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『アルジュ・イマの再編 ―黄金の国、禁忌の系譜―』
第10話:『皇居侵入、紫の意志』
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「清浄の間」は、極限まで圧縮された神気の圧力で満ちていた。
三柱の女神――長女・聚楽、次女・亜美、三女・梨沙。彼女たちの背後には、この日本の繁栄を支える無数の「祈り」と「執着」が、巨大な黄金の円環となって浮かんでいる。
「退きなさい、棗 弘幸。あなたは、この国の調和を乱す致命的なバグに過ぎません」
長女・聚楽が静かに断じると、彼女の指先から放たれた白銀の結晶が、弘幸の足元から這い上がり、その肉体を「標本」のように固めようとする。
だが、弘幸は止まらない。
彼は懐から、芽衣の「毒」で綴られたあの再編原稿を突き出した。
「バグだって? ……違う。僕はこの国の『膿』を、言葉に変えて吐き出させているだけだ!」
原稿から溢れ出した紫の泥が、聚楽の結晶をドロドロと腐食させていく。その泥からは、かつて地下で見た「石にされた人々」の呻き声が、何万もの呪詛となって響き渡った。
「馬鹿な……。聖域の結界を、ただの紙片が食い破るなど……」
亜美が驚愕し、梨沙がその瞳に「未知の不純物」への好奇心と恐怖を宿す。
その三姉妹のさらに奥。
白銀の枷で吊るされた敷島宮 紫帆は、うなだれたまま動かない。彼女の肌は、あまりの神性の高まりに、もはや人間としての体温を失い、冷たい磁器のように透き通っていた。
「紫帆! 聞こえるか! 僕はここだ! ……君に、この『中身』を返しに来たんだ!」
弘幸は姉たちの攻撃を、泥の触手で強引に弾き飛ばしながら、祭壇へと駆け寄る。
宮内庁の術師たちが放つ、見えない「法力」の壁が弘幸の肉体を焼く。焦げた皮膚から、赤い血ではなく紫の粘液が滴り落ちる。
「弘幸……さん……?」
紫帆の瞼が、微かに震えた。
彼女の視界に映ったのは、かつて愛したエリート官僚の整った顔ではない。
泥にまみれ、顔には醜い継ぎ目が走り、けれどその瞳だけは狂おしいほどの情熱で燃え盛っている、一人の「男」の姿。
「逃げて……ください。私はもう、……『オカク』に飲み込まれてしまう……。このままでは、私は……あなたを消してしまう……」
「消せるものなら消してみろ! だがその前に、僕が君を『人間』に引き戻してやる!」
弘幸は祭壇に飛び乗り、聚楽たちの制止を振り切って、紫帆の身体を強く抱きしめた。
瞬間、凄まじい「拒絶」の波動が弘幸を襲う。神に触れることを許されぬ不浄なものへの、世界の免疫反応。弘幸の腕の肉が弾け、骨が軋む。
「ぐっ……、あああああ!!」
弘幸は叫びながら、左手に隠し持っていた「芽衣の毒」を、自らの口に含んだ。
そして、意識が遠のくほどの苦痛に耐えながら、紫帆の冷え切った唇に、己の唇を重ねた。
――接吻。
それは慈愛でも救済でもない。
女神の聖域に、ドロドロとした人間の絶望と、別の世界の「醜さ」を強制的に注ぎ込む、最も卑猥で神聖な「冒涜」の儀式。
その瞬間、紫帆の身体を縛っていた白銀の枷が、凄まじい音を立てて粉砕された。
彼女の瞳が、黄金から深い、ドロリとした「紫」へと染め替えられていく。
「……ああ……。熱い……。……汚れていく。……私が、壊れていく……っ」
紫帆の背中から、今まで彼女が一人で抑え込んできた「負の神性」が、巨大な、禍々しくも美しい紫の翼となって噴き出した。
その翼は、皇居の屋根を突き破り、黄金の夜空を紫の闇で塗り潰していく。
「紫帆! 行こう! 神様の席なんて最初から僕たちには必要ない!」
弘幸の腕の中で、紫帆は初めて、自らの意志で弘幸の背中に手を回した。
その指先は、もはや高貴な冷たさではなく、激しく脈打つ「女」の熱を帯びていた。
「……ええ。……一緒に行きましょう、弘幸さん。……この黄金の嘘を、……二人で、……泥に変えるために……っ」
