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第58話 なぜ人は皆、王や神になりたがるのか
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「先生はさ、どこまでつかんでるの?
邪馬台国のことじゃなくて、今のこの世界の現状について」
邪馬台国についてはすべて調べ終わっていることは、彼にはわかっていたのだろう。
そして、テラだけでなくリバーステラの危機にも居合わせる形になった自分ならば、本来の役割だけでなく世界の危機にも目を配っているだろうとわかっていたのだ。
その通りだったが、買い被られたものだった。
いや、信頼されているということだろうか。
「そうですね。
とりあえず、雨野くんが持っている『那由他の力』を超える『不可思議の力』を持つ者がいます」
「那由他よりも0が4個多いってことは相当だね」
「えぇ、それともうひとつ、その『不可思議の力』を持つ者についてですが」
君の兄のムスブだと伝えるべきだろうか?
「古代のリバーステラに匣と呼ばれる超小型大容量記憶端末をもたらした存在が、月の審神者のお三方に取り憑いていたのですが」
「アンサーってやつらだよね?」
「はい。ですが彼らはすでにその存在が消滅しています。
『不可思議の力』を持つ者が消したようです」
「そっか……
先生、ぼくらはさ、まだ迦具夜って人が、アンサーに洗脳されてると思ってたんだ。
だから、今向こうの部屋で寝てる女の子が、あ、ぼくの彼女なんだけどね、」
確か、この世界の大賢者ピノア・オーダー・ダハーカだ。
棗は、かつては秋月レンジやその妹のリサの担任でもあったから、父・サトシとも面識があった。
「ピノアっていうんだ。あとで紹介するね。
ピノアは、世界の理を変える力の干渉を受けない特異点の力を持ってるんだ。
だから、迦具夜さん対策で、ぼくらはその力を世界規模に拡大させて、さらにアンサーの存在だけをそこから除外しようと思ってたんだけど……
迦具夜さんはもうアンサーには洗脳されてなくて、千古ちゃんや馬岐耳ちゃんみたいに普通の女の子になってるってことだよね」
「えぇ、だから、現状この世界にとって脅威となる存在は、『不可思議の力』を持つ者だけです」
「ぼくはさ、世界の理を変える力なんてものは存在しちゃいけないと思ってるんだけど、存在自体を消しちゃうのはだめかな?
世界全体を特異点にしても、力の存在自体を消しても、どちらにせよ『不可思議』の人を無力化できるわけなんだけど」
「今だけを見て、この世界と私たちの世界だけのことを考えたら、力の存在自体を消した方がいいでしょうね。
ですが、匣をもたらしたアンサーという存在は、何万光年も彼方の宇宙で、何十万年も銀河間戦争を続けている、3つの巨大勢力といくつかの少数勢力、その少数勢力のひとつに過ぎません。
十年後か百年後かあるいは千年後か、いつになるのかはわかりませんが、いずれは我々の天の川銀河もその戦争に巻き込まれます」
「そのときに、力があれば、戦争自体を終わらせられる?」
棗はうなづいた。
歴史だけを見れば人類は愚かだ。
滅んでしまってもかまわないとさえ思う。
だが、棗が知る歴史は、「我々」や「匣」、「アンサー」といった存在がいたために狂わされた歴史だ。
それらの存在がなくなった今、ようやく人類は、人類としての歴史を始めようとしている。
未来にはまだ希望がある。
だから力は今、消すべきではない。
そのことだけは絶対に伝えなければいけなかった。
「宇宙規模で、戦争という存在そのものは消せないのかな……」
「どうでしょうね……私が知る限り、匣や力を手にした者たちは、皆、力に溺れ、世界の王になろうとした者ばかりです。前例がないので、なんとも」
「なんでみんな王とか神になりたがるのかな」
「偉くなりたいんですよ、人は。
中途半端に偉くなると苦労が堪えませんが」
「総理大臣とか、日本のトップだよね? でも、すごい大変そうだけど」
「日本のトップは総理大臣じゃないですから。
政治家は官僚たちの言いなりに過ぎません。
法律や政策を考えるのは官僚たちですから。
それに、歴史には常に、表舞台に上がらない存在がいるんですよ」
「ぼくはよく知らないけど『我々』って奴らみたいな?」
「そうですね。『我々』という組織は確かにリバーステラの王であり、テラの神でした。
ですが、『我々』さえも『匣』に操られていたに過ぎません」
「その『匣』も『アンサー』がもたらしたものだもんね。
アンサーは銀河間戦争の少数勢力だけど、その少数勢力にも上下関係はあるだろうし、さらに上の奴がいて、最後には何にたどり着くのかな……」
きっと、強大な力を持ちながらも、選民意識の塊のような、神を気取る愚かな者が玉座に座っているだけだろう。
「世界の理を変える力の中で、雨野くんの持つ力は三番目に強い力です。
二番目が不可思議、そして最も強い力が無量大数……」
そのとき、ふたりの頭に、直接語りかけてくるような声が聞こえた。
ふたりだけではなかった。
ピノアにも、千古にも、馬岐耳にも、麻衣にも聞こえた。
邪馬台国のことじゃなくて、今のこの世界の現状について」
邪馬台国についてはすべて調べ終わっていることは、彼にはわかっていたのだろう。
そして、テラだけでなくリバーステラの危機にも居合わせる形になった自分ならば、本来の役割だけでなく世界の危機にも目を配っているだろうとわかっていたのだ。
その通りだったが、買い被られたものだった。
いや、信頼されているということだろうか。
「そうですね。
とりあえず、雨野くんが持っている『那由他の力』を超える『不可思議の力』を持つ者がいます」
「那由他よりも0が4個多いってことは相当だね」
「えぇ、それともうひとつ、その『不可思議の力』を持つ者についてですが」
君の兄のムスブだと伝えるべきだろうか?
