Wヒロインの乙女ゲームの元ライバルキャラに転生したけれど、ヤンデレにタゲられました。

舘野寧依

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女神選抜試験

第9話 ハーヴェイの部屋にて

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 楽園から帰ってきた後、クリスはまだ余力があったので、ハーヴェイのところに行くことにした。

 ちなみにルーカスはマリーの件で土の魔術師クライドのところに行った。
 一緒に行くべきかとクリスは悩んだが、彼が居づらいだろうからいいと断ってきたのだ。
 一方のマリーはどうやらティルナノーグに土の魔物が多く出没しているらしく、緑の魔術師のレイフと魔物討伐に出かけている。

 クリスはルーカスに感謝して、意気揚々とハーヴェイの部屋のドアをノックした。
 すると、彼の侍従が応対に出て、すぐにクリスはハーヴェイの部屋に通された。

「こんにちは、ハーヴェイ様。昨日はご本をありがとうございました」

 いつも通りに挨拶すると、彼は執務机から立ち上がり、ああ、と頷いた。
 それから、応接セットのソファに座るように促され、クリスがそうするとすかさず侍従が紅茶を出してきた。

「嬉しいですわ。喉が乾いていましたの」

 クリスはそれに手を着けると、すぐに飲み干してしまった。
 火属性の魔物を相手にするだけに、現場は熱い。
 魔物討伐から帰ってきた際には、いつもハンスが飲み物を用意して待っているのだが、今回は急ぐからと遠慮してしまったのがまずかった。
 すると、それを見た侍従がおかわりの紅茶をクリスのカップに注いだ。

「ありがとう」

 にっこりと彼に微笑むと、侍従は赤くなりながらいいえと言った。
 クリスは紅茶に今度はミルクと砂糖を入れてその香りを楽しむ。

「……魔物討伐はうまくいっているようだな」
「ええ、ゴブリンやオーガはあらかた退治しましたわ。ですが、まだ強敵が残っています。一番手強いのが火竜ですね」

 クリスはこれからの戦況を思い、ため息を一つついた。
 いくらルーカスがついているというものの不安は隠せない。
 むしろ、彼の邪魔になることをクリスは恐れた。
 クリスがそう言うと、ハーヴェイは普段無表情なのに、真剣な顔をして言った。

「いや、そなたは魔物討伐を真面目に行っているから今は多少の強敵でも大丈夫だろう。その証拠にそなたの能力がこの短期間で増大しているのが見える」
「そう、ですか?」

 クリスが不安そうにハーヴェイを見ると、彼との親密度と愛情度が少し上がった。

「そうだ、だからそなたは不安に思うことなどない。ただ、火竜はまだ早いかもしれないが」
「やはり、そうですよね。わたくし明日はハーヴェイ様にいただいた本に習って、育成を行おうと思っておりますの。他の方々にも挨拶をまだしておりませんし、早くお会いしないといけませんわね」

 するとハーヴェイとの愛情度がまた少し増えた。

「そうか。そなたはわたしが渡した本をきちんと活用しているのだな」

 すると、クリスが照れたように笑った。
 そうすると、美しいなかにも可愛らしいクリスの内面が垣間見えて、彼との愛情度がまた少し上がった。
 うわーっ、今日はハーヴェイ様の数値がいい感じで上がってる。この調子で頑張らないと。

「はい、昨日はいろいろあってまだ序盤しか読めてませんが、近いうちに読破したいですわ」

 クリスがにっこりと微笑むと、親密度も少し上がった。

 よっしゃーっ、いいよいいよー!
 この調子でどんどん上がれ~っ。

 クリスが心の中でそんなことを思っているとは露とも知らずにハーヴェイはクリスに尋ねてきた。

「そういえば、今朝マリーが『このタラシ、クリスに触るな』と叫んでいたが、なにかあったのか?」

 それでクリスは飲んでいた紅茶に思い切りむせてしまった。

「し、失礼しました」

 慌ててハンカチを取り出して口に当てる。
 だが、咳は一向に治まる気配はない。
 すると、ハーヴェイがソファから立ち上がってクリスの背中を撫でた。
 すると、たちどころに咳が治まって、クリスはハーヴェイを見た。

「今のは治癒魔法ですの?」
「ああ、随分と苦しそうだったからな。許可なく触れて悪かった」

 そう言うと、ハーヴェイは元の席に戻った。

「いえ、助かりましたわ。ありがとうございます」

 すると、ハーヴェイとの親密度がぐんと上がった。

 おおお、こんなことで上がるなんて。

 クリスは感動していたが、はたっとハーヴェイの質問に答えていないことに気がついた。

「……先程の質問にお答えしますが、言われていたのはルーカス様です」

 すると、わずかにハーヴェイは瞳を見開いた。

「しかし、暴言ではないか? マリーはいったいどうしたのだ」

 ……これは答えなければいけないだろうか?
 下手したら、クリスとルーカスが恋仲だとハーヴェイに誤解を与えることになる。

「あの、非常に申し上げにくいのですけれど、わたくし、昨日の討伐の時に疲れてしまって、大丈夫だと申し上げたのですけれど、ルーカス様に横抱きされて寮まで帰ったのですわ」
「そうなのか? まあ、ルーカスがやりそうなことであるが」

 クリスはせっかく上がったハーヴェイとの愛情度が下がりはしないかとひやひやしたがそんなことはなかったようだ。

「はい。それをどこからか聞きつけたのか、マリーがわたくしにルーカス様と会っては駄目との一点張りで。わたくし、マリーがルーカス様をお慕いしているのかと思いましたら違いましたの」
「……マリーが慕っていたのはそなただったのだな」

 うっ、ハーヴェイ様鋭い。

「マリーはわたくしに好きだ、愛していると告白してきました。……彼女の気持ちには応えられませんし、正直困っています。育成にも支障が出かねませんし」

 クリスが真情を吐露するとハーヴェイとの親密度がまた上がった。

「ルーカスだけでなく、他の者ともいざこざが起こりかねないというのだな」
「はい。彼女の気持ちが一過性のものでしたら良かったのですけれど、それもなさそうで……」

 すると、ハーヴェイが不思議そうな顔をした。
 ああ、こんな顔もされるんだ。いいものを見たな。
 そんな場合ではないというのに、クリスは普段無表情のハーヴェイにいちいち感動する。

「どういうことだ。そなたがそう言うということはなにか根拠があるのか?」

 これはまだクライド様から魔術師様達に通達されてないことだ。下手をすれば、されないことになる。
 しかし、クリスは顔を上げてしっかりとハーヴェイを見た。

 うん、ハーヴェイ様になら話してもいい。

「……信じられないでしょうけれど、マリーとわたくしは前世で知り合いで、わたくしはマリーだった男性につきまとわれていました。それがある日、事故で二人とも亡くなってしまって、マリーは今もわたくしのことを想っています。ですからよけいにわたくしはマリーのことを受け入れがたいのです」

 すると、信じがたいことを聞いたというふうにハーヴェイが目を瞠った。
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