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第十一章:障害に囲まれて
第122話 散った花びら
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しばらくすると、シルヴィとアーネス、そしてイアスの三人が面会を求めているとの連絡が入った。
わたしはどうしようかとちょっと迷った。
でも、はっきりと自分の気持ちを表すいい機会だと思って、三人の入室を許可した。
するとソフィアが気を利かせて言ってくる。
「それではこのお花は別に移動させましょうか」
「うん……、そうして」
そしてモニーカが花台をどこからか持ってきて部屋の中央に花瓶は移動された。
そして、やがてシルヴィ達が入室してきた。
「やあ、ハルカ」
笑顔で挨拶してくるアーネスの陰で、イアスとシルヴィがわたしのストールと腕輪に素早く視線を走らせた後に、少し顔を曇らせた。
「ハーメイ産の織物と金細工の腕輪か。とても似合っているね」
「ありがとう」
アーネスの言葉に、わたしは頬を染めてお礼を言った。
似合ってるって、たとえ社交辞令であっても嬉しい。
すると、アーネスは苦笑し、イアスは無表情になり、シルヴィに至っては悔しそうな顔になった。
「そんなに嬉しそうにされると、こちらも複雑かな」
アーネスがそう言うってことは、これがカレヴィからの贈り物ってことは分かってるってことか。
……そうだよね。こんなに高価そうなものだものね。
わたしはストールに手をやりつつ、腕輪を見た。そして、部屋の中央に飾られた花瓶に目をやる。
「あの花も陛下の贈り物ですか」
よく気のつくイアスはそれだけで察したらしい。
「うん、そう」
なんだか気恥ずかしくて頬を染めながら頷いたら、シルヴィがむっとした顔になった。
「……それはそうと、俺のガルディア行きはなくなりましたよ。残念でしたね」
「シルヴィ!」
「シルヴィ、言い過ぎだ」
意地悪そうな顔で言ってくるシルヴィをイアスとアーネスの二人がすかさず諫めた。
「シルヴィ、そんなわたし残念だなんて思ってない」
「しかし、あなたは俺のガルディア行きに賛成したでしょう。俺が知らないとでも思ってるんですか」
「それは……」
わたしはそれ以上言い返すことが出来ず、「ごめんなさい」と謝った。
最初は渋ったけれど、確かに最終的には賛成すると言ったからだ。
「本当にごめんなさい」
「……謝罪はいいです。それくらいなら、行動で示してください。たとえば俺と一夜を過ごしてくださるとか」
「シルヴィ!」
アーネスとイアスが叫ぶ中で、わたしはなにを言われたのか分からずに、シルヴィを見返した。
「聞こえませんでしたか? 俺と寝てくださいと言ったのです」
そこでわたしは瞳を見開くと、己の体を抱いた。
シルヴィがまるで知らない人みたいで怖かったのだ。
「シルヴィ、いい加減にしろ。そうでないと……」
イアスが彼を黙らせようと詠唱する振りをした。
「シルヴィ、わたしそんなこと出来ないよ。わたしが愛しているのはカレヴィだけだもの」
言いながらカレヴィに貰った花束が目に入る。
それに気づいたのかシルヴィがそれを忌々しそうに目をやった。
「なぜなんだ。兄王はハルカをあんなに傷つけたじゃないか!」
「! シルヴィ!」
立ち上がったシルヴィに、わたしもつられて立ち上がった。
シルヴィはカレヴィの花束に向かうと、その花瓶を振り上げる。そして、思い切り床に叩きつけた。
部屋の床は絨毯だけれども、これには花束も耐えられなかったようで、無惨にも花びらが散った。
──カレヴィがくれた花束……。
わたしはふらふらと砕けた花瓶に近寄るとその場に膝を着いた。
