夏雲 女子高生売春強要事件

あめの みかな

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第一部 夏雲(なつぐも)

第7話

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 知らない男の人に抱かれるのも、毎日続くうちにいつの間にか慣れてしまっていた。

 はじめて知らない男の人に抱かれたときは、こわくてしかたがなかった。気持ち悪くて何度も吐いたりもした。

 今のアタシはもう、そんなことはなかった。

 横須賀基地の兵士らしい、片言の日本語しか喋れない白人の男の人に抱かれたときも、アタシは何も感じなかった。

 1、5、でいい? とジェスチャーで聞かれて、うん、とうなづいてもらった15ドル。
 円にしたら1500円にもならないと知ったのは後のことで、

「これじゃオバマのTシャツも買えねーよ」

 って、美嘉に思いっきり怒られたりしたけど、あんな片言の外国人を美嘉はどうやってツーショットダイアルで捕まえたんだろう。


 レズの女の人に、はじめてペニスバンドで犯されたときも何も感じなかった。

 体を売ってお金をもらうことに、たとえそのお金を全部美嘉たちに巻き上げられるとしても、はじめたばかりのころは罪悪感があった。

 そういうことをすることはいけないことだと教わってきたから。

 だけどそんな罪悪感もアタシはもう感じなくなっていた。


 アタシはまだ15歳の高校1年生なのに、そんな女の子になってしまっていた。

 あるのはただyoshiに対する罪悪感だけ。

 付き合い始めてもうすぐ三ヶ月になるけど、yoshiはアタシのことをまだ何も知らない。



 アタシはyoshiが地区予選と練習で忙しくてなかなか会えないのが寂しくて、ときどきスライスしたレモンの差し入れを持ってバスケ部に顔を出した。

 練習中のyoshiは、わざとなのかわからないけれど、いつもジャージの左足の裾だけくるくる丸まって、めくれ上がっていた。それがアタシにはかわいくてしかたがなかった。

 シュートを打つときに左手で腰ばきのジャージを必ず引っ張って上げる癖がある。

 yoshiがそれをすると、どんなところからシュートを打っても必ず入った。

「試合中はそんなことしてる暇ないんだけどね」

 練習の休み時間、yoshiはレモンを口に入れながらそう言って笑った。

「麻衣さ、うちの部のマネージャーになってくれたらいいのに。連れてってあげるよ、インターハイ」

 バスケ部は順調に地区予選の決勝まで駒を進めていた。

 だけど、アタシは毎日好きでもない男の人に抱かれていた。

 だからアタシは考えておくねとだけ言って笑った。



 数日前から美嘉は中出しがお望みのお客さんばかり連れてくるようになっていた。

 一晩に手に入るお金が一万五千円じゃ、三人でわけるとひとり五千円しか取り分がない。オプションがついても千円か二千円しか変わらない。

 美嘉はもうそれだけじゃ物足りなくなっていた。

 中出しなら一晩に三万円。ひとりあたり一万円になる。

 中出しは一度だけさせてあげたことがあった。

 だけどあの日は安全日だったから妊娠するかもしれないなんて思いもしなかった。

 アタシは、女の子の日の周期が28日周期だから、女の子の日が始まって14日前後が危ないってことくらいは、ちゃんと頭に入っていた。

 毎日のように中出しされてたらきっといつか妊娠する。

 15ドルが1500円にもならないこともわからなかったアタシだって、そんなに馬鹿じゃなかった。

 中出しがお望みのはじめてのお客さんに抱かれて、ホテルから出てくるアタシに、出入り口で待っていた美嘉はコーラのペットボトルを投げつけた。

 アタシはペットボトルをキャッチしそこねて、コーラは少し傾斜のある道路を童話のおにぎりのように転がっていった。

 あわててそれを拾いいあげたアタシに、

「コーラで洗えば妊娠しないんだって」

 美嘉はそう言った。

「生理のときにさ、あそこの中洗う使い捨てのやつあるでしょ。あれの中身をコーラに入れ替えて洗っておきなよ」

 美嘉に3万円を渡して、そのかわりに受け取ったのはたった150円のペットボトル一本だった。

 美嘉は財布にお札をしまうと、いつもの笑顔でアタシに手を振って、自転車に乗って帰ってしまった。

 アタシはひとり、ラブホテルの出入り口に置き去りにされた。

 はじめて中出しさせてあげたとき、アタシのあそこは、たぶんはじめてのことでびっくりしたんだと思うんだけれど、精液を全部飲み込んでしまった。

 だけどその日はアタシが中に出されたと感じた量の半分以上の精液が、中出しされたそばからあそこから垂れていた。

 アタシは家に帰る途中薬局に寄ってビデを買って、帰宅するとすぐにお風呂場に直行して、美嘉の言う通りにコーラであそこの中を洗った。

 そんな日が何日か続いた。

 何日か目の朝、あそこに激痛が走って目をさましたアタシは、保険証と少ないおこづかいの入った財布を握りしめて、産婦人科にかかった。

 駅前にある佐野産婦人科クリニックで、院長の佐野という男の人の前でアタシは股を広げた。

 産婦人科では凛に会った。

 数日前に秋葉原で遊んだときとは全然違う、思い詰めた顔をしていたから、アタシは彼女に声をかけることができなかった。

「炎症を起こしてるね」

 と、赤いセルフレームのメガネをかけた、お医者さんというよりはAVの監督みたいな、ちっとも白衣の似合わない先生は言った。

 何やったの? といぶかしげに尋ねられて、

「中出しされてもコーラで洗ったら妊娠しないって聞いたから」

 と、アタシが答えると、

「いまどきそんな都市伝説みたいな迷信を信じてる子、たぶん君くらいだよ」

 先生は苦笑しながらそう言った。

「そんなにひどい炎症じゃないけれど、薬を出しておくからしばらくはセックスは控えなさい」

 そう言われても、美嘉が毎日アタシの前にお客さんを連れてくる。

 アタシにはどうしようもなかった。



 アタシは男の人がピストン運動するたびに走る熱した鉄の棒を刺されるような激痛に耐えながらセックスを繰り返していた。

 男の人たちは生でアタシに挿入すると、すぐにイッてしまう。

 10回も腰を動かさないうちにイッてしまう人もいた。

 早く出ちゃう人って早漏っていうんだっけ。
 アタシはそれだと思ってた。

「麻衣ちゃんは名器だね」

 そしたら、そんなことを言った男の人がいた。

 毎日のように知らない男の人に抱かれてるから、もう顔と名前が一致していなかったけれど、確かパパくらいの年のいかにも管理職って顔をしたサラリーマンだった。

「ミミズ千匹とか数の子天井とかって言葉、聞いたことない?」

 アタシは首を横に振った。

「女の子のあそこも男のが人によって違うみたいに違うんだよ」

 確かに、これまでアタシを買った男の人たちのペニスは同じものがひとつもなかった。大きさが違っていたり、形が違っていたりした。

「ミミズ千匹は、その名の通り、あそこの中のヒダヒダがミミズが千匹はいずりまわってるみたいになってて」

 アタシは自分のあそこの中にミミズが千匹はいずりまわってるのを想像してぞっとした。

「数の子天井っていうのは、正常位で挿入したときに男側から見ると天井にあたるところが数の子みたいにぷつぷつしてるのを言うんだ」

 今度はあんまりぞっとはしなかった。

「アタシは?」

 と尋ねると、

「麻衣ちゃんのは数の子天井だね」

 そう言われて、少しほっとした。
 いくら名器でもミミズみたいなのはイヤだった。

「アタシの中、そんなに気持ちいいの?」

「最高だったよ」

 頭を撫でられた。
 誉められて、悪い気はしなかった。

 インターハイに行けたら、ご褒美にyoshiに生でさせてあげよう。
 その頃にはきっと、もう炎症も治ってる。

 ふたりで気持ちいいことをいっぱいして、旅行に行くわけじゃないけれどどこか遠くまで飛んでいってしまえるような、そんなエッチをyoshiとしたい。

 アタシはそんなことを考えながら、また男の人に抱かれた。



 その日、いつものようにお客さんとの待ち合わせ場所に向かうと美嘉たちがアタシを待っていて、薬袋を渡された。

 メイだけじゃなくて凛もいっしょにいた。

「何これ」

「ピルだよ」

 と美嘉は言った。

 袋から薬を取り出すと、「アンジュ28」という商品名が書かれていた。

「妊娠とかされたら、売り物にならなくなるからね」

 メイがそう続けた。

「凛から聞いたよ。あんた本当にコーラであそこ洗って、炎症起こしちゃったんだってね」

 美嘉が笑いながら言った。

「いまどきそんな迷信信じるの、あんたくらいだよ」

 ねー、と言って、美嘉とメイはきゃははと笑った。

 ピアスの穴をあけたいのに、あけたら耳たぶから白い糸が出てきて、それを引っ張ったらそれは実は視神経で、失明する、なんていう都市伝説を信じてて、ずっとピアスをあけられないでいるくせに、美嘉はアタシを馬鹿にした。

 美嘉とメイは凛にひとりで産婦人科に行かせて、アタシのためのピルを処方させてもらったらしかった。

 だからこの間、凛が産婦人科にいたのだ、とアタシは納得した。

 恥ずかしかった、と凛は言った。

「飲んでから行きなよ」

 美嘉はアタシにそう命令した。

 ピルはお医者さんの処方箋がなければ手に入れることはできないけれど、だからと言って人によって異なる成分のものが処方されるわけじゃなかった。

 だから凛が処方されたピルをアタシが飲んでもちゃんと効果はある。

「でも……」

 凛はおそるおそる美嘉に反論をした。

 ピルには服用の仕方にいろいろと決まりがあるらしかった。

 たとえば、飲み始める時期について。

「生理がきた日からのみはじめなきゃ意味がないんだって」

 それから毎日欠かさず飲み続けなければならないそうだ。
 別に毎日決められた時間に飲む必要はないけれど、歯を磨いたら飲むようにするとか、お昼ご飯の前に飲むようにするとか、飲み忘れたりしないように自分でピルを飲む時間を決めておいたほうがいいそうだ。

 もし飲み忘れてしまったら次の日は必ず二錠飲むように、凛は佐野というあのAVの監督みたいな産婦人科医から説明を受けたそうだ。

 凛は生理痛がひどいから、という理由で産婦人科にかかったらしかった。
 ピルには生理痛を和らげる効果もあるらしかった。

 他にもニキビが出来にくくなったり、逆に乳癌のリスクが高まったりするらしい。リスクが高まるといっても、煙草を吸うことにくらべたらほんのわずかなのだそうだ。

 薬袋の中のピルは28粒、ちょうど4週間分あって、どれを飲んでもいいわけじゃなくて、飲む順番があるそうだった。
 そのうちの最後の何粒かは飴玉で、毎日規則正しく服用するためのダミーのピルなのだそうだ。

 飲み方によっては、女の子の日をずらしたりなんてこともできるらしい。
 だけど今のアタシが飲んでもその効果は得られない。

「何それ。全然使えないじゃない」

 美嘉が吐き捨てるように言った。

「麻衣、あんた前に生理が来たのいつ?」

 メイがアタシに聞いた。

「2週間前。もうすぐ排卵日」

 アタシが答えると、美嘉は足元に転がっていた空き缶を蹴り飛ばして、凛がひぃと悲鳴をあげてかがんだ。

「どうする? この子が今度生理がくるまで中出しのお客さんはとらないようにする?」

 メイが美嘉に尋ねた。

「だめよ。それじゃ全然お金にならないじゃない」

 美嘉はあくまでアタシに中出しのお客さんの相手をさせたいらしかった。

「でももし麻衣ちゃんが妊娠しちゃったらどうするの?」

 凛が尋ねる。

「産むなんてことはまずないと思うけど」

 凛はアタシの顔を伺いながら、

「中絶ってすごくお金がかかるんでしょ。10万くらいかかるって聞いたことがあるよ」

 そう言った。

 アタシは、自分のことなのに、まるで他人事のように感じていた。

 いつか妊娠してしまうかもしれない。
 アタシが妊娠しても誰も責任をとってはくれないだろう。

 そんなことはわかっていたけれど、なんだかどうでもいいことのように思えていた。

「妊娠したって別にいいじゃない」

 美嘉が言った。

「安定期に入るまでは男とセックスしたら流産することもあるらしいし。そしたら一石二鳥っていうか」

 アタシはこのとき、本当に、美嘉から同じ人間として扱われていないということに、ようやく気付いた。

 アタシは美嘉にとってお金を稼ぐ道具だった。

 それ以上でもそれ以下でもない、ただそれだけの存在だった。



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