呪われた辺境伯は、異世界転生者を手放さない

波崎 亨璃

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第二章

018 戻る場所

 城の外に出る話が正式に出された。
 政府側は、穏やかな顔で告げた。

「異界由来の存在である以上、一度中央での保護が必要です」

 保護、か。
 聞こえはいいんだけどその実際は、“回収”。

「……拒否権は」

 俺が聞くと魔術師は少し困った顔をした。

「基本的には……ありません」

 レオニスが何も言わない。
 ただ机の上で指を組んでいる、それが逆に怖かった。
 部屋を出た後、俺はレオニスの執務室に入った。

「……さっきの」
「聞いていた」
「俺、本当に行かないとダメなのか?」
「……」

 数分間の長い沈黙、答えがないまま空気だけが重くなっていく。

「……正直に言うと」

 レオニスが重たそうに口を開く。

「お前が城を出れば俺は、制御を失う」
「……それ」
「事実だ」

 つまり、俺がいないとこの人は壊れる。

「でも」

 突然目の前で自分自身を落ち着かせるよう、深く息を吸う、吐くを繰り返すレオニス。

「それでも私は、お前を縛るつもりはない」

 その言葉。
 本来なら優しいはずなのになぜか、胸がひどく冷えていく。

「……俺に選ばせるんだな」
「そうだ」

 自由だよ、って顔で。
 でも俺にはもうその自由が怖すぎた。

「……もし」

 声が震える。

「俺が行ったら」
「……」
「レオニスはちゃんと、生きていけるの?」

 レオニスは答えなかった。その沈黙が答えだった。
 俺は、ゆっくり息を吸い込み、心を落ち着かせる。

「……じゃあさ」

 レオニスを見る。

「俺、行かない」
「……カルマ」
「中央とか、政府とか、王都とか」

 肩をすくめる。

「興味ないし、難しくてわかりそうにもないし」
「だが、お前の安全は――」
「ここが、俺が思うに一番安全かな」

 即答だった。

 だってここには、この人がいる。
 それだけで、もう十分だった。

「……俺の戻る場所、ここだし」

 その瞬間、レオニスの表情がはっきり変わった。
 驚きと、安堵と、それから――何か、危険なもの。

「……後悔はしないか」
「しない予定」

 ……嘘じゃない。
 俺はもう城の外の世界を、想像できなくなっていた。

「……選んだのは」
「俺」

 はっきり言う。

「レオニスのせいじゃない」

 自分で選んだ、自分で閉じた。
 それなのに胸の奥が変に軽い。
 レオニスはゆっくり俺に近づき距離を詰める。
 額に、そっと手を置く。

「……戻る場所を決めたな」
「うん」
「……二度と、外は見えなくなる」
「それも構わない」

 そう答えた瞬間。
 わざとなのかたまたまなのか、レオニスの顔がより近くなり……キスが落ちる。
 軽くリップ音の様な音がした。
 それは鎮静でも、治療でもない。
 ただの確認。

 ――俺はもう、帰る場所を失ったんだ。

 同時に、帰る場所をひとつに決めた。
 それがどんな檻かわかっていても。
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