「もしイセ。」~もしも、えっちなことをしてる途中で異世界転移しちゃったら。【異世界転移奇譚 NAYUTA 1,2】~

あめの みかな

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【第五部 異世界転移奇譚 NAYUTA 2 - アトランダム -(RENJI 5)】もしもしっくすないんしてる途中で異世界転移しちゃったら。

第84話

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秋月リサは、エウロペ城のバルコニーにいた。

すでに日は沈んでおり、この場所から見渡せるという地平線の彼方は見えなかったが、聞いていた通り、夜空には月が三つ浮かんでおり、その形はひとつひとつが三日月、半月、満月と違っていた。
千古は三つの月のうちのひとつ、ラーガルに1800年も封印されていたそうだが、どれがその月なのだろうか。

そして、聞いていた通り、この世界の空気は伊勢神宮の森林やどんなパワースポットよりも澄んでいた。
エーテルが存在するからだろう。
そして、排気ガスなどの大気を汚す物質がないからだろう。

かつてこの世界は放射性物質のゴミ処理場にされており、放射性物質がエーテルにとりついたダークマターという負の魔素も存在したそうだが、今はそれももうない。

やっとこの世界にこれた。

リサは、澄んだ空気を思いっきり吸い込み吐き出した。
嬉しかった。涙が出るくらいに。
本当にこの世界に来れた。
兄がいるこの世界に。

やっと、わたしが本当にしたかったことができる。


「確か、ステラさんやピノアちゃんのお父さんは、人工的に産み出された魔人だったよね……」

魔人か……と、リサは呟いた。

彼女は、父や兄を尊敬していた。
そして、ずっとピノアに憧れていた。

でも、本当に自分にできるだろうか?

彼女がこれからしようとしていることは、父も兄も、そしてピノアも、この世界の誰もしたことがないことだった。

そして、とても危険なことだった。
失敗すれば、命を失うかもしれないことだった。

いや、出来なくてもいい。
死んでしまってもいい。
死ぬことを恐れて試すことをしなければ、必ずもとの世界に帰ったときに後悔する。
試してみなければ、何のためにこの世界に来たのかわからない。
それはこの世界でしかできない。
あの世界には何の未練もない。帰れなくてもいい。

かつて彼女が書き記し、兄の部屋の押し入れに封印したもののピノアが見つけてしまった秋月文書。
それはピノアや父、雨野家の人たちから聞いた話を元に、異世界を全く知らない彼女の観点から様々なことを夢想したものであった。

この世界に生まれた者は、この世界のことしか知らない。
しかし、この世界にとって異世界にあたる世界に生まれた父は、ふたつの世界を知っていた。
だから、この世界には誰も思いつきもしなかった技、魔法剣を産み出そうとした。
父はそれを実現できなかったが、兄がそれを実現させた。

父や兄は、リサから見てもすごい人だった。
存在することも知らなかった異世界に突然異転移し、右も左もわからない中で右往左往しながらも仲間と共に旅をし、何度も危険な目に合いながらも、この世界だけではなく自分たちが生まれた世界までをも救った。

だが、自分が異世界に転移したなら、きっともっとすごいことができる。
リサはずっとそう考えていた。
だから、異世界の話をたくさん聞いた。
忘れないようにメモしノートにまとめた。
自分がいつ異世界に転移してもいいように、あらゆる準備をした。

だが、大人になるにつれ、それは小説や漫画を読んだときに自分ならもっとおもしろいものが書けると思うような、何の実績もない自分を過大評価しているだけに過ぎないのではないか、と気づいた。
小説や漫画なら、実績は新人賞を取るとか連載するとか書籍化するといったことだ。
実際に書きはじめたら、自分の方が、と思っていた作品よりはるかに出来の悪いものができる。
そこでようやく自分には才能はないことや、仮にあったとしても相当の努力をしなければいけないのだとわかる。
週刊少年漫画雑誌に、一度だけ、3ヶ月だけ連載し、打ち切られ、二度とその作者の名前を見ることがないような漫画家も、自分よりはるかに才能があり、はるかに努力をした人なのだ。

芸人なら漫才やコントの大会で優勝するとか、決勝までいくとか、ネタ番組でブレイクするとかだ。
一発屋と呼ばれるような、リズムネタでブレイクしバラエティー番組を一周した後はその後全くテレビで見ることがないような芸人も、才能があり努力をしたからこそ、そこまでいけた。

そして、運もあったのだろう。

それに気づいたとき、異世界に行くことすらできない自分には、父や兄よりもすごいことなどできないとリサは理解した。
だから、中二病を卒業できた。

だが、完治はしなかった。
目の前に自分も異世界に行けるチャンスを突きつけられたとき、彼女はためらうことなくそれに乗ろうと思った。
そして、異世界に行くのは大人になってしまった今の自分ではなく、身体だけでもあの頃の自分が良いと思った。

あの頃の身体なら、きっとしたいと思っていたことができる、と。

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