喪女と野獣

舘野寧依

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第八章:騒動再び

第88話 ハルカとの晩餐

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 待ちわびた晩餐の時間になると、ようやくハルカと会うことができた。

「カレヴィ、会いたかった」

 可愛らしくそう言ってくるハルカをカレヴィはすぐにも抱きしめたかったが我慢した。
 すると、ハルカがまずカレヴィの手に触れ、大丈夫なのを確認してから彼に抱きついた。
 相当にじれるが、ハルカが発作を起こしては大変なので背に腹は替えられない。

「俺もおまえに会いたかったぞ」

 カレヴィもハルカを抱きしめ返すと、ハルカはうっとりした様子でそれを聞いていた。
 その様子はこの上もなく可愛らしい。
 ハルカが背中に手を回してきたので、カレヴィはぎゅっと彼女を抱きしめた。
 ──幸福とはこういうことを言うんだな。
 カレヴィは愛しいハルカをその手に抱くことができ、再びハルカと婚約も果たして、幸福の絶頂だった。

「陛下、お食事が冷めますわ。申し訳ございませんが、それは後になさってください」

 カレヴィがハルカに口付けしようとしたところで、ゼシリアに止められた。
 ……もう少しだけ待ってくれればいいものをまじめなのも考えものだとカレヴィは思った。

 そしてカレヴィ達は晩餐に入ったのだが、そこでカレヴィはハルカと戯れるのを忘れなかった。

「はい、カレヴィ。あーんして?」

 ハルカは以前はあんなに恥ずかしがっていた「はい、あーん」に今はもう慣れたようだ。
 カレヴィは積極的なハルカに嬉しくなりつつも、差し出されたフォークから焼いた鶏肉を食べた。
 すると、肉汁が口の中ではじけてなんともいえない旨さが広がった。

「ほら、ハルカ」

 カレヴィもお返しにハルカに鶏肉を刺したフォークを差し出した。

「うん、ありがとう」

 すると、可愛らしくハルカが肉に食いついた。

「これ、おいしいね」
「そうか、それは良かった。ハルカ、もっと食べろ」
「うん」

 カレヴィはハルカに何度も食べさせた。
 もちろんその合間にハルカのお返しを受けたが。

「まあ、本当に仲がおよろしくて微笑ましいですわ」
「ええ、本当に」

 周りの侍女達がほおっと溜息を付いてくる。
 ──そうだ、俺達が仲がよいというのをもっと浸透させて、求婚者達を退けてやる。
 それが元老院のお偉方にどう見えるかなどということはカレヴィの頭からすっかり抜け落ちていた。

 それからカレヴィは、今日起こったことをハルカに尋ねた。
 ハルカは少し迷う様子を見せた後、アーネスとイアスが再婚約の件で訪ねてきたことを話した。

「それで、二人ともおまえを諦めたのか。……そんな訳はないな」
「あの二人はぎりぎりまであがくって言ってた。わたしはカレヴィと結婚するって言ったのに」
「……まあ、だいたい予想は出来ていたけれどな」

 苦笑いすると、カレヴィはサラダに手を伸ばした。

「それから、二人はわたしの発作について、利用する気でいるみたい。カレヴィ限定で出る訳じゃないかもしれないと言ってはおいたけれど」

 そこで、カレヴィはふっと息を付いた。

「それでも、諦めないと二人は言ってきたんだな」
「う、うん。イアスなんかは自分は魔術師だから発作が起きても大丈夫ですよ、とまで言ってた。まさかイアスがそこまで言うと思わなかったからびっくりしたよ」
「……そうか、確かにイアスはその点については有利だな」

 ハルカに発作が出てもすぐに対応できるイアスはカレヴィにとって頼もしくもあり脅威でもある。
 カレヴィはそこで手の止まっていたハルカに料理を食べるように勧めた。
 すると、ハルカははっとしたように料理をつつき出す。

「他には変わったことはなかったか?」
「ああ、途中でシルヴィが来たよ。遊学の件ですごく怒ってた」

 ……それは怒るだろうな。しかし、文句があるなら直接俺のところへ来ればいいものをとカレヴィは思った。

「それでどうした」
「……アーネスがガルディア国王に事情を説明すれば、彼の国に行くことは回避されるかもしれないと言ったら、シルヴィは早速書簡を送るって言ってた」

 思ってもいないアーネスの行動に、カレヴィは驚いた。そして大きな溜息をつく。

「ゼシリアがおまえに付いてなかったのが悔やまれるな」

 そうすれば、事前にシルヴィの行動を知ることも可能だった。
 すると、ハルカが慌てたように言った。

「カ、カレヴィ、ごめんね。すぐに知らせれば良かったね」
「まあ、過ぎてしまったことは仕方がない。……おそらく面倒を嫌ったガルディア国王は、シルヴィの遊学を断ってくるはずだ」

 これで、今までと事態は変わらないことが決定してしまった。
 相変わらず、イアスやアーネス達のように、シルヴィはハルカにちょっかいを出してくるということだ。
 やはり他人にどうにかして貰おうとしたことは、甘かったかもしれない。

「まあ、それはともかく、明日もこうやって朝食を取ろう。その後に、出来れば庭園を散策したいのだが」

 すると、ハルカはぱっと顔を輝かせて頷いた。

「もちろん、OKだよ。楽しみに待ってる。……でもカレヴィ、執務は大丈夫?」

 カレヴィは食事をお代わりしながら力強く頷いた。

「ああ、これから前倒しで執務だが、明日に支障のないようにする」
「ええ、大丈夫なの? 無理して体壊さないでね」

 ハルカが心配そうに言ってくるのに対し、カレヴィは肩を竦めた。

「俺が丈夫なのはハルカも分かっているだろう。大丈夫だ」
「う、うん……」

 そう言えば納得するかと思ったが、それでもハルカは心配そうにカレヴィを見てきた。

「そんなに心配そうな顔をするな。さっきも言った通り俺は大丈夫だ。……それにそんな顔をされたら思わず口づけたくなる」

 するとハルカは赤くなったが、彼女にしては少し大胆に言ってきた。

「口づけていいよ。わたしはあなたのことが好きなんだから」

 そうか、それならと、カレヴィはハルカの頤を持ち上げると、軽く二度三度と口づけをした。そして、それがどんどん激しくなっていくのをカレヴィ自身も止められなかった。

「カレヴィ……ッ」

 ハルカがカレヴィの胸元の布地を掴んでそれを堪える。
 そんなことが、しばらく続いていたが。

「……いかん」

 これでは元老院にハルカに溺れすぎるとまた言われてしまう。
 カレヴィが腕を放して呟くのをハルカはぼおっと見ていた。

「俺はこれで執務に入る。ハルカはゆっくりしていろ」
「え……、カレヴィ、デザートまだ、食べて、ない……よ」

 ハルカがまだぼおっとした顔で切れ切れに主張する。

「それはおまえが食べろ。俺はいい。甘いのは充分だ」

 カレヴィの言わんとすることが分かったのだろう、可愛らしくハルカが赤面する。

「それではな」
「うん、カレヴィ。明日楽しみにしてる」

 そこでもう一度カレヴィはハルカに口づけすると、おもむろに立ち上がった。

「カレヴィ、頑張ってね」
「ああ」

 ふらふらとハルカが立ち上がるのをカレヴィは押しとどめると、ハルカの部屋から立ち去った。

 ──明日のハルカとの庭園の散策を楽しむためにも執務を頑張らなければな。
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