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新章:円環の凶星
第6話:『黄金色の檻(後編)』
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超高級マンションの最上階。贅を尽くしたリビングは、今や九条 院(くじょう まどか)にとっての「処刑場」へと変貌していた。
天城(せいや)が装着した検眼枠(テストフレーム)の三枚目のレンズが、無慈悲に回転する。
「――ぁ、……あ……っ、嫌、ですわ……返して……っ!」
院は震える指で、虚空を掴もうとした。彼女の視界の中では、先祖代々受け継いできた邸宅、金庫に眠る権利書、そして彼女自身の肌を飾る最高級のドレスまでが、黄金の砂となって天城のレンズへと吸い込まれていく。
禄存(ろくぞん)の星が司る「蓄積」の力。それは本来、持つ者を守る盾となるはずのものだった。だが、天城の虚無の力はその盾を溶解させ、彼女を窒息させるほどの「重圧」へと変換していた。
「返して、だって? 院、君は勘違いをしている。……これらはもともと君のものではない。君が他者から奪い、溜め込み、停滞させてきた『世界の脂』だ。……私が、それを正しく流動させてあげているんだよ」
天城は、院の細い首筋に冷たい指を這わせた。
最後の一枚、漆黒のレンズがセットされる。
カチャ。
その瞬間、院の瞳孔から、まばゆいばかりの黄金の光が「噴出」した。
それは彼女の魂の核そのもの。九条院という存在を定義していた「余裕」と「豊穣」のエネルギーが、天城の肉体へと直接注ぎ込まれていく。
「――ぁあああああああああああっ!!」
院の叫びは、物理的な破壊を伴って室内に響いた。壁に飾られた名画の額縁が砕け、クリスタルのシャンデリアが音を立てて崩落する。
何もかもを所有していた令嬢。
何も失うことを知らなかった無垢な傲慢。
それが、天城という凶星に咀嚼され、胃の腑で消化されていく。
数分後。
荒れ果てたリビングの中央で、院は横たわっていた。
彼女の身を包んでいた最高級のシルクは、もはや雑巾のように色褪せ、その滑らかだった肌は、栄養を失った大地の如くひび割れている。
天城が検眼枠を外すと、彼女の瞳からはすべての「色」が消えていた。
「……空っぽだね。……ようやく、君は『自由』になれたんだ」
天城は、床に転がった数億円のダイヤモンドに目もくれず、満足げに喉を鳴らした。
彼の中に、三つ目の星――禄存の輝きが、暗い黄金の澱となって沈殿していく。
富を持たない者には決して味わえない、重厚で、芳醇な魂の味。
「……ふぅ。……次の獲物は、もっと『刺さる』やつがいいな」
天城は、生ける骸と化した院を置き去りにし、夜の静寂へと溶け込んでいった。
翌朝、資産数千億を誇る九条家の令嬢が、一夜にして精神を崩壊させ、自らの邸宅で浮浪者のような姿で発見されたというニュースは、上流階級を震撼させることになる。
星を喰らう殺人鬼による、三度目の晩餐。
その残響が、四番目の犠牲者を呼び寄せていた。
天城(せいや)が装着した検眼枠(テストフレーム)の三枚目のレンズが、無慈悲に回転する。
「――ぁ、……あ……っ、嫌、ですわ……返して……っ!」
院は震える指で、虚空を掴もうとした。彼女の視界の中では、先祖代々受け継いできた邸宅、金庫に眠る権利書、そして彼女自身の肌を飾る最高級のドレスまでが、黄金の砂となって天城のレンズへと吸い込まれていく。
禄存(ろくぞん)の星が司る「蓄積」の力。それは本来、持つ者を守る盾となるはずのものだった。だが、天城の虚無の力はその盾を溶解させ、彼女を窒息させるほどの「重圧」へと変換していた。
「返して、だって? 院、君は勘違いをしている。……これらはもともと君のものではない。君が他者から奪い、溜め込み、停滞させてきた『世界の脂』だ。……私が、それを正しく流動させてあげているんだよ」
天城は、院の細い首筋に冷たい指を這わせた。
最後の一枚、漆黒のレンズがセットされる。
カチャ。
その瞬間、院の瞳孔から、まばゆいばかりの黄金の光が「噴出」した。
それは彼女の魂の核そのもの。九条院という存在を定義していた「余裕」と「豊穣」のエネルギーが、天城の肉体へと直接注ぎ込まれていく。
「――ぁあああああああああああっ!!」
院の叫びは、物理的な破壊を伴って室内に響いた。壁に飾られた名画の額縁が砕け、クリスタルのシャンデリアが音を立てて崩落する。
何もかもを所有していた令嬢。
何も失うことを知らなかった無垢な傲慢。
それが、天城という凶星に咀嚼され、胃の腑で消化されていく。
数分後。
荒れ果てたリビングの中央で、院は横たわっていた。
彼女の身を包んでいた最高級のシルクは、もはや雑巾のように色褪せ、その滑らかだった肌は、栄養を失った大地の如くひび割れている。
天城が検眼枠を外すと、彼女の瞳からはすべての「色」が消えていた。
「……空っぽだね。……ようやく、君は『自由』になれたんだ」
天城は、床に転がった数億円のダイヤモンドに目もくれず、満足げに喉を鳴らした。
彼の中に、三つ目の星――禄存の輝きが、暗い黄金の澱となって沈殿していく。
富を持たない者には決して味わえない、重厚で、芳醇な魂の味。
「……ふぅ。……次の獲物は、もっと『刺さる』やつがいいな」
天城は、生ける骸と化した院を置き去りにし、夜の静寂へと溶け込んでいった。
翌朝、資産数千億を誇る九条家の令嬢が、一夜にして精神を崩壊させ、自らの邸宅で浮浪者のような姿で発見されたというニュースは、上流階級を震撼させることになる。
星を喰らう殺人鬼による、三度目の晩餐。
その残響が、四番目の犠牲者を呼び寄せていた。
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