呪われた辺境伯は、異世界転生者を手放さない

波崎 亨璃

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第二章

016 奪われる感覚

 その日は、久しぶりに城に人が多かった。

 商人と、魔術師団の下級構成員。
 城の補給と形式的な調査らしい。

「……また来たんだ」

 例の“異界由来”の件。
 表向きは雑務、でも本音は――俺。

「カルマ様、少々こちらへ」

 若い魔術師がにこやかに声をかけてきた。

「魔力測定だけですので」
「……」

 無意識にレオニスを見る。
 彼は一瞬だけ目を細めた。

「必要ない」

 若い魔術師へ俺の代わりに即答。

「ですが、形式ですので」
「拒否する」

 不機嫌なのか声がいつもより更に低い。
 場の空気がぴりっと張る。

「……少しだけなら」

 せっかくレオニスが間に入って止めてくれたにもかかわらず俺は、思わず口走ってしまった。
 その瞬間レオニスの視線が、俺に向く。

「……構わないのか」
「まあ……触られるだけでしょ」

 魔術師はほっとした顔で俺に近づく。
 手を伸ばして俺の手首に、指が触れた。

 ――ぞわっ、とした。

 嫌悪とかじゃない。
 ただ、違和感。
 冷たいというか“合わない”感覚。

「……すみません」

 思わず手を引いた。

「やっぱ、やめます」

 魔術師は俺の行動にきょとんとして目を丸くする。

「え?」
「……無理」

 理由は、言えなかった。
 でも触れられた瞬間、胸の奥がざわついた。
 それを見ていたレオニスが静かに言う。

「分かっただろ」
「……何が」
「お前は俺以外には、“合わない”という事を」

 その言い方がやけに腹に落ちてしまって、悔しい。

「そんなの、分かんないよ」
「分かる」

 またもや、即答。

「お前は俺の魔力としか、調和しない」

 魔術師は気まずそうにレオニスの顔を窺った後引き下がった。
 その場が解散した後、廊下を歩きながら俺はまだ胸のざわつきを引きずっていた。

「……さっきの」
「何だ」
「触られた時」

 言葉を探す。

「なんか……変な感じだった」

 レオニスは少しだけ足を止める。

「嫌だったか」
「嫌っていうか……」

 正直に言う。

「……奪われるみたいな?」

 自分で言ってびっくりした。
 奪われる。
 何を?
 誰に?

「……俺以外に触られるのが」

 続きを言えなかった。
 レオニスはしばらく黙ってから、低く言った。

「……それは」

 少しだけ声が和らぐ。

「嫉妬だ」
「……は?」

 即否定したかった。
 でも、胸のざわつきが否定を許してくれない。

「……俺、そんなキャラじゃない」
「知っている」
「じゃあ、なんで」
「それでも、お前は」

 レオニスは俺を見る。

「俺に、触れられていたい」

 その言葉で全部、つながった。
 キスを待つようになって、触れられないと落ち着かなくて、他人に触られて、嫌で……。

 ――なんだよこれ。

 完全に、恋、してんだ。

「……うわー最悪」

 俺は小さく呟いた。

「何が」
「レオニスしか平気じゃなくなってる」

 それは、自由を失う感覚なのに。
 なぜか安心も一緒にくっついてきてしまう。
 レオニスは、静かに言った。

「それでいい」
「……よくないだろ」
「だが、お前は」

 レオニスの大きな手が、俺の手首に触れる。
 さっきと違って胸の奥がすっと静まる。

「もう、戻れない」

 その事実を、俺は、否定しなかった。
 怖いのに。
 嫌なのに。
 ……それでも。
 奪われる感覚より離れる想像の方が、ずっと怖かった。
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