「ハルカ様、危ないです!」
けれど、イアスのその忠告は間に合わなかった。
「あっ」
少しでも無事な花を見つけようと震える手を出したところで、わたしは花瓶の破片で手を切ってしまった。
そして、ぽたぽたと血が絨毯と衣装へ染み込んでいく。
「ハルカ様!」
イアスが瞬間的にわたしの傍に寄ると、怪我した手を押さえつけた。
そして傷口を観察すると、治癒魔法を唱えだす。するとみるみるうちにわたしの傷口が癒えだした。
「おしぼりを!」
「は、はいっ」
アーネスが叫ぶと、イヴェンヌがおしぼりを数本持ってくる。
それでイアスがわたしと自分の手を綺麗に拭いてから、既に傷口の塞がった患部に手を当てた。
すると、そこから温かいなにかが広がり、内側から傷を癒していった。
「……これでもう大丈夫です」
イアスがそう言って手を離すと、切る前と変わらない皮膚があった。
「あ、ありがとう、イアス、アーネスも」
二人にお礼を言うと、短い返事が返ってきた。
「ハルカ様、そのままでは織物が汚れてしまいますわ」
「あ、そうだね」
モニーカに言われてわたしはストールを外して貰った。ついでに金の腕輪も。
「ハルカ!」
そんなことをしているうちにカレヴィが騒ぎを聞きつけたのか、部屋に飛び込んできた。
「カレヴィ」
彼の顔を見たらほっとしてその場に座り込みそうになってしまった。
「危ないですよ」
そこをイアスが支えてくれて助かった。
「ありがとう、イアス。汚れちゃったね、ごめん」
「いえ、洗えばすみますから」
そんなことを言っていたら、カレヴィに手を取られて彼の胸の中に飛び込んでしまった。
「ハルカ……、兄王」
呆然とシルヴィが呟くのが聞こえたけれど、わたしは他のことが気にかかっていた。
「汚れちゃうよ、カレヴィ」
「おまえのものなら、かまわん」
ぎゅっと抱きしめられてわたしはきゅんとする。
「花束ならいくらでもやる。無茶をするな、ハルカ」
「うん、ごめんね」
その言葉で胸がいっぱいになり、わたしはひとつぶ涙をこぼした。
わたしはどうしようかとちょっと迷った。
でも、はっきりと自分の気持ちを表すいい機会だと思って、三人の入室を許可した。
するとソフィアが気を利かせて言ってくる。
「それではこのお花は別に移動させましょうか」
「うん……、そうして」
そしてモニーカが花台をどこからか持ってきて部屋の中央に花瓶は移動された。
そして、やがてシルヴィ達が入室してきた。
「やあ、ハルカ」
笑顔で挨拶してくるアーネスの陰で、イアスとシルヴィがわたしのストールと腕輪に素早く視線を走らせた後に、少し顔を曇らせた。
「ハーメイ産の織物と金細工の腕輪か。とても似合っているね」
「ありがとう」
アーネスの言葉に、わたしは頬を染めてお礼を言った。
似合ってるって、たとえ社交辞令であっても嬉しい。
すると、アーネスは苦笑し、イアスは無表情になり、シルヴィに至っては悔しそうな顔になった。
「そんなに嬉しそうにされると、こちらも複雑かな」
アーネスがそう言うってことは、これがカレヴィからの贈り物ってことは分かってるってことか。
……そうだよね。こんなに高価そうなものだものね。
わたしはストールに手をやりつつ、腕輪を見た。そして、部屋の中央に飾られた花瓶に目をやる。
「あの花も陛下の贈り物ですか」
よく気のつくイアスはそれだけで察したらしい。
「うん、そう」
なんだか気恥ずかしくて頬を染めながら頷いたら、シルヴィがむっとした顔になった。
「……それはそうと、俺のガルディア行きはなくなりましたよ。残念でしたね」
「シルヴィ!」
「シルヴィ、言い過ぎだ」
意地悪そうな顔で言ってくるシルヴィをイアスとアーネスの二人がすかさず諫めた。
「シルヴィ、そんなわたし残念だなんて思ってない」
