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第1話  現状

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「はぁーー」

 俺は思わず大きなため息をついた。


「あのクソジジイ あれだけ肉体労働させといて報酬が銅貨3枚?飯1食分にしかならないだろうが!!クソ!まあいい。イライラしたら余計に腹が減る」


 そうして野宿している森に帰る。
ここは魔物は出るが、危険度も低く木の上なら安全だし、魔物を狩れれば食料にもなる。

 まあまあいい場所だ。人が住む場所ではないが…


「あー俺にもスキルがあればなぁ…」


そう言葉を漏らす。

 この世界はニードという名前で、スキルと呼ばれるものが存在する。
 それは誰もが生まれ持って神から授けられるものであり、個人差はあるが5~8歳の間に開花する。

 そして、開花したスキルによって今後の人生も決まる。


 それくらいスキルというものはこの世界の中枢だ。
 しかし極めて稀にスキルが開花しない者がいる。原因は不明だ。
 

 そして俺は持っていない奴だった
17歳になった今でもスキルは使えない。
 スキルが使えない奴の事を、この国では、ドロップアウト(落ちこぼれ)と呼ばれる。
 そしてそいつには何をしてもいいという風習すらある。
 そのせいで昔から酷い目にあってきた。

 スキルを開花させた同年代に的にされたり、物を壊されたりした。
 
 でも周囲の大人は誰も助けない。

 それはドロップアウトの者に触れられると、今のスキルが弱くなったり、将来の子孫にも影響が出るという根拠のない噂が広がっていたからだ。

 両親は13の時に俺を捨てた。


 だがそんな事は、もうどうでもいい、今を生きることに精一杯だ。しかし個人的には役に立つ事もある。
 的にされ続けたおかけが、反射神経は良い、10の頃から肉体労働ばかりしているから身体能力も高い。
 同年代や大人であってもスキルなしの喧嘩なら負けないだろう。

 でもスキルはそんな物などでは到底届かない領域だった。
 例えば雷系スキルを持つ8歳の子でも雷を多少は使える。
 喧嘩が強くても遠くから電撃を打たれたら避けられないし、近づけない。
 それくらいにスキルの有無は圧倒的だった。

 スキルなしは人間として扱われない。
 労働しても金を貰えない時もあった。抗議したらスキルでやられる。


 どいつもこいつもスキルスキルって

 でも仕方ない。それがこの世界のルールだから。自死はしない。

 俺が負けたみたいになるからだ。スキルも期待なんかしてないが、そのうち俺を見下した奴、見捨てた奴、的にしたやつ全員に復讐してやる。


 その想いを胸に生きていたが、現実はやはり甘くない。


 俺がさっきまで働いていた中継都市ルーヴェル近郊に存在する巨大な森の中。その少し奥に1本の大きな木がある。


 その上に簡単に小屋を建てた。それが俺の家だ。

 「今日も疲れた。いつまでこの生活が続くんだろうか?あー俺にもスキルがあれば…」

 無い物をねだっても仕方ない。仕方ないが、なんで俺なんだろう…

 そうして眠り着こうとした。
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