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第92話「2022/10/09´ ③」
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「その顔は、ふたりとも前の世界のことを覚えてるってことでいいんだな?」
と、ぼくはユワとナユタに訊ねた。
「思い出したのは、ここに向かう途中だったけどね。
赤信号を待ってたら、いきなりヤマヒトが歯ぎしりしだして、『ゴッサム!』って叫んでさ」
「ユワが、『それ、ガッデム! の間違いじゃない? ゴッサムはハットマンに出てくる街の名前だよ?』って指摘したら、なんかボクもユワも急にいろんなことを思い出してきてね」
ひどい思い出し方があったものだった。
「ヤマヒトがゴッサムったのも、それが理由みたいで……あ、ごめん、一応はじめましてだよね。
前の世界のボクは、人工知能の男装執事だったみたいだし、その前の世界でボクたちは出会ってなかったから」
と、ナユタはぼくに右手を差し出した。
彼は前の世界のナユタにそっくりだった。
ぼくはてっきり、その前の世界の彼は、ユワとは二卵性の双子だと思っていたけれど、彼はユワにもそっくりだった。
ぼくはその手を握り、会えてうれしいよ、と言った。
「この世界のこと、どう思う?」
と、ユワに訊ねられたぼくは、
「少し、ふたりと外に出てくるね」
イズミにそう告げ、ふたりを部屋の外に連れ出すことにした。
長い話になるかもしれないし、イズミに聞かれたら、彼女がコヨミであったことを思い出してしまうかもしれなかったからだ。
「この世界には、オルフィレウスの匣は存在してないんだろうね」
エレベーターの中でぼくはふたりに話した。
「だからこの世界にはエクスもレデクスも超拡張現実も存在しない。
本来あるべき2022年の科学力しかないから、軌道エレベーターもないし、永久機関もない」
やっぱり、とユワは言い、
「それって、ロリコちゃんやシヨタくんもいないってことだよね?」
と、ナユタが続き、ぼくはどんな顔をしていいかわからず、黙って頷いた。
前の世界のナユタは、そのさらに前の世界に元々人として生まれて来た彼を元にして、ユワがレデクスを使って再現した存在だった。
だから、今の世界では、再び人として生まれてくることができた。
それに対して、ロリコやシヨタは、ぼくがコヨミの、コヨミがぼくの子どもの頃を再現した存在でしかなかった。
モデルになった人物がいるという点では同じだったが、ふたりがこの世界に生まれてくるためには、ぼくはシヨタと、イズミはロリコと、それぞれが双子か兄弟姉妹として生まれてこなければいけなかった。
この世界は、残念ながらそういう風にはなってはいなかった。
エレベーターが1階に着くと、ぼくたちはロビーにあったソファーに対面して座った。
「前の世界で、ユワとナユタが、その……」
「はっきり言ってくれて大丈夫だよ。爆発事故が起きて死んだんだよね、わたしたち」
「ヤマヒトから聞いてるから、ボクも大丈夫だよ」
どうやらユワがボクっ娘だったのは前の世界だけだったようだ。
キャラが迷走してたもんなぁ、とぼくは懐かしく思った。
「ふたりが死んじゃった後、まぁいろいろあって、ユワがあの研究所で会ってた比良坂ヨモツじゃなくて、本物の比良坂ヨモツ自身がオルフィレウスの匣だってことがわかったんだ」
「それを知ってるってことは、わたしたちの撮った動画を観てくれたんだね」
「うん、あの動画がなかったら、ぼくたちは真相にたどりつけなかったと思う。
それにユワが教えてくれたおかげで、ぼくは母さんや父さんに会えたよ。ずっとお礼を言いたかったんだ。ありがとね」
あの教え方はどうかと思ったけど、とナユタは苦笑していた。
確かにもう少しお手柔らかにお願いしたかった。
と、ぼくはユワとナユタに訊ねた。
「思い出したのは、ここに向かう途中だったけどね。
赤信号を待ってたら、いきなりヤマヒトが歯ぎしりしだして、『ゴッサム!』って叫んでさ」
「ユワが、『それ、ガッデム! の間違いじゃない? ゴッサムはハットマンに出てくる街の名前だよ?』って指摘したら、なんかボクもユワも急にいろんなことを思い出してきてね」
ひどい思い出し方があったものだった。
「ヤマヒトがゴッサムったのも、それが理由みたいで……あ、ごめん、一応はじめましてだよね。
前の世界のボクは、人工知能の男装執事だったみたいだし、その前の世界でボクたちは出会ってなかったから」
と、ナユタはぼくに右手を差し出した。
彼は前の世界のナユタにそっくりだった。
ぼくはてっきり、その前の世界の彼は、ユワとは二卵性の双子だと思っていたけれど、彼はユワにもそっくりだった。
ぼくはその手を握り、会えてうれしいよ、と言った。
「この世界のこと、どう思う?」
と、ユワに訊ねられたぼくは、
「少し、ふたりと外に出てくるね」
イズミにそう告げ、ふたりを部屋の外に連れ出すことにした。
長い話になるかもしれないし、イズミに聞かれたら、彼女がコヨミであったことを思い出してしまうかもしれなかったからだ。
「この世界には、オルフィレウスの匣は存在してないんだろうね」
エレベーターの中でぼくはふたりに話した。
「だからこの世界にはエクスもレデクスも超拡張現実も存在しない。
本来あるべき2022年の科学力しかないから、軌道エレベーターもないし、永久機関もない」
やっぱり、とユワは言い、
「それって、ロリコちゃんやシヨタくんもいないってことだよね?」
と、ナユタが続き、ぼくはどんな顔をしていいかわからず、黙って頷いた。
前の世界のナユタは、そのさらに前の世界に元々人として生まれて来た彼を元にして、ユワがレデクスを使って再現した存在だった。
だから、今の世界では、再び人として生まれてくることができた。
それに対して、ロリコやシヨタは、ぼくがコヨミの、コヨミがぼくの子どもの頃を再現した存在でしかなかった。
モデルになった人物がいるという点では同じだったが、ふたりがこの世界に生まれてくるためには、ぼくはシヨタと、イズミはロリコと、それぞれが双子か兄弟姉妹として生まれてこなければいけなかった。
この世界は、残念ながらそういう風にはなってはいなかった。
エレベーターが1階に着くと、ぼくたちはロビーにあったソファーに対面して座った。
「前の世界で、ユワとナユタが、その……」
「はっきり言ってくれて大丈夫だよ。爆発事故が起きて死んだんだよね、わたしたち」
「ヤマヒトから聞いてるから、ボクも大丈夫だよ」
どうやらユワがボクっ娘だったのは前の世界だけだったようだ。
キャラが迷走してたもんなぁ、とぼくは懐かしく思った。
「ふたりが死んじゃった後、まぁいろいろあって、ユワがあの研究所で会ってた比良坂ヨモツじゃなくて、本物の比良坂ヨモツ自身がオルフィレウスの匣だってことがわかったんだ」
「それを知ってるってことは、わたしたちの撮った動画を観てくれたんだね」
「うん、あの動画がなかったら、ぼくたちは真相にたどりつけなかったと思う。
それにユワが教えてくれたおかげで、ぼくは母さんや父さんに会えたよ。ずっとお礼を言いたかったんだ。ありがとね」
あの教え方はどうかと思ったけど、とナユタは苦笑していた。
確かにもう少しお手柔らかにお願いしたかった。
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