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第2話
出会い(6)
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そこからは先の隧道は一本道になっていて、間を置かずして第三の部屋に到達した。
「地図によるとここが一番奥みたいだけど」
「そうなの? それにしては……」
第三の部屋はこれまでの部屋と違って奥に続く出口はなく行き止まりになっている。さらにこれまでで一番広い。しかしだだっ広い空間が広がっているだけで、何かが保管されているようには見えなかった。
「ってことは、ここにも何か仕掛けがあるんだろうな」
パターンが読めてきたミョウザは地図を広げてこれまで同様にヒントを確認しようとする。
開いた地図に違和感があった。
「……こんな汚れあったか?」
地図上に見覚えのない茶色い染みが出来ていた。古い地図なのは確かだがこんな染みはさっきまでなかった。不思議に思っていると、
──ぽつり。
茶色い水滴が地図に落ちてきた。
何かが降っている。ミョウザが上を見上げる。天井は明かりが届かないほど高く、得体の知れない暗闇が頭上を覆っていた。
ぽつり。水滴がミョウザの頬に落ちる。手で拭うと、ざらりとした感触があった。
「泥……?」
「ミョウザ? どうしたの」
「いや、上から泥が」
「泥?」
ミョウザにつられてアーチとパラァも上を見る。
ぽつり、ぽつり、ぽつり。
降ってくる泥の雫が徐々に増えてくる。
やがて暗闇の中から、ぬぅ──と巨大な泥の塊が飛び出してきた。
「何か来るぞ!」
アーチたちは危険を察知して退避する。一拍遅れて、大量の土砂が落下してきた。
「なんなのこれ!?」
土砂の瀑布は瞬く間に部屋を蹂躙し、中央に山となって積載する。さらに四方に飛び散った泥が自然ではありえない動きで逆流し、中央に集まっていく。泥の山は塊となり、脈動しているかのような不気味な動きをする。
塊の左右から泥が噴出。それは太い筒状になり、先端が五本に枝分かれする。腕だ。塊から巨大な腕が生えてきた。そして中心も徐々に形が定まっていき、人間の胴体を形成した。胴体の上がぼこりと盛り上がり、青白い燐光がふたつ灯る。光がアーチたちを捉え、ぎろりと射すくめる。
泥の塊は生ける巨像となった。
「お友達になりましょーって雰囲気じゃなさそうだね」
「じ、冗談言ってる場合じゃないだろっ」
「来るわよ!」
巨像がアーチたち目掛けて突進してくる。下半身は液状のままなので、巨体に見合わぬ速さだった。
「〈符律句〉第三番、疾風の相!」
アーチはすかさず衝撃波を放つ。巨像の右腕に命中し巨木のような腕を破砕する。腕を破壊された巨像が停止した。
「よし! なんだ大したことないじゃん」
「いや駄目だ!」
砕かれた泥の破片が吸い寄せられ、本体に吸収される。すると即座に右腕が再形成された。再生した巨像が突進を再開する。
「マジかっ!」
アーチが衝撃波を三連撃放つ。両腕と胴体に命中し破壊するが、またすぐに元通りに再生してしまう。
「ヤバッ 全然効かない!」
巨像が目前に迫り拳を振り下ろす。アーチとミョウザが左右に、パラァは上空に逃げ巨像の一撃をかわした。巨像は攻撃してきたアーチを追う。
「あんなに壊しても倒せないんじゃどうしようもないじゃん!」
「普通に戦うだけじゃ駄目なんだ、きっと! これまでみたいに何か方法があるはずだ!」
「方法って何!」
「今調べる!」
ミョウザは改めて地図を確認する。
洞窟の最深部。最後の部屋を示す箇所に書かれていることは──。
「『泥人形を──」
「ミョウザ! そっち来てる!」
「えっ」
