ショートショートのお茶漬け

rara33

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第11話 終末逃避婚

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※冒頭の『』と、作中の「数字」に注目していただけると幸いです。

『8』

 地球に巨大隕石が落ちてくるまで、あと8日。

 嘘八百と思われそうで、夫にはずっと、内緒にしていることがある。


『7』

 地球に巨大隕石が落ちてくるまで、あと7日。

 七夕に書いた短冊が、マンションのバルコニーで笹の葉とともに揺れている。

 ――あの約束を、《彼》が覚えてくれていますように。

 願いを書いた短冊越しに見える灰色の空に、私はじっと目を凝らした。

 今にも何かが、舞い降りてくるような気がする。


『6』

 地球に巨大隕石が落ちてくるまで、あと6日。

 十六夜いざよいの月のようにゆっくりと、ためらいの気持ちから良心の呵責が顔をのぞかせつつある。 

 夫にそろそろ、打ち明けなければ。


 月の影から、《彼》が姿を現す前に。


『5』

 地球に巨大隕石が落ちてくるまで、あと5日。

 五月雨さみだれのような黒いしずくが、空から大量に地上へと降り注ぐ。

 絶望と焦りの漂う人々の空気を、さらにじっとりと重くさせる。

 夫は助かる術を求めて、今日も出かけているらしい。

 私の家の窓を黒い水滴が幾筋も伝っては、不規則な稜線を描いた。

 《彼》を待ちわびている私の胸の鼓動が、次の瞬間、大きく波打った。


 ―― オボエテイルヨ ――


 黒く流れる水滴が、一瞬、目の前で文字の羅列となって浮かび上がった。


『4』

 地球に巨大隕石が落ちてくるまで、あと4日。

 四つ葉のクローバーのしおりを、母の形見のハンカチにそっと包んで、父の遺してくれたスーツケースに入れた。

 《彼》と野原で初めて出会ったとき、何時間も一緒に探して見つけてくれた宝物だから。

 クローバーがしおれたあともずっと、淡い思い出が色褪せることはなかった。

 心の隅から隅までかき集めてみても、夫へのときめきは、きっとクローバーの葉一枚ほどもないだろう。


『3』

 地球に巨大隕石が落ちてくるまで、あと3日。

 私はとうとう重い腰をあげて、夫に呼びかけた。

「あなた、私ね……」

「今忙しいんだ、あとにしてくれ」

 夫は重苦しげに言い放ち、私を置いて出て行った。

 長年逢瀬を重ねてきた愛人の元に向かうのだろう。

 私たちの三角関係も、もうすぐ終わりを告げる。

 何も知らないままでいる彼らを思うと、少しだけ、胸が痛んだ。


『2』

 地球に巨大隕石が落ちてくるまで、あと2日。

 私は気もそぞろに夫に呼びかけた。

「あなた、聞いてほしいの……」

「今忙しいんだ、あとにしてくれ」

 夫は苛立って言い放ち、私を置いて出ていった。

 部屋のテーブルの上には、夫の結婚指輪が置いてあった。

 ――良かった。これでやっと、私も遠慮なく言える。

 テーブルの上に、やがて大小二つの結婚指輪が並んだ。


『1』

 地球に巨大隕石が落ちてくるまで、あと1日。

 私は拳を握って夫に呼びかけた。

「いい加減、私の話を聞いてよ」

「いい加減、放っておいてくれよ」

 夫は拳で私の顔を殴りつけ、私を置いて出ていった。

 たった一人で取り残された私の元に、しばらくすると一隻の宇宙船が舞い降りてきた。


『2』~『7』

「かわいそうに。痛かったでしょう。

 ボクがすぐに治してあげる」

 頭から触角を二本生やした緑色の宇宙人が、私の頬に特殊なレーザーを当てて、傷を癒した。

「君が小さい頃にも、こうやって怪我を治したことがあったね」

 彼の三つの目に私が映った。

「迎えに来るのが、遅くなってごめんね」

 彼は私に四本目の腕を伸ばした。

「謝らないで。あなたはちゃんと、約束を守ってくれたのだから」

 私は五本の指で、彼の光る手を握り返した。

「ボクのお嫁さんになる人にと、母親がくれたんだよ」

 彼は私に、六角形のダイヤモンドの指輪を差し出した。

「ありがとう。プロポーズ、喜んでお受けするわ」

 私たちを祝福するかのように、幾つもの流れ星が七色の虹のような軌跡を描いて飛んできた。


「さあ、出発しよう」

「私、あなたにどこまでもついていくわ」


『8』

「この週末は、最高の週末になりそうだね」

 愛しい声の主に抱かれた私の胸は、新婚らしいときめきで満ち溢れている。 

 ∞(無限大)に広がる宇宙の闇を背景に、

 終末をもたらす巨大隕石が地球にふりかかるのを、

 新しい夫の宇宙船の窓から、

 私は他人事の顔で見ていた。

(了)

◎最後の『8』にて、「∞」は縦にすると「8」にも見えます。

数字が分かりづらい場合は、大変お手数ですがご感想にてお問い合わせいただければお答えいたします。至らぬ表記ですみません。
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