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序章 異世界転移でてんやわんや篇
12.聖獣と聖獣妃②
しおりを挟む「それ、何?」
「聖獣妃の前に、聖獣は分かるか?」
もちろん、知らない。
ふるふると首を振る俺に、カイザーは呆れる事なく説明してくれる。
「ミネルヴァには人は別とし、大きく分けて、三種の動植物がいる。一つは一般的な動植物。牛や馬といった家畜。野菜や果物といった植物。これは説明するまでもないだろう。二つ目は、魔物」
「魔物ッ⁈」
「これはさすがに分かるか?」
詳しくいえと言われたら困るが、大体は分かる。ゲームや漫画にも出てくる。いわゆる、モンスターと呼ばれる存在。
「正邪に関係なく、人とは住むを隔絶する存在。総称したものが魔物だ」
「居るんだ……」
「一般的に住む世界が違う。この世界には、大小様々な大陸があり、ミネルヴァとアーケィディアもその一つ。大なる大陸の一つに、セルナディアと呼ばれるものがあって、主に魔物と呼ばれるものが住まうのがそれだ。余程の理由がない限り、人は足を踏み入れん地だ」
「じゃあ、ミネルヴァには居ないんだな?」
「いいや、居る」
「今、居ないって……………!」
「言ってないだろう?主にその地に住まうものと言ったはずだ」
紛らわしい!!
「魔物には翼あるものも、空間移動できるものも居る。他にも移動手段は多種多様。それら全てを防ぐ事など出来ん。が、町や村、王都、人がおよそ利用する森や湖といった場所には結界が張られているから、強力なものに遭遇することは滅多にない。居るのはせいぜい、魔物と呼ぶのもおこがましいような弱々しいもののみだ」
冒険者や、それらを狩る採集者でもない限り、普通に生活していれば危険な目に遭うことは滅多にないらしい。
「三つ目。これが、聖獣。見るが早いだろう。『シュライン』『イライザー』」
カイザーが呼ぶと共に胸元が光り、二つの光の玉が飛び出す。大きく膨らみ、むくむくと形造り、二頭の白い個体に変わった。
「あの、犬?」
「俺の聖獣だ。聖獣の名は一角狼。犬じゃなく、狼だ」
苦笑して正すカイザー。二頭がグルルと小さく鳴き、赤いたてがみの狼が行儀良く座る。その後ろに、少しこちらを伺うように、蒼いたてがみの狼が立つ。
森から移動してる途中、いつの間にか居なくなっていたが、カイザーの中に消えていたようだ。
キリアンやジディの時にも思ったが、体の中から出たのは見間違えではなかったらしい。
「赤い方がシュライン。炎帝と呼ばれ炎の魔導を操る。蒼い方がイライザー。氷帝、こちらは氷の魔導。二頭で一対、俺の魔導の原動力となっている」
フサフサの尻尾を緩やかに振り、ジッと見つめてくるのが可愛い。
「騎士は皆んな聖獣が居るのか?」
「聖獣を持つ者は限られているな。近衛騎士の中では、俺の他は、キリアンとジディ。あと、二、三人程だ。聖獣とは、魔天という正邪の中間にありし存在で、魔導とその者が持つ内なる光の波長が合わなければ得られない希有な存在だ。誰でも持てるものではない」
そんな特別な存在なのか……
ジーっと見る俺に、赤いたてがみ、シュラインが首をかしげて見つめ返してくる。
う~ん……可愛すぎる!
森で寄り添ってくれた時にも思ったが、毛はフッサフサのふわっふわで、撫でくりまわしたいくらいに触り心地がいい。
触りたいが、今は話の途中だから、我慢我慢…
「で?聖獣は分かったけど、他の大陸の力を求める原因になった、その、、えっ、と?」
「聖獣妃だ」
「そう!それ。その聖獣妃って何?」
「聖獣妃は聖獣を統べる者。全ての聖獣を従え、その聖獣が持つ力を全解放し、また増幅させて行使する事が出来る存在だ」
「全解放って……普段は全力出してないって事?」
「聖獣の力は対となる人との相性や関係性により様々だ。俺でも、この二頭とは、出せても九割。全解放には至らん」
あまりよくは知らないが、カイザーと二頭の関係性が揺るぎない事は見てて何となく分かった。
それでも、その聖獣妃とやらの力には及ばないらしい。
「その聖獣妃が消えたとかいうのは?」
「もともと、今の聖獣妃はどの国の皇族にも従うことを拒否し行方を眩ませていた。聖獣妃を手に入れれば、億万の強大な軍事力を得ると言われ、各国が欲しがったが、結局、争いを嫌っての出奔だ。それでも、聖獣妃がミネルヴァに存在するなら良し……だったんだがな」
「だったって……?」
「ミネルヴァから失われたようだ。それが知れたのが、ここ数年のうち。聖獣の出現の減少、力の衰退度合いが目まぐるしい。聖獣妃は、全聖獣の力の核となる存在でもある。それが失われたとなれば、聖獣が力を失い、その対である人も力が減ずる事になり、国の軍備力にも影響が出る。だから、今はどの国もピリピリしている状態だ」
国の防衛力と交戦力の一端を担っているのが、聖獣と対の者の力らしい。それがここ数年、弱体化し、どの国も厳戒態勢にあるらしく、また、軍備力を別から仕入れようと躍起になっているとの事。
ここまで聞いて分かった。
俺の存在は、まさに、渡りに船だったようだ。血脈とやらの力を得ようとしていたところに、まさに、降って湧いたような。
そうなってくると、心配な事が一つ……………………
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