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序章 異世界転移でてんやわんや篇
13.隊長様、大いに苦悩す②
目を丸くする俺に、シュラインがスリリッとすり寄る。目の前にあるフッサフサの体をそっと撫でた。
「ふわっふわだぁ~……」
ツヤツヤした毛は上質のシルクを触っているみたいだ。頬をペロリと舐められ、擽ったさに肩を竦める。
イライザーがクルルと甘えたような鳴き声をあげ、手をかけてのし掛かってくる。
「ちょっ、重いって。こら!分かったから、舐めるなよ。擽った……ッ!」
二匹のワンコ(狼だけど)にじゃれつかれ、ベッドの上で笑いながら転げ回る。
「あはは!ちょ、たんま!ストップ!やめ…ッ、分かった!降参だから!!」
頬を、耳を舐めまくられ、擽ったさに笑いながら白旗を上げた。
はぁ、息が上がった。笑いすぎて、ちょっと疲れた。
「もう!いろいろあって疲れてるし、考えなきゃなんない事いっぱいあったのに、お前らのおかげでそれどこじゃなくなったじゃん!」
本気で怒ってはない。怒るフリで軽く睨む俺に、二匹が首を傾げてお座りする。
ベッドに寝転んだまま、顔の前に腕をかざし、溜め息を一つつく。
考えなきゃなんない事。
今のところ、帰る方法は見つかってない。見つかっても無事に帰れる保証もない。
だったら…やる事決まっている。
方法を探しながら、この世界で無事に生き抜く。
「それしかないよな」
皇太子は歓迎の意向を示しながらも、何を考えているか分からない。
でも、カイザーは………………………
無理強いしないと言った。あくまで、俺自身の意思を尊重するとも。国に仕える騎士だ。絶対とは限らないが、少なくとも、皇太子やこの国よりはまだ信用できる。
ハァッと溜め息をついたら、少しずつ眠くなってきた。柔らかくて温かい掛布に加え、二匹の天然毛布。先ほど飲んだ甘く柔らかなミルクティー。ジャレ合いがトドメとなり、疲れと眠気が一気に。
駄目だ。部屋、戻んなきゃ。誰の寝室か分かんないのに…
こんな場所で、寝たら………
「だ、め………」
小さく呟き、瞼を支えきれなくなった瞳がゆっくり閉じた。
*
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膝で乗り上げた格好で固まる俺の耳に、小さな吐息が届き我に帰る。
「マ、ヒロ……なんで俺の寝台で寝ているんだ?」
敷布の中、ぐっすり眠る青年は、今日知り合ったばかりの青年で、皇太子殿下より託された貴人だ。
黒髪黒目の、この世界では至上とされる貴重な存在。
強い光を宿す瞳は閉じられ、長い睫毛が影を落とす。思わず見惚れてしまい、小さくむずがる声で慌てて目を逸らした。
「扉の事を伝え忘れたのか?それにしても……」
宛てがわれた部屋でもない場所、寝台でよくもこれだけ無防備に寝られるものだ。
起こすかと考えたが、疲れきったように寝ている様子に躊躇われる。
決して小柄ではないが、ほっそりとして華奢な体はおよそ抱き上げたところで苦にもならないだろう。
俺が使うこの寝台は、大人三人余裕で寝られる大きさがある。故に、マヒロを寝かせたまま、反対側に寝たところで問題はない。問題なのは、マヒロとの関係性。今日知り合ったばかりの、ほとんど何も知らないといっていいほどの青年と、いきなり同衾はいかがなものかと、気持ちが妙に怯んだ。
一人狼狽えるのが滑稽で、溜め息をつき抱き上げて運ぶべくにじり寄る。
横向きに寝ているのを、抱き上げやすいよう仰向けにした途端、髪が上がり現れた額、軽く上がった顎で、マヒロの端整な顔が露わになった。
けぶるような睫毛、ミルクに少し紅茶を溶かし込んだような肌は、下を流れる血が透けるような健康的な色、鼻は大きすぎず小さすぎず。
何より、目が離せなくなったのは、ふっくらと小さな唇。
それ自体、花びらを彷彿とさせる薄く色付いた唇は軽く開き、白く小さな歯が見え隠れし、規則正しい寝息を立てている。
ゴクリと、思わず息を呑んだのは無意識だ。
軽く顎に手を当て、ゆっくりと顔を近づけていく。
甘やかな吐息が唇を擽る。
唇が触れ……そうになった瞬間、グルルという鳴き声にハッとなった。
いつの間にか起きだしていたイライザーもまた、シュライン同様、こちらを見ている。
バッと、慌ててマヒロから離れる。
「俺、は…、何をッ…⁈」
口元を手で覆い愕然とした。
触れてみたい。
無意識に感じたそれを振り払うよう、頭を強く振る。
マヒロは綺麗な顔をしていても女性ではない。それより、意識のない相手にしようとした、己の行動に動揺が激しい。
横目に伺うが、マヒロはまだ眠ったまま……
性懲りもなく目が離せなくなりそうになり、無理やり引き剝がし、立て掛けた剣を掴み取る。
「シュライン、残れ。イライザー、来い!」
二頭それぞれに命じ、俺は頭を冷やすべく足速に部屋を出て行った。
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