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第16話 架空のリアルちゃん(後編)
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※この話は、第15話の後編です。両編とも各5分ほどです。
【場面4、小川リアルの放課後……そして】
「リアルちゃん! また屋上にいたんだね!」
声をかけられて振りむくと、スラリとした金髪碧眼の美少女が立っていた。
「スワン! 久しぶり! 元気?」
「うん、春休みはパリにいたから会えなくてごめんね!」
スワンはフランス人を両親に持つ帰国子女だ。
超ド級の美人な親友がいるリア充設定は、架空青春アニメの王道だもん。
それでも私が「高校一の美女」な設定は変わらないけどね。
「会いたかったぁ!」
「私も!」
夕焼けの始まりかけた空の下、ギュッと抱き合う私とスワン。
もう最っ高の青春だよね!
こんな青春が、りえにもあればいいのにね。
あれ? りえも学校の屋上にいる。しかも一人で。
え? なに手すりよじ登ってるの? 危ないよ!!
私の心臓が嫌な予感で早鐘を打ち始めた。
りえは手すりの向こう側に降り立つと、おそるおそる下界を見下ろした。
何する気? やめて! 飛び降りないで!!
あなたが死んだら、私もこの『にじクレ』も終わっちゃうんだよ!!
私は大きな声で架空の世界から叫び続けた。
りえと私の鼓動が、クレッシェンドに高まっていく。
【場面5、小川りえの放課後】
私の名前は小川りえ。高1の時からボッチだった。
容姿はブスだし、頭も悪い陰キャだから仕方ないんだけど。
得意なのは文章を書くことぐらいで。
中学生の頃から小説を書いてネット投稿したり、文学賞に応募したり。
でも、何一つ芽が出なかった。
学校も家も面白くないことばっかりで、もう限界。
だから今日を一つの目安にして生きてきた。
今年でネット小説のコンテストに応募して、ちょうど3回目になる。
過去2年とも一次予選で全作落とされてきたけど、「石の上にも三年」って言うでしょ?
だから、今回で一作でも審査に通れば死ぬのを引き延ばそうと思って、自分の状況をモデルに長編をいくつも書いて挑戦した。
でも、結局、今回も全滅だった。
物語の神様に見捨てられた私には、もう、架空のアニメを妄想する力も残っていない。
さっき自分の「近況報告」に、遺書を書いて公開した。
短い人生だったけど、後悔することなんて何もない。
さあ、飛び降りて死のう。
どうせこんな私が大人になったって、ろくな未来が待ってないんだから。
ああ、夕日がきれいだな。なんだか異世界につながるワープの空間みたい。
もし本当に転生できたら、売れっ子作家になれるといいな。
私が屋上の手すりから手を放そうとした、そのときだった。
「小川さん! 死んじゃダメ!!」
「……須和さん?」
私が顔を上げると、同じ学年で別のクラスの須和さんが手すりの向こう側に立っていた。息を切らしているのに、彼女の顔は真っ青だった。
「……なんでここに?」
「いいから、早くこっちに来て!!」
須和さんが駆け寄ってきて、私に手を伸ばした。
「来ないで! 私の気持ちなんて、誰にも分からないんだから!!」
私が後ろに体を倒そうとすると、須和さんが大声で叫んだ。
「待って!! これ見て!!」
須和さんは、その手に持っていたスマホの画面を私に見せた。
「え? なにこれ……」
私は思わず二度見をして、スマホに顔を近づけた。
「うそでしょ……運営からの、感想?」
昼休みに見たときにはなかったのに、私の応募した作品に運営からの感想が付いていた。
「嘘じゃないから! こっち来て読んでみて!」
そう言われた私は、須和さんに言われるがまま安全な位置に戻った。
信じられない思いでスマホをもう一度確認したけど、本当に私の作品について書かれていた。
