の末裔にはその意味がよくわかりませんでした。
『この世界における最初のクルヌギアの王や、王に生涯仕え、我々4人の賢者の師であった英雄もまた、近い将来世界がなくなることを知っていたのでしょう。
だから、この世界にクルヌギアの国ごとやってきたのでしょう』
賢者の言葉は、王族の末裔には一切理解できませんでした。
王族の末裔は、長い長い時間の中で、何度も何度も代替わりをし、クルヌギアの王族ならば知っていて当然のことさえ、親から教えられることがなくなっていたのです。
王族の末裔の親が悪いわけではありません。
親も、その親も、そのまた親も、一体いつからかはわかりませんが、教えられることがなくなってしまっていたからなのです。
『あなたは知らないかもしれませんが、この世界は丸く、球のような形をしており、この世界よりもはるかに広く大きな常闇(とこやみ)の中にあるのです。
この丸い球のような世界は、太陽のまわりをぐるぐるとまわり続けているのです。
夜空に輝く月は、この丸い球のような世界のまわりを、やはりぐるぐるぐるぐるとまわり続けています。
星々はすべて人の身ではたどり着けないほど高く遠い場所で輝く太陽なのです。
クルヌギアが元々あった世界もまた、夜空に輝く星々のどれかのまわりをぐるぐるとまわりつづける丸い球。
その球の世界がなくなり、聖石だけが常闇の中を漂っていたのでしょう』
王族の末裔が理解できたのは、3人の賢者と彼らとともに元の世界に帰ろうとした一部のクルヌギアの民の末裔たちは、3つの島ごとその常闇の中に放り出されてしまったということだけでした」
つまり、アリステラが帰るべき世界などとうになくなっていたということだった。
だから「クルヌギア」なのだ。
帰還する事のない土地、冥界を意味するシュメール神話の言葉である「クル・ヌ・ギ・ア」をアリステラと置き換えているのだ。
そのことを知っているからこそ、アリステラの女王や民の末裔たちは、元の世界に帰ろうとはしなかったし、しないのだ。
だから、この世界に居座り続けようとしているのだ。
いや、違う。何かおかしい。
タカミは、大切なことを忘れていたことに気づいた。
「タカミさん、確かユワは……」
ショウゴもどうやら気づいたようだった。
「そうだ。ぼくとは血が繋がってない。
ユワが生まれてすぐ、あいつの本当の両親は死んでる。
うちの父親とあいつの母親が学生時代からの知り合いで、他に身寄りのなかったユワを引き取ることにしたんだ」
だからユワは、レインのように母親からおとぎ話のようにクルヌギアの話を聞いていない。
聞かされるはずだったが、聞くことができなかった。
「母はクルヌギアの話は、人に話してはいけないと言っていました。わたくしに女の子が生まれたときにだけ話すようにと。
アンナ……いえ、姉も叔母からそう聞かされていたはずです。
おそらくですが、クルヌギアの話は、アリステラの女王の末裔の資格を持つ女性だけが、次の女王の末裔の資格を持つ者だけに伝え聞かせるもの……」
ユワだけでなく、ユワのそばにいる小久保ハルミはもちろん、ユワに仕えるアリステラの民の末裔たちも、新生アリステラを名乗る人々は、誰もアリステラには帰る世界がないことを知らない。
もし今のアリステラの女王が本当にユワなら、あの放送のときはユワじゃなかったとしても、ユワの人格がまだ残っているとしたら、ユワは必ずショウゴが生きているこの世界を守ろうとするだろう。
帰還する事のない土地とは知らず、帰るべき世界へ帰ろうとするだろう。
問題はそれだけじゃなかった。
4人の賢者の中でひとりだけ生き残った者がいることがタカミはどうしても引っ掛かっていた。
「わたくしは、アンナを、姉を殺した遣田ハオトという男こそが、ひとりだけ生き残ったクルヌギアの賢者ではないかと考えています」
「あんな奴が賢者だなんて、ずる賢い者のことを賢者って呼ぶんだったかなって思っちゃうくらいだけど、まず間違いないだろうね」
やはり、レインもショウゴも同じことを考えていたようだった。
「たまたま登った塔で、たまたま綱渡りの途中で落ちたり、たまたま落とし穴に引っ掛かったりして、たまたま開いた宝箱に、たまたま悟りの書が入ってるのを見つけたら、たまたま塔の近くにダーマの神殿があったんだろ」
帰るべき世界がもう存在しないことを知っていながら、そのことを誰にも教えず、3人の賢者をわざと死なせたんじゃないかとさえ思えた。
あの男ならやりかねなかった。
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