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ふわふわした感覚だけがあって、現実味がない。ぼうっとしたまま佐藤君を見ると、彼は困ったように笑った。
「そういう顔は、他のひとの前ではしないでくださいね」
「……?」
彼が何を気にしているのか分からなかった。好き、という言葉が、羽のように雪のように頭の中を浮遊している。
好き……? はっと僕は息を呑んだ。
「佐藤君、前に好きなひとがいるって」
彼には他に好きなひとがいたのではなかったか。やわらかな浮遊の代わりに、焦燥がやってくる。
「ああ……。すみません。それ、村上さんのことです」
「え?」
「あなたの反応が見たくて、つい。すみませんでした」
自分もまた、彼のことだとは告げずに好きなひとがいると話したのだから、彼を責められるような立場にない。
「結構、焦っていたので」
「焦る?」
「あなたは、四谷さんのことが好きなのかと思っていました」
「四谷さん……?」
鸚鵡返しにその名前を繰り返すと、彼は気まずそうに視線を逸らした。
「前にも言いましたが。四谷さんは、上司です」
「それは、そうかもしれないですけど……」
「確かに彼のことは人として好きですし、信頼もしています。でも、それだけです」
四谷さんのことは好きだが、彼を欲しいとは思わない。だから焦ってたんです、と佐藤君は言い訳するように言葉を重ねた。
「あなたの好きな相手が、彼みたいな大人の男だったら、現時点で勝ち目はないし。その上、白崎まであなたに気があるみたいなことを言い出すから……」
「白崎君は、からかってるだけだと思うけど」
「そんなの分からないじゃないですか」
「だって断っても大して気にしてないみたいだったし」
「断った? 何を?」
「……あ」
分が悪くなり俯くと、彼が苦虫を噛み潰したような声で呟いた。
「もっと、牽制しておくんだった」
下を向いているので顔は見えないが、妙に熱っぽい声に思わずドキッとさせられる。
「牽制、って」
「牽制は、牽制です」
佐藤君が初めて見せた執着心のようなものに、顔を上げるタイミングを完全に失って、僕は唇を噛み締めた。
「……村上さん」
彼が、僕との距離を詰める。微かにソファーの軋む音がした。
「もう、俺のですよね」
頭上から声が落ちてくる。黙って頷くと、彼は続けて言った。
「こっち向いてください」
僕は首を横に振る。きっと、耳まで赤くなっている。
「顔、見せて」
困りはてて自分の膝だけを見つめていると、膝の両サイドに、彼の手が置かれたのが見えた。次の瞬間、耳に温かく濡れた感触を受けて、僕は勢いよく顔を上げた。
「い、今、な……」
「どうかしましたか?」
にこっと、彼が笑う。
「耳……」
舐められた。確実に。
「やっと、顔が見れた」
そう言う佐藤君の表情に、意地悪な感じはなかった。
「村上さん」
「……はい」
「村上さんのことが、好きです。俺と付き合ってください」
はい、と答えると、今度は耳ではない場所に温かな感触が落とされた。
「そういう顔は、他のひとの前ではしないでくださいね」
「……?」
彼が何を気にしているのか分からなかった。好き、という言葉が、羽のように雪のように頭の中を浮遊している。
好き……? はっと僕は息を呑んだ。
「佐藤君、前に好きなひとがいるって」
彼には他に好きなひとがいたのではなかったか。やわらかな浮遊の代わりに、焦燥がやってくる。
「ああ……。すみません。それ、村上さんのことです」
「え?」
「あなたの反応が見たくて、つい。すみませんでした」
自分もまた、彼のことだとは告げずに好きなひとがいると話したのだから、彼を責められるような立場にない。
「結構、焦っていたので」
「焦る?」
「あなたは、四谷さんのことが好きなのかと思っていました」
「四谷さん……?」
鸚鵡返しにその名前を繰り返すと、彼は気まずそうに視線を逸らした。
「前にも言いましたが。四谷さんは、上司です」
「それは、そうかもしれないですけど……」
「確かに彼のことは人として好きですし、信頼もしています。でも、それだけです」
四谷さんのことは好きだが、彼を欲しいとは思わない。だから焦ってたんです、と佐藤君は言い訳するように言葉を重ねた。
「あなたの好きな相手が、彼みたいな大人の男だったら、現時点で勝ち目はないし。その上、白崎まであなたに気があるみたいなことを言い出すから……」
「白崎君は、からかってるだけだと思うけど」
「そんなの分からないじゃないですか」
「だって断っても大して気にしてないみたいだったし」
「断った? 何を?」
「……あ」
分が悪くなり俯くと、彼が苦虫を噛み潰したような声で呟いた。
「もっと、牽制しておくんだった」
下を向いているので顔は見えないが、妙に熱っぽい声に思わずドキッとさせられる。
「牽制、って」
「牽制は、牽制です」
佐藤君が初めて見せた執着心のようなものに、顔を上げるタイミングを完全に失って、僕は唇を噛み締めた。
「……村上さん」
彼が、僕との距離を詰める。微かにソファーの軋む音がした。
「もう、俺のですよね」
頭上から声が落ちてくる。黙って頷くと、彼は続けて言った。
「こっち向いてください」
僕は首を横に振る。きっと、耳まで赤くなっている。
「顔、見せて」
困りはてて自分の膝だけを見つめていると、膝の両サイドに、彼の手が置かれたのが見えた。次の瞬間、耳に温かく濡れた感触を受けて、僕は勢いよく顔を上げた。
「い、今、な……」
「どうかしましたか?」
にこっと、彼が笑う。
「耳……」
舐められた。確実に。
「やっと、顔が見れた」
そう言う佐藤君の表情に、意地悪な感じはなかった。
「村上さん」
「……はい」
「村上さんのことが、好きです。俺と付き合ってください」
はい、と答えると、今度は耳ではない場所に温かな感触が落とされた。
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