『……の場面など、主人公の身の置き所のないリアルな経験が詳しく書かれていて、孤独な世界観に感情移入させられました。ぼっちの立場に負けず、前向きに生きてほしいと願うと同時に、続きが気になる印象深い作品でした。今後の創作活動を応援しております。』
――私の作品、ちゃんと読んでくれたんだ。続きが気になるって、応援してるって、思ってくれたんだ。
胸の中で、驚きと喜びが激しく入り混じった。
落選した傷が、ポーションで復活するみたいに、じわじわと塞がっていくような気がした。
そんな私を見ていた須和さんが、静かに口を開いた。
「実はね、小川さんの作品、私ずっと読んでたの。運営からの感想希望って知ってたから、ときどきチェックしてて」
「私が作者だって、どうして知ってたの?」
「作者のツイッターのアイコンがうちの制服だったし、物語の内容が小川さんの状況にそっくりだったから」
この3年間の執筆活動を見守ってくれている人が、こんなに近くにいたなんて。
「じゃあ、評価や感想をくれたSWANって、須和さんだったんだ」
「うん、でも人の日記覗いているみたいで、ずっと罪悪感があって……内緒にしてて、ごめんなさい」
須和さんがぺこりと頭を下げた。
「……ありがとう。ずっと読者でいてくれて」
私も須和さんと同じくらい深く頭を下げた。
ああ、私、死ななくてよかった。
読んでくれる人がいる限り、頑張って書いていきたい。
心の中でやる気と喜びが徐々に高まっていくと、目から涙がポトポトと下に落ちた。
私たちの足元を、綺麗な夕焼けが照らしている。
屋上の端まで伸びていく影を目で追うと、うちの制服を着た女の子が見えた。
ハーフっぽい顔立ちをした、すごく綺麗な女の子。
リアルには絶対ありえないほど大きな瞳をしている。
――いつでも、待ってるからね。
彼女の声が脳裏に響いた瞬間、その姿は跡形もなく消えてしまった。
(了)
◎前編からお読みくださり、誠にありがとうございました。
現実と虚構の書き分けがまだまだ不慣れで拙く、誠に申し訳ございません。
【場面4、小川リアルの放課後……そして】
「リアルちゃん! また屋上にいたんだね!」
声をかけられて振りむくと、スラリとした金髪碧眼の美少女が立っていた。
「スワン! 久しぶり! 元気?」
「うん、春休みはパリにいたから会えなくてごめんね!」
スワンはフランス人を両親に持つ帰国子女だ。
超ド級の美人な親友がいるリア充設定は、架空青春アニメの王道だもん。
それでも私が「高校一の美女」な設定は変わらないけどね。
「会いたかったぁ!」
「私も!」
夕焼けの始まりかけた空の下、ギュッと抱き合う私とスワン。
もう最っ高の青春だよね!
こんな青春が、りえにもあればいいのにね。
あれ? りえも学校の屋上にいる。しかも一人で。
え? なに手すりよじ登ってるの? 危ないよ!!
私の心臓が嫌な予感で早鐘を打ち始めた。
りえは手すりの向こう側に降り立つと、おそるおそる下界を見下ろした。
何する気? やめて! 飛び降りないで!!
あなたが死んだら、私もこの『にじクレ』も終わっちゃうんだよ!!
私は大きな声で架空の世界から叫び続けた。
りえと私の鼓動が、クレッシェンドに高まっていく。
【場面5、小川りえの放課後】
私の名前は小川りえ。高1の時からボッチだった。
容姿はブスだし、頭も悪い陰キャだから仕方ないんだけど。
得意なのは文章を書くことぐらいで。
中学生の頃から小説を書いてネット投稿したり、文学賞に応募したり。
でも、何一つ芽が出なかった。
学校も家も面白くないことばっかりで、もう限界。
だから今日を一つの目安にして生きてきた。
今年でネット小説のコンテストに応募して、ちょうど3回目になる。
過去2年とも一次予選で全作落とされてきたけど、「石の上にも三年」って言うでしょ?