紫帆が覚醒し、その「紫の意志」が爆発した瞬間、三姉妹は吹き飛ばされ、皇居を覆っていた「完璧な秩序」の結界が、ガラス細工のように音を立てて崩れ落ちた。
三柱の女神――長女・聚楽、次女・亜美、三女・梨沙。彼女たちの背後には、この日本の繁栄を支える無数の「祈り」と「執着」が、巨大な黄金の円環となって浮かんでいる。
「退きなさい、棗 弘幸。あなたは、この国の調和を乱す致命的なバグに過ぎません」
長女・聚楽が静かに断じると、彼女の指先から放たれた白銀の結晶が、弘幸の足元から這い上がり、その肉体を「標本」のように固めようとする。
だが、弘幸は止まらない。
彼は懐から、芽衣の「毒」で綴られたあの再編原稿を突き出した。
「バグだって? ……違う。僕はこの国の『膿』を、言葉に変えて吐き出させているだけだ!」
原稿から溢れ出した紫の泥が、聚楽の結晶をドロドロと腐食させていく。その泥からは、かつて地下で見た「石にされた人々」の呻き声が、何万もの呪詛となって響き渡った。
「馬鹿な……。聖域の結界を、ただの紙片が食い破るなど……」
亜美が驚愕し、梨沙がその瞳に「未知の不純物」への好奇心と恐怖を宿す。
その三姉妹のさらに奥。
白銀の枷で吊るされた敷島宮 紫帆は、うなだれたまま動かない。彼女の肌は、あまりの神性の高まりに、もはや人間としての体温を失い、冷たい磁器のように透き通っていた。
「紫帆! 聞こえるか! 僕はここだ! ……君に、この『中身』を返しに来たんだ!」
弘幸は姉たちの攻撃を、泥の触手で強引に弾き飛ばしながら、祭壇へと駆け寄る。
宮内庁の術師たちが放つ、見えない「法力」の壁が弘幸の肉体を焼く。焦げた皮膚から、赤い血ではなく紫の粘液が滴り落ちる。
「弘幸……さん……?」
紫帆の瞼が、微かに震えた。
彼女の視界に映ったのは、かつて愛したエリート官僚の整った顔ではない。
泥にまみれ、顔には醜い継ぎ目が走り、けれどその瞳だけは狂おしいほどの情熱で燃え盛っている、一人の「男」の姿。
「逃げて……ください。私はもう、……『オカク』に飲み込まれてしまう……。このままでは、私は……あなたを消してしまう……」
「消せるものなら消してみろ! だがその前に、僕が君を『人間』に引き戻してやる!」
弘幸は祭壇に飛び乗り、聚楽たちの制止を振り切って、紫帆の身体を強く抱きしめた。
瞬間、凄まじい「拒絶」の波動が弘幸を襲う。神に触れることを許されぬ不浄なものへの、世界の免疫反応。弘幸の腕の肉が弾け、骨が軋む。
「ぐっ……、あああああ!!」
弘幸は叫びながら、左手に隠し持っていた「芽衣の毒」を、自らの口に含んだ。
そして、意識が遠のくほどの苦痛に耐えながら、紫帆の冷え切った唇に、己の唇を重ねた。
――接吻。
それは慈愛でも救済でもない。
女神の聖域に、ドロドロとした人間の絶望と、別の世界の「醜さ」を強制的に注ぎ込む、最も卑猥で神聖な「冒涜」の儀式。
その瞬間、紫帆の身体を縛っていた白銀の枷が、凄まじい音を立てて粉砕された。
彼女の瞳が、黄金から深い、ドロリとした「紫」へと染め替えられていく。
「……ああ……。熱い……。……汚れていく。……私が、壊れていく……っ」
紫帆の背中から、今まで彼女が一人で抑え込んできた「負の神性」が、巨大な、禍々しくも美しい紫の翼となって噴き出した。
その翼は、皇居の屋根を突き破り、黄金の夜空を紫の闇で塗り潰していく。
「紫帆! 行こう! 神様の席なんて最初から僕たちには必要ない!」
弘幸の腕の中で、紫帆は初めて、自らの意志で弘幸の背中に手を回した。
その指先は、もはや高貴な冷たさではなく、激しく脈打つ「女」の熱を帯びていた。
「……ええ。……一緒に行きましょう、弘幸さん。……この黄金の嘘を、……二人で、……泥に変えるために……っ」
紫帆が覚醒し、その「紫の意志」が爆発した瞬間、三姉妹は吹き飛ばされ、皇居を覆っていた「完璧な秩序」の結界が、ガラス細工のように音を立てて崩れ落ちた。
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