呪われた辺境伯は、異世界転生者を手放さない

波崎 亨璃

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第二章

020 契約の証

 夜、城全体の結界が静かに強化された。
 普段より魔力の流れが重い。
 原因は、俺。

 カルマ=異界由来魔術媒体。

 つまり今この城の結界は俺を核にして動いている。

「……すごいな」

 城の1番高い塔の上。
 危なくないようにと設置された強化窓から外を見る。
 そこから見えた空気が微妙に光っている光景が、目を奪われる程に綺麗だと感じた。

「俺、城の心臓部じゃん」

 軽口のつもりだった。
 でも、レオニスは否定しない。

「その通りだな」
「……即肯定なんだ」
「事実だからだ」

 前のめりに窓へ近づき過ぎていた俺に、危ないだろうと心配の言葉をかけるとそのまま背後からレオニスは腕を回し、自身の方へ抱き寄せる。

「カルマの魔力はこの城と完全に同調している」
「……つまり」
「離れてしまえば結界は崩れる、という事だ」

 言い方が、重すぎる。

「それ、完全に人質システムじゃん」
「違う」

 腕に力が入る。
 それにより一層レオニスとの距離が縮まり心臓に悪い。

「お前は、人質ではない」
「じゃあ何」

 突然窓から離されると、今度は背中にあった温もりが正面へと移動する。
 レオニスが俺の前に。
 顎にレオニスの大きな手が触れ、目を合わせるためかクイッと上げられた。

「契約者だ」

 その言葉に胸の奥が静かに熱っていく。

「……俺と?」
「そうだ」
「仕事として?」
「生き方として」

 逃げ道がない言い方。
 でも、不思議と恐怖もなく。

「……俺、後悔はしないよ」

 後悔なんかしない。
 自然と口から出た本音。

「もうとっくに選んでるし」

 レオニスのもう片方の手が俺の耳から頭の後ろへ触れる。
 いつもより、ゆっくり、優しく。

「……今からするキスは」

 安心する、優しい低音。

「鎮静でも、治療でもない」
「うん」
「命令でもない」
「うん」
「……契約の証だ」

 その言葉で、
 心臓が、少しだけ跳ねた。
 でも逃げなかった。
 レオニスの唇が、初めて、額じゃなく――俺の唇に触れた。
 短く、静かなキス。
 の後に、噛み付くような激しいキスへと変わる。

 魔力が波打つ。
 暴走じゃない、同調。
 結界が脈打つのが分かる。
 城と、俺と、レオニスが、同じリズムで呼吸している。

「……あ」

 離れた瞬間なぜか、俺は涙が出そうになった。

「……これ」
「契約は、完了した」
「これが契約、か。俺、もう……ここから逃げられないね」

 冗談っぽく言ったつもりだったが、レオニスはかすかに笑うと同時に右耳の裏へ吸い付いてきた。

「……逃がす気もない」
「知ってるってば」
「カルマ。お前はずっと俺の胸の中にいればいい」

 もう胸は苦しくならなかった、むしろ落ち着くというか。
 俺はもう、選んだ。
 この城。
 この人。
 この世界。
 全部。
 誰かに閉じ込められたんじゃない。
 自分でここを“居場所”にした。

 それが檻でも、契約でも、愛でも。
 俺にはもう、同じ意味だった。
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