Are you my……?

広瀬 晶

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 断るべきだった。そんなことは分かっていた。しかし断れなかった。彼の方に気持ちがなくとも、僕にはある。他に好きなひとがいて、もう二度と触れ合うことができないかもしれない相手。
 この瞬間だけでも、自分のことを見てくれるのなら、触れてくれるのなら。それでいいと、そう、思ってしまった。
 はっきり、する、とは言えなかったが、流れ出した沈黙を彼は肯定として受け取ったようだった。
 キスの後ソファーに押し倒された身体は、既に熱を持ち始めていた。不意に脇腹に触れられ、全身に震えが走る。この熱が何に由来しているか、もう僕は知っている。官能的な行為ではなく、彼の存在そのものが僕をおかしくしている。
 シャツの中を這う指も、首筋にかかる吐息も。何もかもが自分を煽る。衣服の上から下肢に触れられたときにはもう、呼吸もままならない状態にまで堕ちていた。ゆっくりと、スラックスの生地を滑り脚のラインをたどる指が後ろに行き着く。
「佐藤君……?」
 くすぐったいような感覚と、激しい羞恥心に視界が歪む。
「何で……」
「男どうしの場合、ここでするんですけど」
 知りませんでしたか、と問われ、僕は完全に言葉を失った。最後までと彼が言った意味を理解して、僕は少し怯んだ。
 それが本当に同性間では普通の行為なのか、僕には判断ができない。しかし彼に嘘をついているような素振りは全く見られなかった。
「怖いですか?」
 前にも、同じようなことを訊かれた気がする。
あのときよりも、正直怖い。他人と繋がるということが、上手く想像できない。でも、相手が佐藤君だったら。
 首を横に振ると、嘘つき、と彼が笑った。
 
 首筋から鎖骨にかけて、啄むようなキスが落とされていく。そのキスの嵐にくすぐったさを感じていられたのは最初だけで、胸元に指や唇が触れると、肌の奥から別の感覚が現れ始めた。感覚を逃がそうとして吐き出した息が、苦しげな響きを帯びる。彼はそれでも、触れる手の動きを止めたりはしなかった。
 徐々に激しさを増す愛撫に翻弄され、呼吸が上手くできない。頭がぼうっとして、彼のこと以外何も考えられなくなる。
「あ……」
 思わず声を上げてしまったのは、気付かないうちに下ろされていたファスナーの奥に、彼が手を差し入れてきたせいだった。
「佐藤、君……」
 訳も分からず名前を呼ぶと、彼は吐息混じりの声で言った。
「怖がらないで」
 僕がより強く感じているのは、恐怖ではなく羞恥の方だった。
 好きなひとに自分の身体をさらけ出すことが、こんなにも恥ずかしいことだとは思わなかった。
ただ細いだけの、貧相な身体を見られることに対しての恥ずかしさ。肌をすべて見せることで、まるで心の中まで裸にされてしまいそうになる恥ずかしさ。それらが一度に押し寄せてきて、胸が苦しくなる。
 布の上からでも変化していることは明らかだったらしく、彼はそれを僕の耳元でささやいた。あまりの恥ずかしさに耳を塞ごうとすると、耳へと伸ばした手を彼が掴む。
「何……?」
「ここ」
 無理やり下肢に移動させられた手で状態を確認させられ、僕は涙目で彼をきっと睨んだ。わざわざ確かめたりしなくても、自分が乱れていることは分かっていた。改めて自覚して、また恥ずかしさが込み上げてくる。
「……意地悪」
 照れ隠しで悪態を吐くと、彼が唇の端を持ち上げた。
「すみません。好きな子には、意地悪したくなる性分みたいで」
 好きな子……?
 何か引っかかりを覚えて目を見開いたが、すぐに、何も考えられなくなった。下肢から衣服を全て取り払われ、直接刺激を与えられたことで、奇妙に高い声が断続的に溢れていく。一度達するまで、その刺激が止むことはなかった。
 まだ呼吸が整わないうちに、あり得ない場所に濡れた感触がして。僕は息を喘がせながら、彼へと視線を戻した。
「少し、じっとしていてください」
 羞恥の限界はとうに越えたと思ったのに、もっと上があった。僕が放ったものをまとわせた指が、繋がるための場所を往復する。何度も繰り返され、熱が宿る。恥ずかしくて、苦しい。痛くてもいいから、早く次に進んでほしかった。
「あと少し、耐えてください」
 僕はふるふると首を左右に振った。泣きそうになるのを、目を閉じてやり過ごす。
「痛く、ないですか?」
 指が中を行き来するようになると、痛くないのが却って僕の不安を煽り立てた。こんな感覚は、知りたくなかった。
 与えられる熱が増えるにつれ声を抑えるのが難しくなり、堪えきれなくなった涙が頬を伝った。涙の後に、ほんのわずかの冷たさを感じて目を開く。視界には、彼しか映っていなかった。
 彼が僕に許可を求め。僕が頷くと、「最後」へと向かう行為がゆっくりと進められた。想像していたような、痛みや恐怖はなかった。
 誰よりも彼に近い場所にいるということから来る幸福と、他に好きなひとがいる相手と抱き合うことへの罪悪感。しあわせなのに胸が苦しくて、涙が止まらなかった。

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