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天気予報

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社会人になって始めた一人暮らし。身も心も一人だ。
さっきまで晴れていた空も徐々に灰色に染まって淀んでいった。
時間が経つにつれて新しい思い出がつくられるのと同時に、
懐かしい記憶は忘れ去られていく。どこか切ない。
懐かしさは時に後悔へと姿を変える。過去の思い出にやり残した
事があるときだ。やらない後悔より、やって後悔という言葉がある。
この言葉の本質にあるのは、「やらないよりやった方が後々満足できるだろう」
自分が満足いくまで物事を突き詰めてみなさいということだ。
この言葉に出会ってから、幾度となく背中を押して貰って来た。
今の自分にすべきことは九州に行って碧に謝罪すると同時に
好きだと伝えることだ。
彼女の連絡先とにらめっこしながら、かけるぞ、かけるぞと鼓舞する。
「10分も見て何してんの?押すよ?」
「あっ、ちょっと。心の準備が」
心の準備が整う前に姉に押されてしまった。
心にかかっていた積乱雲の隙間から陽光が差し始めた。
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