108 / 123
第11章 第4話
しおりを挟む
「飛翔艇オルフェウスが一機、それも16年前にトルコのアララト山で人類によって残骸が発見された、10万年前の1番艦『エウリュディケ』です」
「1番艦? 魔導人工頭脳を持たない飛翔艇を、いまさら復元して持ち出してきたというの?」
「アレクサ、魔導人工頭脳があるかどうかは問題ではないのよ。
まがい物ではなく、アリステラ産のエーテルを結晶化させたヒヒイロカネで作られていることに意味があるんだわ。
それに1番艦は魔導人工頭脳を持っていなかったわけじゃないの。
1番艦は、外装から内部の小さな部品ひとつに至るまで、そのすべてが魔導人工頭脳で作られた、2番艦以降とはその設計方針が全く別物。
状況に応じて自らその形を変えることができ、人造人間兵士までをも生み出すことができる、規格外の戦力を持つ飛翔艇なのよ」
「そんな……こちらには魔導人工頭脳が停止したままの、まがい物のオルフェウスが一機あるだけなのに……」
「エーベル、その1番艦の女王の間には誰がいるの?」
「16翼の女王がひとり、さらに艦内には無翼の末裔の軍勢が1000人程はいるかと……」
「16翼……『天国』の女王アリーヤね……
母なる星ですでにふたつの大陸を支配しながらも、それだけでは飽き足らず、民を等しく『天国』に導くと約束し、西の大陸に戦争を仕掛けた、アリステラの三大愚女のひとり……
偶数翼はどうやら本当にお馬鹿さんたちの集まりのようね。
いいわ、このアシーナが自ら迎えうつと、無翼の末裔たちに伝えて、戦の準備をさせなさい」
「だめです!
いくらアリーヤが愚かな女王だったとはいえ、その翼は16翼。
翼の数が女王の力を表しているのは、アシーナ様もご存じのはず。
失礼ながら、7翼の女王であるアシーナ様では到底かなわなうわけがありません。
ここはわたしとアマラが出るべきです」
「そうね……あなたはアマヤをその身に取り込んで15翼になっていたんだったわね……
それにアマラの翼は13翼……ふたりなら確かになんとかなるかもしれない……
わかりました。わたしはここで彼の体を守ります。
エーベル、アシーナとアマラを頼みましたよ」
青年には、彼女たちや自分の身に危険が迫っていることや、戦争が始まろうとしていることしかわからなかった。
アシーナと呼ばれる女性が、青年のそばにやってくる足音と気配がした。
「いつの間にか意識が戻っていたようですね。
わたしたちの話を聞いていたのでしょう?
ですが、何も心配はいりません。あなたのことはわたしが必ず守りますから」
彼女は青年に優しく声をかけた。
盗み聞きするつもりはなかったが、何だか悪いことをしてしまったような気がした。
「大丈夫です。あなたの意識が戻っていることは、少し前から気付いていました。
あなたには信じられないかもしれませんが、わたしには特定の相手の心……わたしが心を寄せた殿方だけの心を読む力があるのです」
それはまるで愛の告白のようだった。
「愛の告白? ふふっ、そうかもしれませんね。
ですが、この機械の体ではあなたの子を授かることができません。非常に残念です」
アシーナは、それからいろいろなことを青年に教えてくれた。
「あなたが今いる医療ポッドは、とても頑丈なんですよ。
恒星の超新星爆発から逃れてきた我々アリステラ人が、宇宙移民以外の方法で超新星爆発から逃れるにはどうしたらいいか試行錯誤した結果、数台だけ作られたものの、量産には至らなかった個人用の惑星外脱出ポッドを医療用に改良を施したものなんです。
たとえわたしが死んでしまったり、この星が終わりを迎えるようなことがあっても、その中にいればあなただけは生き残れます」
「あなたは今、さなぎの中の幼虫のようなもの。
体が一度その形を失い、骨も筋肉も皮膚も内臓も、すべてがどろどろに溶けてしまっています。
ですが、やがてヒトの形を取り戻します。
そのときには、身体の様々な部分がエーテルやヒヒイロカネ、それから千年細胞によって作り替えられていることでしょう」
「あなたは死の間際に、目前に迫っていた死を回避することができる能力が開花することを願ったでしょう?