アーチの叫びにミョウザは顔を上げる。すぐそばに泥の巨像が迫って来ていた。地図に気を取られていたせいで反応が遅れてしまう。巨像の剛腕が振り下ろされるのを寸でのところでかわすが、拳が地面を破砕した衝撃に巻き込まれ吹き飛ばされてしまった。
「ぐあっ!」
地面を転がるミョウザ。巨像がトドメを差さんと手を振り上げる。
アーチは急いで〈符律句〉を描く。
「間に合え! 〈符律句〉第四十七番、爆撃の相!」
アーチが剣を地面に叩きつけると大きな爆発が起こる。その衝撃を推進力として利用し、アーチはミョウザのいるところへ高速で飛翔した。さらに宙を飛びながら疾風の相を放つ。衝撃波がミョウザに迫っていた右腕を破壊した。
アーチがミョウザと巨像の間に転がりながら着地した。
「ミョウザ大丈夫!?」
「アーチ前!」
「へ?」
パラァが忠告するも一瞬遅かった。巨像が残った左腕でアーチを鷲掴みにした。ヴァーエイルがミョウザの傍らに落ちる。
「ヤバッ!」
「アーチ!」
「だ、大丈夫。へーきへー……ぐっ!」
巨像の手中に拘束されたアーチが呻いた。
「このっ! 離しなさいよ!」
パラァが巨像の指に取りつき拘束を解こうとするが当然びくともしない。
「あ、ど、どうすれば……」
慄くミョウザに再生した右腕が振り下ろされる。ミョウザはなんとか立ち上がってとにかく逃げた。
「ミョウザ頼む! なんとかして!」
「そんなこと言ったって!」
「大丈夫、出来る! あんたは世界を冒険するんでしょ! 世界を目指す奴がこんなところで躓いてどうする!」
「お、おれ、が……」
アーチの叫びが耳障りだったのか、巨像はアーチを握る腕をぶんぶんと振り回した。
「うわー! 酔う酔う酔う! ミョウザ早く!」
囚われのアーチを見つめ、ミョウザは唇をかみしめる。
ミョウザの夢は世界中を旅してマジェットを集めること。広い世界に出ればもっと危険な目に遭うこともあるだろう。だとしたら目の前の困難すら乗り越えられなければどちらにせよ世界を冒険するなんて夢のまた夢だ。
恐怖に負けて諦めるか、立ち向かうか。答えはおのずと導かれる。
「……クソッ! やってやる! やってやるぞ!」
「地図によるとここが一番奥みたいだけど」
「そうなの? それにしては……」
第三の部屋はこれまでの部屋と違って奥に続く出口はなく行き止まりになっている。さらにこれまでで一番広い。しかしだだっ広い空間が広がっているだけで、何かが保管されているようには見えなかった。
「ってことは、ここにも何か仕掛けがあるんだろうな」
パターンが読めてきたミョウザは地図を広げてこれまで同様にヒントを確認しようとする。
開いた地図に違和感があった。
「……こんな汚れあったか?」
地図上に見覚えのない茶色い染みが出来ていた。古い地図なのは確かだがこんな染みはさっきまでなかった。不思議に思っていると、
──ぽつり。
茶色い水滴が地図に落ちてきた。
何かが降っている。ミョウザが上を見上げる。天井は明かりが届かないほど高く、得体の知れない暗闇が頭上を覆っていた。
ぽつり。水滴がミョウザの頬に落ちる。手で拭うと、ざらりとした感触があった。
「泥……?」
「ミョウザ? どうしたの」
「いや、上から泥が」
「泥?」
ミョウザにつられてアーチとパラァも上を見る。
ぽつり、ぽつり、ぽつり。
降ってくる泥の雫が徐々に増えてくる。
やがて暗闇の中から、ぬぅ──と巨大な泥の塊が飛び出してきた。
「何か来るぞ!」
アーチたちは危険を察知して退避する。一拍遅れて、大量の土砂が落下してきた。
「なんなのこれ!?」
土砂の瀑布は瞬く間に部屋を蹂躙し、中央に山となって積載する。さらに四方に飛び散った泥が自然ではありえない動きで逆流し、中央に集まっていく。泥の山は塊となり、脈動しているかのような不気味な動きをする。
