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女神選抜試験
第35話 手紙のやり取り2
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「とりあえず、今度から朝のお迎えはハーヴェイ様以外はお断りして」
クリスはハーヴェイに送られてから、メイドのノーラにそう伝えた。
寮までの帰り道、ハーヴェイに毎朝迎えに行くと言われたクリスは、嬉しさを抑えきれずに笑顔になった。
「まあ。これからはハーヴェイ様がお嬢様をお迎えに上がるのですね」
ノーラも嬉しそうに片頬に手をやりながら言った。
すると、クリスはなんだか気恥ずかしくなる。
「え、ええ、そうよ。だからお願いね、ノーラ」
「かしこまりましたわ。マリー様でも、他の魔術師様でも断固として拒否させて頂きますわ」
力強く頷くノーラに頼もしさを覚えて、クリスは安心した。
「では、よろしく頼むわね」
これで朝はハーヴェイと一緒に神殿まで行ける。
そう思うだけで、クリスの気分は高揚した。
「ハーヴェイ様……」
クリスはハーヴェイの優しい笑顔や、口づけや抱擁を思い出して、とても幸せな気分になった。
──こんなに幸せでどうしましょう。
恋も育成も順調で、クリスは怖いくらいだった。
いけない。浮き足立ってはいけないわ。育成の勉強をしなくては。
クリスはハーヴェイから貰った本を開くと、栞を挟んだ続きから読み出した。……もっとも、この本は既に何度も読了したのであるが。
そのうちにノーラが夕食の準備が出来たことを伝えに来て、クリスの予習兼復習はとりあえずお開きになった。
クリスが夕食と入浴を済ませた後、いつの間にやらマリーとルーカス、ギルバートから手紙が届いていた。
『クリスへ
僕はこんなことくらいで君を諦めたりはしないよ。』
マリーからの手紙だと思っていたが、レイフからだっただろうか。
そう思って、クリスは手紙の差出人を確かめたが確かにマリーだった。
クリスは狐につままれたような気分になりながら、マリーの手紙の続きを読んだ。
『邪魔者は徹底排除する。僕と君は前世から結ばれる運命なんだからね。
じゃあ、また手紙を書くよ、月穂ちゃん。
築島東吾こと、マリー』
「ツキシマ・トウゴ……」
それがマリーの前世の名なのだろうか。複雑な文字は難なく読むことが出来、かつそれが男性の名であることを理解出来てクリスは薄ら寒い気持ちになった。
それに、ツキホというのは前世の自分の名なのだろうか。
ピンとは来ないが、これまた字が読める。
まぎれもなく女性の名だ。
だが、前世は前世。
今生はクリスティアナ・ド・セレスティアだ、とクリスは思った。
そこでクリスはマリーへ手紙の返事を書くことにした。
『マリーへ
それがあなたの地なの?
レイフ様かと思って差出人を見返してしまったわ。
それはともかく、ハーヴェイ様とわたくしの幸福の邪魔をするのは許さないわ。
クリスティアナ』
「……」
少し厳しく書きすぎただろうか。
クリスは返事を出してから、はっと我に返ったが、マリーの手紙を見返して、やはりフォローする必要はないと思った。
ハーヴェイに敵愾心を持つマリーにはもっと厳しく書いても良いぐらいだ、とクリスは思った。
それからクリスは気を取り直して、ルーカスの手紙を開いた。
『クリスティアナ
楽園にはまだまだ魔物がはびこっている。
明日は是非とも魔物討伐に行こう。
ルーカス』
ルーカスにしては素っ気ない文面で、クリスは拍子抜けしたが、マリーのような脅しが書いてないことにほっとして彼に返事を書いた。
『ルーカス様
楽園のことを気にして頂いてありがとうございます。
明日はまたクライド様とあなた様とご一緒に魔物討伐に出かけたいと存じます。
よろしくお願いいたします。
クリスティアナ』
魔物討伐は明日の予定に入っていたので、クリスはこれは普通に捌いた。
あと問題なのは、キスまでされたギルバートの手紙だ。
『クリスティアナ
今どうしている?
