「もしイセ。」~もしも、えっちなことをしてる途中で異世界転移しちゃったら。【異世界転移奇譚 NAYUTA 1,2】~

あめの みかな

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【第五部 異世界転移奇譚 NAYUTA 2 - アトランダム -(RENJI 5)】もしもしっくすないんしてる途中で異世界転移しちゃったら。

第147話

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「私はレンジ・フガク・ダハーカでもなければ秋月レンジでもない。すべてを喰らう者だということだ」

 リサを殺したという男は、

「だが、名前がなければ不便だな」

 レンジの顔と声で淡々とそう語った。
 許せなかった。
 レンジの魂はその男の言う通り、もはやどこにもなかった。
 リサの死体はあるが、ここにいるはずのステラはいない。死体も魂もどこにもいない。
 この男がステラまでをも喰らったのだとしたら、

「あんたの名前なんかどうだっていい」

 そう考えると、憎悪や殺意がおさえきれなかった。

「そうだな。『喰人(くらうど)』のクラウジャとでも名乗ろうか。すべてを喰らう者が、人の姿を手にしたのが『喰人』だ」

 だが、その男はただ、玉座に座りながら、片手で遊ぶようにエーテルを凝縮し、結晶化させると、また膨張させていた。
 前の世界のアンフィスのようにエーテルから武器を生成し、その形状を変化させた。
 リサの死体が鋭利な刃物だけではなく、鈍器や様々な武器によって損壊していたのはそういうことか、とピノアは思った。

「雨野ムスブとかいったかな。我が同胞たちの存在を消してくれたのは。まさか大厄災の魔法や世界の理を変える力以外にも、俺たちの存在を消す力があったとは驚いた。オオマガツヒにヤソマガツヒと言ったか。すごいものだな、神人という存在の力というものは」

 クラウジャはにやりと笑い、

「だが、その神人ももはやいない。秋月ピノア、いや、ピノア・オーダー・ダハーカか。ふたりを元の世界に帰し、肉体や魂の時を戻し、力を得る前どころか、幼子にまで戻してしまったのは誤算だったな」

 そう言った。

「世界が命を最優先しても、あの世界に存在する我が同胞たちは違うぞ」

 と。

「あの世界に、あんたたちは存在しないはずだよ」

 ピノアは反論したが、すぐにクラウジャの言葉の意味に気づいた。
 すべてを喰らう者は、バクテリアがエーテルによって進化した存在だ。
 バクテリアとエーテルのふたつが、リバーステラに同時に存在した時期があった。
 ピノアがリバーステラに転移してからの三年ほどの間だ。だから、ピノアはすべての匣を再生する白き匣の存在を消滅させることができた。だからピノアはムスブを封印できた。
 三年もあれば、バクテリアがエーテルを取り込み、すべてを喰らう者に進化していたとしてもおかしくなかった。細菌はウィルスと違い、宿主を必要とせず、独自に繁殖が可能だからだ。
 そして、問題はそれだけではなかった。

「お前が雨野ムスブを封印することによって、あの世界のエーテルは失われた。だが、その歴史は間もなく変わる。いや、すでに変わっているか」

 リバーステラでエーテルを使いこなせるのはピノアだけだ。
 2023年のピノアは、ムスブのナユタへの憎悪や殺意を消すために、ほんのすこしのエーテルでバクテリアをすべてを喰らう者へと進化させ、それをさらにダークマターイーターへと進化させるか、すべてを喰らう者がすでに存在することに気づき、やはりダークマターイーターへと進化させるだけだろう。
 大量のエーテルが世界には残り、バクテリアはそれを取り込み、すべてを喰らう者はさらに繁殖を続ける。

 ピノアが歩んできた歴史では、タカミと真依が世界の理を変える力によって、リバーステラが抱える様々な問題を解決した。
 だがそれは2021年の段階で抱えていた問題にすぎない。
 すべてを喰らう者の存在は、そこには含まれてはいなかった。

 エーテルによってスマホなどの充電が必要な家電の類いが、大気充電されることがSNSを中心に話題になり、エーテルの研究が行われ始めていたが、2023年にエーテルの消失と共に研究は途絶えていた。
 ピノアは、ムスブの封印のためにリバーステラのエーテルのすべてを使い果たした結果だったが、今考えればあのときすでにエーテルの大半はバクテリアが取り込み、すべてを喰らう者に進化していたのだ。

 過去を変えても今は変わらない。
 だから、ムスブがこの宇宙から戦争という概念を消した事実は変わらない。
 だがそれはあくまで現在よりも数ヶ月前、2038年に起きたことであり、2023年のリバーステラでは戦争という概念は存在している。
 そもそもすべてを喰らう者にとって、生まれつき世界の理を変える力を持つ者や、後に持つ者、そして神人になりえる者を天敵として喰らうのは戦争ですらない。ただの「補食」だ。

「事の重大さにようやく気づいたようだな。お前は自分が雨野ムスブや雨野ナユタへの罪悪感から逃れるために、我が身かわいさでふたりを2023年へと帰した。だが、それによって、お前が愛しお前を愛するふたりは、幼な子のまま我が同胞たちに喰われることになる」

 精霊人の力でもう一度やり直すか? とクラウジャはピノアを嘲笑った。

「何度でも時を巻き戻しやり直すがいい。かつて秋月サトシがテラに転移してからの100年間を10000回も繰り返したようにな」

 と。
 クラウジャはレンジの魂を喰らったが、その記憶は今もその体に持っているのだ。

「だが、結果は変わらん。むしろ悪化するだけだろうな。お前がどうあがいたところで、秋月レンジは喰人のクラウジャとなり、秋月リサは死ぬ。雨野ムスブも雨野ナユタも死ぬ。雨野タカミも雨野真依も、雨野ミカナも、秋月サトシも秋月ハルミも、山汐メイたちもな」

 クラウジャは大切なことを忘れていた。
 それにピノアは気づけた。
 だから冷静でいられた。

 ナユタやムスブたちが死ぬことはない。

 ムスブには力がある。
 たとえ無自覚でもナユタを殺そうとし、ピノアたちからゴールデン・バタフライ・エフェクトの存在を忘れさせるほどの、世界の理を変える不可思議の力が。

 自分やナユタやタカミ、真依やミカナを補食しようとする存在を、ムスブは決して許さないだろう。
 そして、2023年のピノアもまた。
 終わるのは、すべてを喰らう者たちの方だ。

 信じよう。ムスブと過去の自分を。

 自分が目の前にいる者を滅ぼせば、世界の脅威は確実にひとつ減るのだ。
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