塊の左右から泥が噴出。それは太い筒状になり、先端が五本に枝分かれする。腕だ。塊から巨大な腕が生えてきた。そして中心も徐々に形が定まっていき、人間の胴体を形成した。胴体の上がぼこりと盛り上がり、青白い燐光がふたつ灯る。光がアーチたちを捉え、ぎろりと射すくめる。
泥の塊は生ける巨像となった。
「お友達になりましょーって雰囲気じゃなさそうだね」
「じ、冗談言ってる場合じゃないだろっ」
「来るわよ!」
巨像がアーチたち目掛けて突進してくる。下半身は液状のままなので、巨体に見合わぬ速さだった。
「〈符律句〉第三番、疾風の相!」
アーチはすかさず衝撃波を放つ。巨像の右腕に命中し巨木のような腕を破砕する。腕を破壊された巨像が停止した。
「よし! なんだ大したことないじゃん」
「いや駄目だ!」
砕かれた泥の破片が吸い寄せられ、本体に吸収される。すると即座に右腕が再形成された。再生した巨像が突進を再開する。
「マジかっ!」
アーチが衝撃波を三連撃放つ。両腕と胴体に命中し破壊するが、またすぐに元通りに再生してしまう。
「ヤバッ 全然効かない!」
巨像が目前に迫り拳を振り下ろす。アーチとミョウザが左右に、パラァは上空に逃げ巨像の一撃をかわした。巨像は攻撃してきたアーチを追う。
「あんなに壊しても倒せないんじゃどうしようもないじゃん!」
「普通に戦うだけじゃ駄目なんだ、きっと! これまでみたいに何か方法があるはずだ!」
「方法って何!」
「今調べる!」
ミョウザは改めて地図を確認する。
洞窟の最深部。最後の部屋を示す箇所に書かれていることは──。
「『泥人形を──」
「ミョウザ! そっち来てる!」
「えっ」
アーチの叫びにミョウザは顔を上げる。すぐそばに泥の巨像が迫って来ていた。地図に気を取られていたせいで反応が遅れてしまう。巨像の剛腕が振り下ろされるのを寸でのところでかわすが、拳が地面を破砕した衝撃に巻き込まれ吹き飛ばされてしまった。
「ぐあっ!」
地面を転がるミョウザ。巨像がトドメを差さんと手を振り上げる。
アーチは急いで〈符律句〉を描く。
「間に合え! 〈符律句〉第四十七番、爆撃の相!」
アーチが剣を地面に叩きつけると大きな爆発が起こる。その衝撃を推進力として利用し、アーチはミョウザのいるところへ高速で飛翔した。さらに宙を飛びながら疾風の相を放つ。衝撃波がミョウザに迫っていた右腕を破壊した。
アーチがミョウザと巨像の間に転がりながら着地した。
「ミョウザ大丈夫!?」
「アーチ前!」
「へ?」
パラァが忠告するも一瞬遅かった。巨像が残った左腕でアーチを鷲掴みにした。ヴァーエイルがミョウザの傍らに落ちる。
「ヤバッ!」
「アーチ!」
「だ、大丈夫。へーきへー……ぐっ!」
巨像の手中に拘束されたアーチが呻いた。
「このっ! 離しなさいよ!」
パラァが巨像の指に取りつき拘束を解こうとするが当然びくともしない。
「あ、ど、どうすれば……」
慄くミョウザに再生した右腕が振り下ろされる。ミョウザはなんとか立ち上がってとにかく逃げた。
「ミョウザ頼む! なんとかして!」
「そんなこと言ったって!」
「大丈夫、出来る! あんたは世界を冒険するんでしょ! 世界を目指す奴がこんなところで躓いてどうする!」
「お、おれ、が……」
アーチの叫びが耳障りだったのか、巨像はアーチを握る腕をぶんぶんと振り回した。
「うわー! 酔う酔う酔う! ミョウザ早く!」
囚われのアーチを見つめ、ミョウザは唇をかみしめる。
ミョウザの夢は世界中を旅してマジェットを集めること。広い世界に出ればもっと危険な目に遭うこともあるだろう。だとしたら目の前の困難すら乗り越えられなければどちらにせよ世界を冒険するなんて夢のまた夢だ。
恐怖に負けて諦めるか、立ち向かうか。答えはおのずと導かれる。
「……クソッ! やってやる! やってやるぞ!」
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