だから、今回で一作でも審査に通れば死ぬのを引き延ばそうと思って、自分の状況をモデルに長編をいくつも書いて挑戦した。
でも、結局、今回も全滅だった。
物語の神様に見捨てられた私には、もう、架空のアニメを妄想する力も残っていない。
さっき自分の「近況報告」に、遺書を書いて公開した。
短い人生だったけど、後悔することなんて何もない。
さあ、飛び降りて死のう。
どうせこんな私が大人になったって、ろくな未来が待ってないんだから。
ああ、夕日がきれいだな。なんだか異世界につながるワープの空間みたい。
もし本当に転生できたら、売れっ子作家になれるといいな。
私が屋上の手すりから手を放そうとした、そのときだった。
「小川さん! 死んじゃダメ!!」
「……須和さん?」
私が顔を上げると、同じ学年で別のクラスの須和さんが手すりの向こう側に立っていた。息を切らしているのに、彼女の顔は真っ青だった。
「……なんでここに?」
「いいから、早くこっちに来て!!」
須和さんが駆け寄ってきて、私に手を伸ばした。
「来ないで! 私の気持ちなんて、誰にも分からないんだから!!」
私が後ろに体を倒そうとすると、須和さんが大声で叫んだ。
「待って!! これ見て!!」
須和さんは、その手に持っていたスマホの画面を私に見せた。
「え? なにこれ……」
私は思わず二度見をして、スマホに顔を近づけた。
「うそでしょ……運営からの、感想?」
昼休みに見たときにはなかったのに、私の応募した作品に運営からの感想が付いていた。
「嘘じゃないから! こっち来て読んでみて!」
そう言われた私は、須和さんに言われるがまま安全な位置に戻った。
信じられない思いでスマホをもう一度確認したけど、本当に私の作品について書かれていた。
『……の場面など、主人公の身の置き所のないリアルな経験が詳しく書かれていて、孤独な世界観に感情移入させられました。ぼっちの立場に負けず、前向きに生きてほしいと願うと同時に、続きが気になる印象深い作品でした。今後の創作活動を応援しております。』
――私の作品、ちゃんと読んでくれたんだ。続きが気になるって、応援してるって、思ってくれたんだ。
胸の中で、驚きと喜びが激しく入り混じった。
落選した傷が、ポーションで復活するみたいに、じわじわと塞がっていくような気がした。
そんな私を見ていた須和さんが、静かに口を開いた。
「実はね、小川さんの作品、私ずっと読んでたの。運営からの感想希望って知ってたから、ときどきチェックしてて」
「私が作者だって、どうして知ってたの?」
「作者のツイッターのアイコンがうちの制服だったし、物語の内容が小川さんの状況にそっくりだったから」
この3年間の執筆活動を見守ってくれている人が、こんなに近くにいたなんて。
「じゃあ、評価や感想をくれたSWANって、須和さんだったんだ」
「うん、でも人の日記覗いているみたいで、ずっと罪悪感があって……内緒にしてて、ごめんなさい」
須和さんがぺこりと頭を下げた。
「……ありがとう。ずっと読者でいてくれて」
私も須和さんと同じくらい深く頭を下げた。
ああ、私、死ななくてよかった。
読んでくれる人がいる限り、頑張って書いていきたい。
心の中でやる気と喜びが徐々に高まっていくと、目から涙がポトポトと下に落ちた。
私たちの足元を、綺麗な夕焼けが照らしている。
屋上の端まで伸びていく影を目で追うと、うちの制服を着た女の子が見えた。
ハーフっぽい顔立ちをした、すごく綺麗な女の子。
リアルには絶対ありえないほど大きな瞳をしている。
――いつでも、待ってるからね。
彼女の声が脳裏に響いた瞬間、その姿は跡形もなく消えてしまった。
(了)
◎前編からお読みくださり、誠にありがとうございました。
現実と虚構の書き分けがまだまだ不慣れで拙く、誠に申し訳ございません。
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