「古代のリバーステラに匣と呼ばれる超小型大容量記憶端末をもたらした存在が、月の審神者のお三方に取り憑いていたのですが」
「アンサーってやつらだよね?」
「はい。ですが彼らはすでにその存在が消滅しています。
『不可思議の力』を持つ者が消したようです」
「そっか……
先生、ぼくらはさ、まだ迦具夜って人が、アンサーに洗脳されてると思ってたんだ。
だから、今向こうの部屋で寝てる女の子が、あ、ぼくの彼女なんだけどね、」
確か、この世界の大賢者ピノア・オーダー・ダハーカだ。
棗は、かつては秋月レンジやその妹のリサの担任でもあったから、父・サトシとも面識があった。
「ピノアっていうんだ。あとで紹介するね。
ピノアは、世界の理を変える力の干渉を受けない特異点の力を持ってるんだ。
だから、迦具夜さん対策で、ぼくらはその力を世界規模に拡大させて、さらにアンサーの存在だけをそこから除外しようと思ってたんだけど……
迦具夜さんはもうアンサーには洗脳されてなくて、千古ちゃんや馬岐耳ちゃんみたいに普通の女の子になってるってことだよね」
「えぇ、だから、現状この世界にとって脅威となる存在は、『不可思議の力』を持つ者だけです」
「ぼくはさ、世界の理を変える力なんてものは存在しちゃいけないと思ってるんだけど、存在自体を消しちゃうのはだめかな?
世界全体を特異点にしても、力の存在自体を消しても、どちらにせよ『不可思議』の人を無力化できるわけなんだけど」
「今だけを見て、この世界と私たちの世界だけのことを考えたら、力の存在自体を消した方がいいでしょうね。
ですが、匣をもたらしたアンサーという存在は、何万光年も彼方の宇宙で、何十万年も銀河間戦争を続けている、3つの巨大勢力といくつかの少数勢力、その少数勢力のひとつに過ぎません。
十年後か百年後かあるいは千年後か、いつになるのかはわかりませんが、いずれは我々の天の川銀河もその戦争に巻き込まれます」
「そのときに、力があれば、戦争自体を終わらせられる?」
棗はうなづいた。
歴史だけを見れば人類は愚かだ。
滅んでしまってもかまわないとさえ思う。
だが、棗が知る歴史は、「我々」や「匣」、「アンサー」といった存在がいたために狂わされた歴史だ。
それらの存在がなくなった今、ようやく人類は、人類としての歴史を始めようとしている。
未来にはまだ希望がある。
だから力は今、消すべきではない。
そのことだけは絶対に伝えなければいけなかった。
「宇宙規模で、戦争という存在そのものは消せないのかな……」
「どうでしょうね……私が知る限り、匣や力を手にした者たちは、皆、力に溺れ、世界の王になろうとした者ばかりです。前例がないので、なんとも」
「なんでみんな王とか神になりたがるのかな」
「偉くなりたいんですよ、人は。
中途半端に偉くなると苦労が堪えませんが」
「総理大臣とか、日本のトップだよね? でも、すごい大変そうだけど」
「日本のトップは総理大臣じゃないですから。
政治家は官僚たちの言いなりに過ぎません。
法律や政策を考えるのは官僚たちですから。
それに、歴史には常に、表舞台に上がらない存在がいるんですよ」
「ぼくはよく知らないけど『我々』って奴らみたいな?」
「そうですね。『我々』という組織は確かにリバーステラの王であり、テラの神でした。
ですが、『我々』さえも『匣』に操られていたに過ぎません」
「その『匣』も『アンサー』がもたらしたものだもんね。
アンサーは銀河間戦争の少数勢力だけど、その少数勢力にも上下関係はあるだろうし、さらに上の奴がいて、最後には何にたどり着くのかな……」
きっと、強大な力を持ちながらも、選民意識の塊のような、神を気取る愚かな者が玉座に座っているだけだろう。
「世界の理を変える力の中で、雨野くんの持つ力は三番目に強い力です。
二番目が不可思議、そして最も強い力が無量大数……」
そのとき、ふたりの頭に、直接語りかけてくるような声が聞こえた。
ふたりだけではなかった。
ピノアにも、千古にも、馬岐耳にも、麻衣にも聞こえた。
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