呪われた辺境伯は、異世界転生者を手放さない

波崎 亨璃

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番外編

夜に溺れる

 夕食を終えた。
 セバスチャンさんへお礼を言うと温かい湯船を用意したのでどうですかと、だだっ広い大浴場を勧められた。
 久しぶりにゆっくり、1人か~。
 普段だとシャワーのみでも悪くないと思っているカルマ。
 だが、セバスチャンさんに大浴場をすすめられたらそりゃあ行くに決まっている。
 レオニスには大浴場にいくとだけ伝えセバスチャンさんに案内してもらう事に。
 ――静かだなぁ。
 体を洗い終えた後、お待ちかねの湯船へ肩まで浸かる。
 人がいないわけじゃないにしても、結界が完全に安定してから城はやけに静かだった。
 気持ち長く浸かった後はセバスチャンさんに用意していただいたタオルで体を拭き、寝具用の手触りが気持ちのいい服を身に付け部屋まで戻った。
 自分の部屋ではなくレオニスの部屋へ戻ると、紙を見つめ眉間にしわを寄せたレオニスが椅子に座っていた。
 どうやらレオニスもお風呂に入ったらしい、バスローブを着ている。

「大浴場気持ちよかったよ」

 部屋の中へと入り、そのまままっすぐ寝室へと向かう。

「そうか」
「今度レオニスも一緒に入ろうな」
「……そうだな」

 寝室のふかふかの大きなベッドの隅に腰掛けながら言うと、レオニスは目を通していた書類から俺へ視線を向ける。

「どうした」
「最近さ」

 少しだけ間を置く。

「キス、増えてない?」

 何をいまさらと思われるかもしれないが、聞きたかった言葉を口にした。
 俺の言葉に否定しないレオニス。

「必要だからだ」
「……もう治療じゃないでしょ」
「だが触れなければ落ち着かない」
「それ、俺のセリフ」

 堪えられずにハハッと声を出して笑ってしまった、でも胸の奥は熱い。
 レオニスは腰掛けていた椅子から立ち上がり、ベッドの隅に腰を落としたままの俺の前に来る。
 長くて綺麗なレオニスの指が頬に、触れる。

「……今も」

 甘さを含んだ低い声。

「触れたい」
「命令?」
「願望だ」

 その言葉だけでもう十分すぎる。
 唇が重なる、ゆっくりと。
 確認するみたいに。
 最初は軽くそしてだんだん、深くなり息が混じって距離が消える。

「……ねえ」

 キスの合間に、囁いた。
 慣れないキスに腰が少しずつ抜けていく。

「これ、契約に含まれてる?」
「……含まれている」
「便利だね、その契約」
「破棄不可だ」
「最悪」

 笑いながら言うとレオニスは俺を抱き寄せた。
 ベッドに倒れ込む。
 視界が、天井に変わる。
 そのまま、唇が首に落ちて――

「………んッ……」

 言葉が続かない。
 触れ方がもう“鎮静”じゃない。

「ふっ……んんッ……」

 魔力も、結界も、関係ない。
 ただ近くにいたくて、離れたくなくて。

「……はぁはぁ……うぅ……んッ……」

 息が乱れ呼吸がうまくできなくなる、それでも。

「……これさ」
「何だ」
「もう完全に、恋人だよね」

 レオニスは、一瞬だけ間を置いてから照れくさそうに答えた。

「……今さらな気もするが」
「それでも言葉にして欲しい時もある」
「……そう言う事か」

 その返事がやけに優しくて。
 胸の奥が熱を持ち熱くなる。
 それ以上の言葉はもう必要なかった、はずなのに。

「……レオニス、好きだよ」
「ああ、カルマ。私は愛しているぞ」

 言葉にすれば、恥ずかしさより喜びが生まれた。
 何度も唇、瞼、頬、額、鼻先へとキスを繰り返すレオニスだったけど、次第にキスが首から下へと――落ちていく。
 歯を食いしばるも俺じゃない声が口の隙間から空気を含み漏れ出ていく。
 ――恥ずかしい。
 なのに、嫌じゃない。
 初めて味わう矛盾に戸惑いながらも、音を立て首へ吸い付くレオニスの姿を可愛いと思ってしまった俺はどうにでもなれと歯を食いしばるしかなかった。

 夜は、長い。
 結界の光の中で二人分の気配だけが、静かに溶けていった。



 ――翌朝。
 セバスチャンさんを含め使用人たちは何も聞かない。
 ただ一つだけ確実に分かったことがあるとすれば、辺境伯はその日一日異常なくらい機嫌が良かった。

 カルマはまる2日ほど部屋からいや、布団の中から出る事が出来そうもなかった。
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