能力が開花することはありませんでしたが、わたしたちの持つ魔法と科学なら、人工的にあなたの望む以上の力を与えることが可能なのです」
「今はゆっくりお休みください。
わたしがずっとそばにいますから、ひとりで退屈なときや寂しいときは、いつでも心の中でわたしを呼んでくださいね」
それから、さまざまな声や音が青年の耳に届いた。
怒号や悲鳴、轟音。
戦争映画を観ているのではなく、目を閉じて聴いている、そんな感じだった。
やがて、何も音が聞こえなくなった。
そばにいるはずのアシーナという女性に心の中で呼び掛けても、彼女から返事はなかった。
「1番艦? 魔導人工頭脳を持たない飛翔艇を、いまさら復元して持ち出してきたというの?」
「アレクサ、魔導人工頭脳があるかどうかは問題ではないのよ。
まがい物ではなく、アリステラ産のエーテルを結晶化させたヒヒイロカネで作られていることに意味があるんだわ。
それに1番艦は魔導人工頭脳を持っていなかったわけじゃないの。
1番艦は、外装から内部の小さな部品ひとつに至るまで、そのすべてが魔導人工頭脳で作られた、2番艦以降とはその設計方針が全く別物。
状況に応じて自らその形を変えることができ、人造人間兵士までをも生み出すことができる、規格外の戦力を持つ飛翔艇なのよ」
「そんな……こちらには魔導人工頭脳が停止したままの、まがい物のオルフェウスが一機あるだけなのに……」
「エーベル、その1番艦の女王の間には誰がいるの?」
「16翼の女王がひとり、さらに艦内には無翼の末裔の軍勢が1000人程はいるかと……」
「16翼……『天国』の女王アリーヤね……
母なる星ですでにふたつの大陸を支配しながらも、それだけでは飽き足らず、民を等しく『天国』に導くと約束し、西の大陸に戦争を仕掛けた、アリステラの三大愚女のひとり……
偶数翼はどうやら本当にお馬鹿さんたちの集まりのようね。
いいわ、このアシーナが自ら迎えうつと、無翼の末裔たちに伝えて、戦の準備をさせなさい」
「だめです!
いくらアリーヤが愚かな女王だったとはいえ、その翼は16翼。
翼の数が女王の力を表しているのは、アシーナ様もご存じのはず。
失礼ながら、7翼の女王であるアシーナ様では到底かなわなうわけがありません。
ここはわたしとアマラが出るべきです」
「そうね……あなたはアマヤをその身に取り込んで15翼になっていたんだったわね……
それにアマラの翼は13翼……ふたりなら確かになんとかなるかもしれない……
わかりました。わたしはここで彼の体を守ります。
エーベル、アシーナとアマラを頼みましたよ」
青年には、彼女たちや自分の身に危険が迫っていることや、戦争が始まろうとしていることしかわからなかった。
アシーナと呼ばれる女性が、青年のそばにやってくる足音と気配がした。
「いつの間にか意識が戻っていたようですね。
わたしたちの話を聞いていたのでしょう?
ですが、何も心配はいりません。あなたのことはわたしが必ず守りますから」
彼女は青年に優しく声をかけた。
盗み聞きするつもりはなかったが、何だか悪いことをしてしまったような気がした。
「大丈夫です。あなたの意識が戻っていることは、少し前から気付いていました。
あなたには信じられないかもしれませんが、わたしには特定の相手の心……わたしが心を寄せた殿方だけの心を読む力があるのです」
それはまるで愛の告白のようだった。
「愛の告白? ふふっ、そうかもしれませんね。
ですが、この機械の体ではあなたの子を授かることができません。非常に残念です」
アシーナは、それからいろいろなことを青年に教えてくれた。
「あなたが今いる医療ポッドは、とても頑丈なんですよ。
恒星の超新星爆発から逃れてきた我々アリステラ人が、宇宙移民以外の方法で超新星爆発から逃れるにはどうしたらいいか試行錯誤した結果、数台だけ作られたものの、量産には至らなかった個人用の惑星外脱出ポッドを医療用に改良を施したものなんです。
たとえわたしが死んでしまったり、この星が終わりを迎えるようなことがあっても、その中にいればあなただけは生き残れます」
「あなたは今、さなぎの中の幼虫のようなもの。
体が一度その形を失い、骨も筋肉も皮膚も内臓も、すべてがどろどろに溶けてしまっています。
ですが、やがてヒトの形を取り戻します。
そのときには、身体の様々な部分がエーテルやヒヒイロカネ、それから千年細胞によって作り替えられていることでしょう」
「あなたは死の間際に、目前に迫っていた死を回避することができる能力が開花することを願ったでしょう?
能力が開花することはありませんでしたが、わたしたちの持つ魔法と科学なら、人工的にあなたの望む以上の力を与えることが可能なのです」
「今はゆっくりお休みください。
わたしがずっとそばにいますから、ひとりで退屈なときや寂しいときは、いつでも心の中でわたしを呼んでくださいね」
それから、さまざまな声や音が青年の耳に届いた。
怒号や悲鳴、轟音。
戦争映画を観ているのではなく、目を閉じて聴いている、そんな感じだった。
やがて、何も音が聞こえなくなった。
そばにいるはずのアシーナという女性に心の中で呼び掛けても、彼女から返事はなかった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
8
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる