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スピンオフ 二代目花房ルリヲ「イモウトパラレル」
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ぼくと妹は警察署内の留置場で一晩を過ごすことになった。
名古屋には監獄居酒屋なんてものがあるけれど、ろうやに入れられたのははじめての経験だった。
明日、妹とぼくから詳しい事情を聞きたいと安田刑事は言い、明後日、警察病院で妹の精密検査を行いたいと戸田刑事は言った。
ぼくはいくつかの書類に保護者としてサインをし、拇印を押した。
二人組の刑事が去ると、耳が痛いほどの静寂がそこにはあった。
留置場にはぼくたちの他に誰も入れられてはいなかった。
ぼくたちは疲れて少しだけ眠ってしまった。
真夜中、ふと目を覚ますと、戸田刑事が、まるで見張りのようにぼくたちのろうやの扉にもたれかかって座っていた。
戸田刑事はろうやにもたれかかり、ガチャピンのかわいらしいカバーがつけられたニンテンドーDSを開くと電源を入れた。ポンポンポンと電源を入れた時になるあの音が聞こえた。
ぼくと妹は一体何が始まるのかと、その画面を覗きこんだ。
任天堂からのゲームを遊ぶ上での注意事項が表示された後、見慣れないローディングと英語表記された画面が続き、ゲームソフトのタイトルがずらりと並ぶ。
「それ、マジコン、ですか」
と、ぼくは尋ねた。
「そうだよ、これは有名なR4とかじゃなくて一番使い方が簡単なTTDS」
戸田刑事はさらりと答えた。
マジコンについてぼくはあまり知識がある方ではないのだけれど、ニンテンドーDS用のものなら多少知識があった。
それは専用ソフトと同じ形をしたカートリッジに、マイクロSDカードを差し込む。
マイクロSDカードに、ゲームソフトから専用の機械でパソコンに吸い出したロムと呼ばれるゲームデータや、海外のイリーガルなサイトにごろごろと転がっていてダウンロードし放題なそのロムをパソコンから移すことで、新作ソフトが発売日に無料で手に入る、定価でソフトを購入するのが馬鹿馬鹿しくなるような代物だ。
マジコンのすごいところは、DS用のソフトだけでなく、エミュレーターと呼ばれる他のゲームハードを再現するソフトとロムさえ用意すればファミコンやスーパーファミコンのゲームを遊ぶことができるということだ。
ニンテンドーDS用のスーパーファミコンのエミュレーターは動作確認されたロムも少なくまだまだ発展途上といったところだが。
他にもMP3プレイヤーとしての機能や、youtubeやニコニコ動画、DVDなどの映像を専用の変換ソフトを使うことで鑑賞することが可能だ。
まさに魔法のツールといったところだが、
「夏に任天堂とか大手のゲームメーカーがマジコン販売業者を訴えて、摘発されちゃったでしょ」
大手をふってインターネットで売買されていたが、今では入手が難しくなってしまった。
「そのとき押収したのがこれ」
戸田刑事はスーパーファミコンのソフトであるドラゴンクエスト3を起動した。
「犯罪、ですよね?」
「いいのいいの、俺キャリア組だから」
すぎやまこういちのメインテーマが留置場に響きわたる。
「今からさ、俺ここで独り言言うから」
と、ぼうけんのしょをえらびながら戸田刑事は言った。
「なんてね、こういう台詞言ってみたかっただけなんだけど」
戸田刑事は、ナツオ、レベル21、ダーマ、というぼうけんのしょを選んだ。
「さっきは戸田刑事にあわせてたけど」
冒険は、聖なる神殿の入り口から再開された。
「神隠しにあった者が、その者が存在しないはずの世界に迷いこむこと、迷いこむという表現はおかしいな、召喚されるというほうが適切かもしれない」
コマンド、じゅもん、ナツオ、ルーラ、ジパング、戸田刑事は十字キーとボタンを操作して、神殿から極東の島国に一瞬で移動した。
島国はとても小さく、すぐそばに勇者たちが所有する船がある。
「物事にはすべて原因があり結果がある。
俺は、麻衣ちゃんがただこちら側に迷いこんでしまったとそういう風には思えないんだ。
この世界がそう望んだからだと思うんだ。
何らかの理由で、この世界に麻衣ちゃんが不在であること、それがこの世界にとって良くないことだから、麻衣ちゃんは召喚された。
俺はそう考えている」
戸田刑事と同じ名の勇者たちが乗り込んだ船は、大海原を北へ向かう。
「ひょっとしたら、学くんと麻衣ちゃんの、ボクとキミの物語が、この世界の運命を担っているのかもしれない」
戸田刑事は、はははと笑って、「ちょっとセカイ系の観すぎかな」と口にした。
セカイ系とは、ライトノベルやアニメなどでは今ではありふれた、戸田刑事の言葉通りボクとキミの物語が、この世界の運命を担ってしまうようなジャンルの物語を指す。
「だから俺はきみたちを安田さんの思い通りにさせるつもりはないんだ」
大海原の真ん中には浅瀬があった。
浅瀬の手前に船を停めた勇者ナツオは道具袋の中から「かわきのつぼ」を取り出すと、それを海に落とした。
海面はみるみるうちに干上がり、浅瀬であったその場所に小さな島が浮かび上がる。
島には祠があり、その中には宝箱があり、世界中のどんな鍵のかかった扉も開けてしまう、「さいごのかぎ」が入っている。
ナツオは宝箱を開けた。
なんと さいごのかぎがはいっていた!
ナツオはさいごのかぎをふくろにしまった
その鍵は、ろうやさえ開けてしまう。
戸田刑事はニンテンドーDSをぱたんと閉じると、ろうやをろうやたらしめる鉄の棒に手をかけて立ち上がり、ぼくたちに顔を向けた。手には鍵が握られていた。
「これがきみたちのさいごのかぎってわけ」
そう言うと彼はぼくたちをとじこめるろうやの鍵を開けてしまった。
「行きなよ。安田さんに見付からないようにね」
そう言った。
「いいんですか、こんなことして」
ぼくの問いに戸田刑事が答える。
「きみたちをここに入れるよう指示された所轄の刑事が鍵をかけわすれた。
だからきみたちは脱走した。そういう筋書きじゃだめかな。
明日の朝には安田さんがきみたちの不在に気付く。それまでになるべく遠くに逃げるといい」
ぼくは妹の顔を見た。
「行こう、お兄ちゃん。麻衣、お兄ちゃんといっしょならどこへだって行くから」
だから6日目の今日、ぼくたちは留置場を脱走した。
名古屋には監獄居酒屋なんてものがあるけれど、ろうやに入れられたのははじめての経験だった。
明日、妹とぼくから詳しい事情を聞きたいと安田刑事は言い、明後日、警察病院で妹の精密検査を行いたいと戸田刑事は言った。
ぼくはいくつかの書類に保護者としてサインをし、拇印を押した。
二人組の刑事が去ると、耳が痛いほどの静寂がそこにはあった。
留置場にはぼくたちの他に誰も入れられてはいなかった。
ぼくたちは疲れて少しだけ眠ってしまった。
真夜中、ふと目を覚ますと、戸田刑事が、まるで見張りのようにぼくたちのろうやの扉にもたれかかって座っていた。
戸田刑事はろうやにもたれかかり、ガチャピンのかわいらしいカバーがつけられたニンテンドーDSを開くと電源を入れた。ポンポンポンと電源を入れた時になるあの音が聞こえた。
ぼくと妹は一体何が始まるのかと、その画面を覗きこんだ。
任天堂からのゲームを遊ぶ上での注意事項が表示された後、見慣れないローディングと英語表記された画面が続き、ゲームソフトのタイトルがずらりと並ぶ。
「それ、マジコン、ですか」
と、ぼくは尋ねた。
「そうだよ、これは有名なR4とかじゃなくて一番使い方が簡単なTTDS」
戸田刑事はさらりと答えた。
マジコンについてぼくはあまり知識がある方ではないのだけれど、ニンテンドーDS用のものなら多少知識があった。
それは専用ソフトと同じ形をしたカートリッジに、マイクロSDカードを差し込む。
マイクロSDカードに、ゲームソフトから専用の機械でパソコンに吸い出したロムと呼ばれるゲームデータや、海外のイリーガルなサイトにごろごろと転がっていてダウンロードし放題なそのロムをパソコンから移すことで、新作ソフトが発売日に無料で手に入る、定価でソフトを購入するのが馬鹿馬鹿しくなるような代物だ。
マジコンのすごいところは、DS用のソフトだけでなく、エミュレーターと呼ばれる他のゲームハードを再現するソフトとロムさえ用意すればファミコンやスーパーファミコンのゲームを遊ぶことができるということだ。
ニンテンドーDS用のスーパーファミコンのエミュレーターは動作確認されたロムも少なくまだまだ発展途上といったところだが。
他にもMP3プレイヤーとしての機能や、youtubeやニコニコ動画、DVDなどの映像を専用の変換ソフトを使うことで鑑賞することが可能だ。
まさに魔法のツールといったところだが、
「夏に任天堂とか大手のゲームメーカーがマジコン販売業者を訴えて、摘発されちゃったでしょ」
