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2.手に入るであろうものを捨て去ることになったとしても……②
しおりを挟む自分が嫌いだ。
弱いくせに強く見せようと虚勢を張り、過剰に自信を漲らせ、分不相応に無いものを得ようと欲張る。
差し伸べられた手を取るたび、傷つけられ、穢され、泣かされて……懲りずに今度こそはと息巻いて……
結局ーーーーー
同じ事ばかり繰り返しては勝手に傷付いてる。自分で自分が嫌になる。少しは覚えろと怒鳴りたいくらいだ。
やっぱり、彼らと自分とでは………
「失礼。少し、お聞きしたいことがあるのだがよろしいか?」
不意にかけられた声に意識が戻された。
考えごとに耽るにしても、場所を弁えないにもほどがある。
侍従にあるまじき失態に、内心舌打ちし、努めて冷静に居住まいを正した。
「失礼致しました。何か御用でしょうか?」
振り返ると、相手の姿が目に入る。
抜けるような白い髪に、深い碧色の瞳。銀色の珍しいメガネという道具をかけた美丈夫が立っていた。
サッと、全身に目を走らせたのは侍従の性だ。
ファンガス様の侍従になってからはほぼ必要なくなったが、宰相様の侍従だった時の癖が出た。
相手を身なりで推し量る。つくづく、成り上がり根性が出て嫌になるとはこの事だ。
暗く、ドロドロした澱のようなものが、心の中に溜まっていく気がして、沈みそうになる気を無理矢理蓋をするように、瞳を伏せる事で捩じ伏せた。
「どうかなさいましたか?」
「………いえ、失礼致しました。何でもございません」
取って貼り付けたような、他所行き用の笑みを浮かべた。
見ようによってはわざとらしく、警戒心を見抜かれれば眉を顰められるかもしれないが致し方ない。
ちらっと相手の胸元に目をやり、不自然にならないように再度逸らす。
小さな飾り。彫られた紋様を思い描き、内心、重苦しい溜め息を吐く。
よりによって、心がささくれ立っている今日に限り……
舌打ちしたいのを何とか堪え、努めて平静な声を出す。
「私でお答えできます事でしたら、なんなりと。サラタータの御使者の方」
「ありがとう。私は、サラタータの宰相の甥で筆頭補佐をしている、ナヴィラスと申します」
「敬語は結構でございます。私は、一介の侍従。サラタータ王宮の方に、敬語を使われる身分にありません」
「そうですか…なれど、私のこの言葉遣いは癖なので、どうかお気になさらず」
「は、ぃ……承知いたしました」
ふんわりと優しい笑みを向けられ、やや怯むものを感じつつ了承する。
「申し遅れました。私は、魔導師長ファンガス様に仕えております、エリ、、シュオと申します」
危ない。うっかり、いつものようにエリオの方で名乗りかけ、慌てて言い直したので妙な切れ目ができた。
フッと小さく息を吐き、視線を向けた。
「ッ⁈」
サラタータ使者ナヴィラスの視線を受けた瞬間、一瞬だけ硬直してしまった。
「そうですか。よろしくお願いします、エリシュオ殿」
「?……は、い」
気のせいだったのか?
一瞬、受けた視線が恐ろしく冷たく蔑むかのように感じたのは……
すぐに柔らかな笑みに変わった為、真意は全く計れないし、本当にそうだったのかどうか……
「どうかなさいましたか?」
「ぁ……いえ。何でも…あの、それより、聞きたい事とは?」
「そうですね。そうでした……ですが、もう大丈夫なようなので、やはり結構です」
「は?あの?」
「申し訳ありません。引き留めておいて、手間を取らせてしまい。では、私はこれで失礼致します。またお会い致しましょう」
言うだけ言い、変わらずふんわりとした笑みを浮かべ、が、有無を言わせずナヴィラスが優雅に去っていく。
残されたこちらは意味が分からない。
なんとなく釈然としないまま、が、持ち場に戻らないわけにもいかず、ゆっくりと踵を返した。
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