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第1章 黒の双極 傾く運命は何処なりや
2.神殿招致①
まともにぶつかった瞳が逸らせない。
「カ………」
「すまない!忘れろ」
それだけ早口に言い切ると、さっさと離れる。
一方的過ぎるそれに唖然として言葉を失う。ややもし、あまりな態度に腹が立ってきた。
言う事為す事、意味不明すぎる!
「カイザー!何がしたいのか、分か……」
詰め寄ろうとした俺の言葉を遮るように、部屋の扉がノックされた。
「失礼いたします。カイザー様、皇太子殿下より御使がいらしております」
「分かった…」
執事さんにそれだけ応えて、カイザーが部屋を出て行く。
「カイザー!」
「傷の手当てをさせる。ここにいろ」
こちらを見ようともせず、俺一人残して出ていってしまった。
「な、んだよ⁉︎意味、分っかんねぇ!何で……こ、んな」
右手の切り傷を見下ろす。
掴まれた手首の感触。触れた唇の柔らかさと熱。舌の温もり……強烈に残ったままだ。
カイザーの事が分からない。
だけど………一番、分からないのはーーーーーー。
「何で……俺、、、」
された事よりも、された事実を忘れろと言った事に怒る自分が一番分からない。
*
*
*
*
*
*
*
*
*
*
結局、傷の手当てを受け終わり、魔導の計測の結果も分からないまま、執事さんが呼びに来て、城からの御使に連れられ、城に着いてからも、カイザーが俺に話しかける事は一切なかった。
「呼び立てて悪いね?マヒロ」
部屋へ通され、勧められたソファに座る俺に、皇太子が笑顔で切り出す。
ニッコニコで、少っしも悪いと思ってない空気で説得力ゼロなんですけど?
胡乱な目を向ける俺には一切頓着せず、皇太子がカイザーに向き直る。
「マヒロの魔導測定結果は?」
「……………………光です。測定量は計測不能。並な魔道具では測れません」
「本当?それは素晴らしいね!!光なのも喜ばしいけど、魔導が膨大かぁ。うん!やっぱり、そうしよう!」
躊躇いつつも応えるカイザー。
あの時、属性を表す魔道具は何を示したか明確ではなかった筈で……しかも、皇太子は皇太子で何やら一人納得して喜んでる。
「あの……用って何?」
「あぁ、そうだった。今日の夜に、母上の生誕を祝う夜会があるから、マヒロにも出て貰おうと思ってね」
「は??」
やかい?何、それ??
「大丈夫だよ。内輪だけの小規模なものだから」
やかいって、夜会か⁉︎よく、物語とかで王族様やお貴族様がやるアレか⁈
内輪だけとかそういう問題ではなく。
「何で、俺が⁈」
「母上にマヒロの事を話したら、血脈の者とは素晴らしいから会ってみたいと仰せなんだよ」
目眩がしそうだ。
この皇太子様……完全に俺をそうだと決定づけてしまっている。しかも、母親の生誕祝いの夜会に託けて、俺を囲い込んで逃がさないつもりだ。
「ちょっ、ま、、」
「そういう事だから、準備しようか?入れ!!」
焦る俺に構わず、皇太子が声を張り上げると、扉が開いて様々な物を手にした女の子たちが入ってきた。
彼女たちが持つのは、煌びやかな衣装や、宝飾品やら……
その中の一人に目が止まる。
「あれ?君……あの時の?!」
第一皇子に殴られて泣いていた侍女の女の子。
俺の問いかけに、ニッコリと可愛らしく微笑む。
「はい。貴人様」
「何で、ここに??」
「皇太子殿下のご配慮を賜わりまして、今はこの場におります」
「そうなんだ?あれから、ごめんな?気にはなってたけど、何もしてあげられなくて。酷い事されたんじゃね?」
「いえ!とんでもございません!!皇太子様のおかげにて……」
はにかむ侍女に、俺が皇太子に視線を向ける。微苦笑し、肩を軽く竦め、
「私は特に何もしてないよ?采配したのはカイザーだからね」
今度はカイザーに視線を。軽く顔を顰め、面映そうに視線を逸らされた。
「皇太子殿下にお伝えしただけだ」
「図らずも、マヒロとカイザーに庇われた事で、其の者は兄上の目に悪い意味で止まってしまった。あのまま居続ければ、どんな扱いを受けるかは火を見るより明らかだ。だから、カイザーが何があったのかを私に詳細に説明してくれてね。私が直に動けば角が立つ。だから、母上を通じて、兄上のところから引き抜いてもらってくれって」
俺が知らないところで、カイザーがそんな事してくれてたなんて……
「ありがと…」
「俺はただ出来ることをしたまでだ」
感謝されるような事でもないとばかりに、カイザーは素っ気ない。最初の時は、この素っ気なさに腹を立てたりもしたが、今は、今もあの時も、カイザーに悪気はないのは知っているので怒りは湧いてこない。
「夜会にはもちろん、カイザーも出るから。マヒロを護衛しなきゃならないしね。カイザーならマヒロを絶対護るし、カイザーが居るんなら一人じゃないし、出ても問題ないよ?」
俺が渋ってゴネるのを防ぐ為か、皇太子がやんわり畳み掛ける。
一人なら真っ平御免!先程までなら、夜会に出るなんて冗談じゃないと思ってたけど……こんなの、聞かされた後に、そういう言い方はズルいと思う。
「夜会服は、とりあえず四点ほど組み合わせて用意したから見るといいよ」
俺、まだ返事してないんだけど?
皇太子様の中では、もう出るのが決まりのようで、これ以上押し問答しても疲れるだけだと悟り、溜め息をつくに留めて諦めた。
指し示された服を見ていく。
赤地に金。青地に金。綺麗だし、格好いいとは思うが、着て似合うかどうかは別物だ。派手派手しい煌びやかさで、皇太子様のようにゴージャスな人なら似合うだろうが……俺が着たら、間違いなく場違いだ。
この二つはパス!
黒地に、こちらは銀。
思わず、ちらっと横を見る。俺なんかより、遥かに似合う男が横に居て、これを選ぶ勇気は俺にはない。
残り一つを見て、ハッとなる。
白地に、こちらも銀。明らか、他の三点よりおとなしめ。でも、地味すぎず、すっきり綺麗系。パッと目を惹く派手さはないが、他の三つより、明らかに俺の趣味に合う。
「これにする…」
「そう?ふ~ん……なるほど、ね」
「?」
「何でもないよ。じゃ、支度してあげてね?」
意味深に微笑む皇太子に訝りながらも、促されて部屋を移る俺に、口元を手で覆い、薄く目元を朱に染めたカイザーの姿は映らなかった。
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