大手をふってインターネットで売買されていたが、今では入手が難しくなってしまった。
「そのとき押収したのがこれ」
戸田刑事はスーパーファミコンのソフトであるドラゴンクエスト3を起動した。
「犯罪、ですよね?」
「いいのいいの、俺キャリア組だから」
すぎやまこういちのメインテーマが留置場に響きわたる。
「今からさ、俺ここで独り言言うから」
と、ぼうけんのしょをえらびながら戸田刑事は言った。
「なんてね、こういう台詞言ってみたかっただけなんだけど」
戸田刑事は、ナツオ、レベル21、ダーマ、というぼうけんのしょを選んだ。
「さっきは戸田刑事にあわせてたけど」
冒険は、聖なる神殿の入り口から再開された。
「神隠しにあった者が、その者が存在しないはずの世界に迷いこむこと、迷いこむという表現はおかしいな、召喚されるというほうが適切かもしれない」
コマンド、じゅもん、ナツオ、ルーラ、ジパング、戸田刑事は十字キーとボタンを操作して、神殿から極東の島国に一瞬で移動した。
島国はとても小さく、すぐそばに勇者たちが所有する船がある。
「物事にはすべて原因があり結果がある。
俺は、麻衣ちゃんがただこちら側に迷いこんでしまったとそういう風には思えないんだ。
この世界がそう望んだからだと思うんだ。
何らかの理由で、この世界に麻衣ちゃんが不在であること、それがこの世界にとって良くないことだから、麻衣ちゃんは召喚された。
俺はそう考えている」
戸田刑事と同じ名の勇者たちが乗り込んだ船は、大海原を北へ向かう。
「ひょっとしたら、学くんと麻衣ちゃんの、ボクとキミの物語が、この世界の運命を担っているのかもしれない」
戸田刑事は、はははと笑って、「ちょっとセカイ系の観すぎかな」と口にした。
セカイ系とは、ライトノベルやアニメなどでは今ではありふれた、戸田刑事の言葉通りボクとキミの物語が、この世界の運命を担ってしまうようなジャンルの物語を指す。
「だから俺はきみたちを安田さんの思い通りにさせるつもりはないんだ」
大海原の真ん中には浅瀬があった。
浅瀬の手前に船を停めた勇者ナツオは道具袋の中から「かわきのつぼ」を取り出すと、それを海に落とした。
海面はみるみるうちに干上がり、浅瀬であったその場所に小さな島が浮かび上がる。
島には祠があり、その中には宝箱があり、世界中のどんな鍵のかかった扉も開けてしまう、「さいごのかぎ」が入っている。
ナツオは宝箱を開けた。
なんと さいごのかぎがはいっていた!
ナツオはさいごのかぎをふくろにしまった
その鍵は、ろうやさえ開けてしまう。
戸田刑事はニンテンドーDSをぱたんと閉じると、ろうやをろうやたらしめる鉄の棒に手をかけて立ち上がり、ぼくたちに顔を向けた。手には鍵が握られていた。
「これがきみたちのさいごのかぎってわけ」
そう言うと彼はぼくたちをとじこめるろうやの鍵を開けてしまった。
「行きなよ。安田さんに見付からないようにね」
そう言った。
「いいんですか、こんなことして」
ぼくの問いに戸田刑事が答える。
「きみたちをここに入れるよう指示された所轄の刑事が鍵をかけわすれた。
だからきみたちは脱走した。そういう筋書きじゃだめかな。
明日の朝には安田さんがきみたちの不在に気付く。それまでになるべく遠くに逃げるといい」
ぼくは妹の顔を見た。
「行こう、お兄ちゃん。麻衣、お兄ちゃんといっしょならどこへだって行くから」
だから6日目の今日、ぼくたちは留置場を脱走した。
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