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炎の国『イグニス』〜今こそ覚醒の時〜

第68話

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◇◇◇


「ここがこの街では1番多くの種類を揃えている装飾店です。一般向けから富裕層、貴族の人も多く訪れる場所です」


「そう……ですか……」


 レインの目の前にはあの『オルデン商会』本店よりも煌びやかだった。夜にこんな建物が横にあったら眩しくて眠れないだろ、と言いたくなるくらい眩しい。魔法石で作られた灯りに照らされている。入り口の扉には2人の男性が立っていて扉を開け閉めしている。


 "あの2人……覚醒者だな。多分Bランクくらいの強さがある。Bランクを警備も兼ねて雇っているのか。すごいな"


 覚醒者はBランクにもなると上位クラスに位置する。雇うのにはかなりの金がかかると思うが、それを2人、さらに警備の意味もあるが扉の開け閉めだけに使うとは凄いな。


『イグニス』は8大国の中では最も弱いが、ステラが言っていたように武具生産が優れている……らしい。武器はアルティのでいいし、防具は優れている物ほど素材も多く使っているせいか重い。

 重さはレインの戦闘スタイルに合わないから防具は最低限だ。だから別に要らない。

 だが武具などの生産品で8大国入りしたので、生産にかなり国として力を入れている。だからオルデン商会みたいなレインでも知ってる有名商会やこんな感じの豪華絢爛な店が多く存在する。ここはイグニス王都『アルアシル』ではなく第2の都市なのにこのレベルだ。

 まあ今はそんな事はどうでもいいので早速中に入る。

 入り口に近付くとレインの接近に気付いた扉開閉係の覚醒者が同時に扉を外側へ開く。そのうちの1人がすごい顔でこちらを見ていたから多分そうだと気付かれた。

 ただ仕事中だろうから声は掛けられなかった。そして内部はというと……。


「…………デケェな」


 まず入り口から目に入ったのは吹き抜けの天井だった。それが4階まで続いている。1階はおそらくそこまで高くない物を並べている。それを見ている客の身なり的に裕福だと思えなかったからだ。
 ケースの中に入っている指輪やネックレスも数万Zelの物が多い。一般の人向けって感じだ。

 ただこれらは全て鉱石を加工した物で魔法石ではない。魔法石を加工できる人は限られており覚醒者の中でもそうしたスキルを持つ者でないと扱えない。だから魔法石を加工した装飾品はかなり高価な値が付く……らしい。
 全部ステラの知識だ。何だそんなの知ってるんだ?


 店の中央の壁には案内板が貼ってありどこに何があるがよく分かるようになっていた。


 それを見て目的の物を探している時だった。


「こ、これは!!」

 後ろから男性の大きな声が聞こえた。振り向くと正装に身を包んだ男性がこちらを見ていた。名前が掛けられた札を首から下げている。多分、店員だな。人が多い場所で覚醒者ではない人の接近は本当に分からない。


「……も、もしや…エタニア様でしょうか?」


「……ええ、そうですが…」


「いらっしゃいませ!ようこそおいで下さいました!私は本日の売り場責任者を任されている者です。どういった物をお探しでしょうか?!私が責任を持ってご対応させていただきます!!」


「……そうでッ」


 レインが返事をしようとした時だった。


「貴方では務まりませんよ?私がご案内しましょう」


 案内を名乗り出た男性店員の後ろから別の女性が声をかける。この人は綺麗なドレスを着ている。任命式の時にいた貴族を彷彿とさせる姿だ。それだけでこの店のかなり上の地位にいる人だと分かる。


「オ、オーナー?!……分かりました。失礼します」


 この女性がこの店のオーナーらしい。とても綺麗なブラウンの巻き髪だ。ステラの髪をもう少し伸ばして上品にしたら似るかもしれないな。


「レイン・エタニア様、本日は当店、リト=スフェル装飾店にお越しいただきありがとうございます。ここでは何ですので応接室にご案内させていただいてもよろしいでしょうか?」


 そんな名前の装飾店なんだ。初めて知ったよ。そしてオーナーと呼ばれる女性についていく形で4階の豪華な部屋に通された。レインが住む屋敷に匹敵する豪華絢爛な部屋だった。


「では改めて当店へのご来店誠にありがとうございます。私はこの装飾店を営んでおります、シドナと申します。以後お見知り置き下さい」


「よ、よろしくお願いします。一応……神覚者のレインです」


 すごい丁寧に挨拶してくれる。この扱いは一生慣れることはないだろう。だからこんな感じの返事になる。


「ふふッ……存じておりますよ?それで本日は何をお求めでしょうか?当店は装飾店になりますので覚醒者様が扱える魔法の武具はありませんが……」


「いえ……女性が身につけるアクセサリー……ですか?それをいくつか欲しいんです。あと魔法石が使われている物がいいです。出来れば品質の良い魔法石だと良いですね」


「かしこまりました。すぐに手配致します。アクセサリーとありましたが、ご希望の種類はありますか?」


「……種類?」


「はい、アクセサリーと言っても女性が身につけるものは多岐にございます。指輪やネックレス、チョーカーにブレスレット、ブローチ、さらに魔法石を編み込んだ髪留めなどもあります」


 予想以上に種類が多い。ブローチってなに?どんなやつ?――レインには難しい質問だった。


「阿頼耶……どうする?」

 レインは横に座る阿頼耶に問いかける。

「………………ブローチとは何でしょう?」


「ありがとう……少し静かにしててくれる?」


「かしこまりました」


「ステラは分かる?」

 阿頼耶はこうした部類の質問では役に立たない事が分かった。それ以外が有能すぎるからどうでも良いんだけどね。ただステラも分からないとなると適当に買うしかなくなる。藁にもすがる思いでステラを見た。

「……そうですね。指輪は特別な想いが込められていると聞きますので、ご家族であるエリスさんには向かないかもしれません。髪留めは頻繁に外しますし、ネックレスは引っ掛けて切れてしまうかもしれません。
 であればブレスレットなどが1番いいのではないかと思います」


 ここに天才がいた。


「ブレスレットでよろしいですか?」


「そうですね。一旦ブレスレットでお願いします」


「かしこまりました。すぐにいくつかお持ちします。ご予算などはありますか?」


「別にないです。とにかく魔法石の品質にこだわってほしいです」


 レインの傀儡たちの中でも精鋭を送り込む魔法石だ。それなりでは壊れてしまうかもしれない。今回行った2つのAランクダンジョンの攻略金額で数億は稼げるはずだ。

 それを全部使ってもいいと思っている。予算の上限は無いに等しい。


「かしこまりました。すぐにお持ちしますのでお待ち下さい」


 そう言ってシドナは部屋を出て行った。ステラの提案には本当に助かった。


 ここでしばらく待つとしよう。


 
 
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