俺はあんたの写真を見ながらこの手紙を書いている。
キスの件だが、俺は謝らないぞ。あんたもそうされても困るだろうしな。
恋人がいようが、愛している、クリスティアナ。
ギルバート』
「……」
確かにキスされたことを謝られても、侮辱された気持ちになるだけだろう。
しかし、彼の言う写真とは魔術師達に配られた育成用の個人資料の物だろうか。
クリスも資料に載っていたハーヴェイの顔写真に何度もうっとりしていたので、気持ちは分かるが、なんとなく嫌な気持ちだ。
それにしても、クリスにはハーヴェイというれっきとした恋人がいるのを知っておりながら、平然と「愛している」と言ってくる気持ちが分からない。
『ギルバート様
そのようなお言葉をいただいても、困ります。
わたくしが愛していますのは、ハーヴェイ様おひとりなのですから。
クリスティアナ』
ギルバートに返事を送ったところ、すぐにまたその返事が返ってきた。
『クリスティアナ
あんたならそう返ってくると思っていた。
だが、あんたの存在があまりにも鮮烈すぎて、この想いを断ちきることが出来ない。
是非、ハーヴェイだけではなく、俺にも目を向けて欲しい。
ギルバート』
「……」
クリスはこれ以上続けてもたぶん平行線なままだろうと察して、ギルバートに返事を書くのをやめた。
本当にどこが気に入ったのか分からない。
執着してくるマリーやルーカスも厄介だが、ギルバートも結構面倒そうな相手だと感じ取り、クリスは深いため息をついた。
クリスはハーヴェイに送られてから、メイドのノーラにそう伝えた。
寮までの帰り道、ハーヴェイに毎朝迎えに行くと言われたクリスは、嬉しさを抑えきれずに笑顔になった。
「まあ。これからはハーヴェイ様がお嬢様をお迎えに上がるのですね」
ノーラも嬉しそうに片頬に手をやりながら言った。
すると、クリスはなんだか気恥ずかしくなる。
「え、ええ、そうよ。だからお願いね、ノーラ」
「かしこまりましたわ。マリー様でも、他の魔術師様でも断固として拒否させて頂きますわ」
力強く頷くノーラに頼もしさを覚えて、クリスは安心した。
「では、よろしく頼むわね」
これで朝はハーヴェイと一緒に神殿まで行ける。
そう思うだけで、クリスの気分は高揚した。
「ハーヴェイ様……」
クリスはハーヴェイの優しい笑顔や、口づけや抱擁を思い出して、とても幸せな気分になった。
──こんなに幸せでどうしましょう。
恋も育成も順調で、クリスは怖いくらいだった。
いけない。浮き足立ってはいけないわ。育成の勉強をしなくては。
クリスはハーヴェイから貰った本を開くと、栞を挟んだ続きから読み出した。……もっとも、この本は既に何度も読了したのであるが。
そのうちにノーラが夕食の準備が出来たことを伝えに来て、クリスの予習兼復習はとりあえずお開きになった。
クリスが夕食と入浴を済ませた後、いつの間にやらマリーとルーカス、ギルバートから手紙が届いていた。
『クリスへ
僕はこんなことくらいで君を諦めたりはしないよ。』
マリーからの手紙だと思っていたが、レイフからだっただろうか。
そう思って、クリスは手紙の差出人を確かめたが確かにマリーだった。
クリスは狐につままれたような気分になりながら、マリーの手紙の続きを読んだ。
『邪魔者は徹底排除する。僕と君は前世から結ばれる運命なんだからね。
じゃあ、また手紙を書くよ、月穂ちゃん。
築島東吾こと、マリー』
「ツキシマ・トウゴ……」
それがマリーの前世の名なのだろうか。複雑な文字は難なく読むことが出来、かつそれが男性の名であることを理解出来てクリスは薄ら寒い気持ちになった。
それに、ツキホというのは前世の自分の名なのだろうか。
ピンとは来ないが、これまた字が読める。
まぎれもなく女性の名だ。
だが、前世は前世。
今生はクリスティアナ・ド・セレスティアだ、とクリスは思った。
そこでクリスはマリーへ手紙の返事を書くことにした。
『マリーへ
それがあなたの地なの?
レイフ様かと思って差出人を見返してしまったわ。
それはともかく、ハーヴェイ様とわたくしの幸福の邪魔をするのは許さないわ。
クリスティアナ』
「……」
少し厳しく書きすぎただろうか。
クリスは返事を出してから、はっと我に返ったが、マリーの手紙を見返して、やはりフォローする必要はないと思った。
ハーヴェイに敵愾心を持つマリーにはもっと厳しく書いても良いぐらいだ、とクリスは思った。
それからクリスは気を取り直して、ルーカスの手紙を開いた。
『クリスティアナ
楽園にはまだまだ魔物がはびこっている。
明日は是非とも魔物討伐に行こう。
ルーカス』
ルーカスにしては素っ気ない文面で、クリスは拍子抜けしたが、マリーのような脅しが書いてないことにほっとして彼に返事を書いた。
『ルーカス様
楽園のことを気にして頂いてありがとうございます。
明日はまたクライド様とあなた様とご一緒に魔物討伐に出かけたいと存じます。
よろしくお願いいたします。
クリスティアナ』
魔物討伐は明日の予定に入っていたので、クリスはこれは普通に捌いた。
あと問題なのは、キスまでされたギルバートの手紙だ。
『クリスティアナ
今どうしている?
俺はあんたの写真を見ながらこの手紙を書いている。
キスの件だが、俺は謝らないぞ。あんたもそうされても困るだろうしな。
恋人がいようが、愛している、クリスティアナ。
ギルバート』
「……」
確かにキスされたことを謝られても、侮辱された気持ちになるだけだろう。
しかし、彼の言う写真とは魔術師達に配られた育成用の個人資料の物だろうか。
クリスも資料に載っていたハーヴェイの顔写真に何度もうっとりしていたので、気持ちは分かるが、なんとなく嫌な気持ちだ。
それにしても、クリスにはハーヴェイというれっきとした恋人がいるのを知っておりながら、平然と「愛している」と言ってくる気持ちが分からない。
『ギルバート様
そのようなお言葉をいただいても、困ります。
わたくしが愛していますのは、ハーヴェイ様おひとりなのですから。
クリスティアナ』
ギルバートに返事を送ったところ、すぐにまたその返事が返ってきた。
『クリスティアナ
あんたならそう返ってくると思っていた。
だが、あんたの存在があまりにも鮮烈すぎて、この想いを断ちきることが出来ない。
是非、ハーヴェイだけではなく、俺にも目を向けて欲しい。
ギルバート』
「……」
クリスはこれ以上続けてもたぶん平行線なままだろうと察して、ギルバートに返事を書くのをやめた。
本当にどこが気に入ったのか分からない。
執着してくるマリーやルーカスも厄介だが、ギルバートも結構面倒そうな相手だと感じ取り、クリスは深いため息をついた。
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