舞踏会で恋と事件が始まりました。

しっくん

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父と子の王宮日記

後編・「受け継がれるまなざし」

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(レオナルド視点)


「ねえ、パパ。王様って、さびしい?」



レオリオがそんなことを聞いてきたのは、ある静かな昼下がり。

執務の合間、書斎の窓辺でふたり並んで座っていた時のことだった。



「どうしてそう思う?」




「うーん……いっつもひとりで考えてること多いし、みんながぺこぺこしてて、パパだけちょっと遠く見えるか

ら」




私は、息子の言葉に苦笑をこぼした。


子どもは、よく見ている。


どんな臣下よりも、どんな学者よりも、真実を見抜いてくることがある。




「正直に言おうか」



「うん」



「寂しいと思ったことは、何度もある。でも、それ以上に“この国を守りたい”という気持ちのほうが強いんだ」



「ふーん……じゃあ、ぼくが王さまになったら、パパみたいにさびしくなる?」



「君がそうならないように、今のうちにいっぱい話しておこうか」



私はそう言って、彼の頭に手を置いた。




***




レオリオは、少しずつ“王子”としての顔を持ち始めていた。


教育係の話を黙って聞くようになり、文献を読み、剣を握る腕に力が入ってきた。


でも、まだ眠る前には必ず“母の読み聞かせ”をせがむ年齢だ。




そのはざまにいる彼を、私は愛おしく思っている。


そして、心のどこかで少しずつ“手放す準備”を始めている自分もいた。



彼が歩く道は、きっと孤独もある。


けれど、その中でも光を見つけられるように――


私は彼の“まなざし”にだけは、真っすぐでありたいと思っていた。




***




ある日、議場で少し堅い会合があった夜、私はふらりとレオリオの部屋を訪れた。


すると彼は机に向かって、何かを一生懸命書いていた。



「何をしてるんだ?」



「“王様になったらしたいこと”リスト、つくってるの」



「リスト?」



「うん。ねえ、聞いて?


 一番は、城下町のお花屋さんに屋根をつけること。雨の日も大変そうだったから。


 二番は、おばあちゃんの住んでる村の道を石畳にすること。泥がすごかったから」




私は、知らないうちに目を細めていた。



「……レオリオ。それは、立派な“王の目”だ」



「そう?」



「王は、国全体を見る。でも“ひとりの人”の暮らしを忘れない人こそ、本物の王だ」



その言葉に、レオリオは照れたように頬を赤くしながら言った。




「それ、パパにそっくり言われた気がする。……ぼく、パパのまねしてるのかも」



私はそっと肩を抱き寄せ、耳元でささやいた。



「まねでいい。君がそう思ってくれることが、僕には最高の褒美だ」




***



夜、ふたりでバルコニーに立つ。


星がまたたく空の下、風が王城を通り抜けていく。


「パパ、ぼくね、王様になるの、こわいと思ってたけど……

 今は、すこしだけ楽しみでもあるよ」



「それは、君が君自身の“道”を信じ始めた証拠だ」




「うん……パパみたいに、誰かを守れる王さまになりたいな」



その言葉に、私は静かに頷く。




この手の中に、彼の小さな掌を感じながら、心の奥でそっと誓う。



このまなざしを、未来へ。


このぬくもりを、王国へ。



君が継ぐその日まで、私は君の“父”であり、“背中”であり続けよう。





【完】



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