呪われた辺境伯は、異世界転生者を手放さない

波崎 亨璃

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第一章

007 一時的な居場所

 専用の部屋を用意してもらった。
 やたら広い、それに無駄に豪華ときた。

「……一人用のサイズじゃないだろ、これ」

 ベッドが二つ置けそうな広さに、ソファと暖炉まである。
 セバスチャンが、丁寧に頭を下げた。 

「カルマ様のお部屋でございます。城の中では、最も魔力の影響が少ない場所を選びました」
「選ばれ方が不穏なんだけど」
「安全、という意味では最優先です」

 その言い方が逆に怖い。
 セバスチャンが出て行った後、しばらく一人になる。
 窓から顔を覗かせ、外を見ると森と霧と遠くの城壁が見えた。
 完全に閉じた世界だ。

「……ほんとに帰れなくなったな」

 言葉にすると、ようやく実感が湧いてくる。
 異世界。
 呪われた領地。
 執着強めの辺境伯。
 人生、どこで間違えたんだろう。
 
 ――コンコン。
 ノックの音が部屋に響く。

「どうぞ」

 入ってきたのは、レオニスだった。

「……落ち着いたか」
「まあ、一応」

 彼は部屋の中を一通り見回してから、俺を見る。

「何か、不都合は」
「今のところはない」

 嘘ではない。
 ベッドは柔らかいし、暖炉も暖かい。
 文句を言う理由はない。
 ただ。

「ここ、出てもいいのか?」
「……必要があれば」

 必要があるかどうか、決めるのは誰だ。
 その答えは聞かなくてもわかる。

「俺、いつまでここにいることになってるの?」

 そう聞くと、レオニスは少しだけ間を置いた。

「……決めていない」
「決めてないって」
「だがお前がここにいる限り、城は機能する」
「機能って何」
「……俺が、正気でいられる」

 さらっと重いこと言われた。
 俺は、思わず苦笑する。

「それ、責任重すぎない?」
「事実だ」

 即答。
 しかも、冗談じゃない顔。

「お前がいなくなればこの城は、また元に戻る」

 ――ー人が近づけない場所に。

 言外に、そう含んでいた。

「……ねえ」

 俺は、少しだけ声を落とした。

「それってさ。俺がここにいる理由“俺の意思”じゃなくない?」

 レオニスは、一瞬だけ目を逸らした。

「……否定はしない」

 その正直さが、逆につらい。

「とは言っても出るとか戻る方法とかって何一つ分からないんだけどね」

 俺は肩をすくめる。

「現状、ここにいるのが一番マシだよ」

 レオニスは何か言いたそうにしてから、静かに言った。

「……なら、約束しろ」
「何を」
「勝手に消えるな」

 声が、ほんの少しだけ震えていた。
 辺境伯。
 呪われた貴族。
 誰も近づけない男。
 そう呼ばれ恐れられていた人が俺に向かって、こんな言葉を言う。

「私の視界から、消えるな」

 それは命令というより――願いに近い。
 俺は少し迷ってから、小さくうなずいた。

「……努力はする」

 その答えに、レオニスは、わずかに安堵したような顔をした。
 その瞬間、はっきり分かった。
 もう俺は、この城で“客”じゃない。
 “設備”でもない。

 “必要条件”になっているみたいだ。
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