「しかし、あなたは俺のガルディア行きに賛成したでしょう。俺が知らないとでも思ってるんですか」
「それは……」
わたしはそれ以上言い返すことが出来ず、「ごめんなさい」と謝った。
最初は渋ったけれど、確かに最終的には賛成すると言ったからだ。
「本当にごめんなさい」
「……謝罪はいいです。それくらいなら、行動で示してください。たとえば俺と一夜を過ごしてくださるとか」
「シルヴィ!」
アーネスとイアスが叫ぶ中で、わたしはなにを言われたのか分からずに、シルヴィを見返した。
「聞こえませんでしたか? 俺と寝てくださいと言ったのです」
そこでわたしは瞳を見開くと、己の体を抱いた。
シルヴィがまるで知らない人みたいで怖かったのだ。
「シルヴィ、いい加減にしろ。そうでないと……」
イアスが彼を黙らせようと詠唱する振りをした。
「シルヴィ、わたしそんなこと出来ないよ。わたしが愛しているのはカレヴィだけだもの」
言いながらカレヴィに貰った花束が目に入る。
それに気づいたのかシルヴィがそれを忌々しそうに目をやった。
「なぜなんだ。兄王はハルカをあんなに傷つけたじゃないか!」
「! シルヴィ!」
立ち上がったシルヴィに、わたしもつられて立ち上がった。
シルヴィはカレヴィの花束に向かうと、その花瓶を振り上げる。そして、思い切り床に叩きつけた。
部屋の床は絨毯だけれども、これには花束も耐えられなかったようで、無惨にも花びらが散った。
──カレヴィがくれた花束……。
わたしはふらふらと砕けた花瓶に近寄るとその場に膝を着いた。
「ハルカ様、危ないです!」
けれど、イアスのその忠告は間に合わなかった。
「あっ」
少しでも無事な花を見つけようと震える手を出したところで、わたしは花瓶の破片で手を切ってしまった。
そして、ぽたぽたと血が絨毯と衣装へ染み込んでいく。
「ハルカ様!」
イアスが瞬間的にわたしの傍に寄ると、怪我した手を押さえつけた。
そして傷口を観察すると、治癒魔法を唱えだす。するとみるみるうちにわたしの傷口が癒えだした。
「おしぼりを!」
「は、はいっ」
アーネスが叫ぶと、イヴェンヌがおしぼりを数本持ってくる。
それでイアスがわたしと自分の手を綺麗に拭いてから、既に傷口の塞がった患部に手を当てた。
すると、そこから温かいなにかが広がり、内側から傷を癒していった。
「……これでもう大丈夫です」
イアスがそう言って手を離すと、切る前と変わらない皮膚があった。
「あ、ありがとう、イアス、アーネスも」
二人にお礼を言うと、短い返事が返ってきた。
「ハルカ様、そのままでは織物が汚れてしまいますわ」
「あ、そうだね」
モニーカに言われてわたしはストールを外して貰った。ついでに金の腕輪も。
「ハルカ!」
そんなことをしているうちにカレヴィが騒ぎを聞きつけたのか、部屋に飛び込んできた。
「カレヴィ」
彼の顔を見たらほっとしてその場に座り込みそうになってしまった。
「危ないですよ」
そこをイアスが支えてくれて助かった。
「ありがとう、イアス。汚れちゃったね、ごめん」
「いえ、洗えばすみますから」
そんなことを言っていたら、カレヴィに手を取られて彼の胸の中に飛び込んでしまった。
「ハルカ……、兄王」
呆然とシルヴィが呟くのが聞こえたけれど、わたしは他のことが気にかかっていた。
「汚れちゃうよ、カレヴィ」
「おまえのものなら、かまわん」
ぎゅっと抱きしめられてわたしはきゅんとする。
「花束ならいくらでもやる。無茶をするな、ハルカ」
「うん、ごめんね」
その言葉で胸がいっぱいになり、わたしはひとつぶ涙をこぼした。
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