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第1章 黒の双極 傾く運命は何処なりや
5.『つぎを決めろ』
書物を集められた部屋へ案内された。
中へ入ると、紙独特の匂いとカビ臭さに包まれる。人がやっと通れるくらいの書棚に、ビッシリと隙間なく詰められた書物の数に思わず圧倒された。
「すご……」
思わず呟いた俺に、案内してきた神官がどこか得意げにドヤ顔になる。
「これだけの数の書物を有するのは、当神殿のみです。稀少性はもちろん、変わり種から。城ですら、これほどの物はお持ちにあらせられません」
ふふんと、満面に言い放つ神官はやや鼻につくが、自慢するだけの事はある。それぐらいの量だ。
「見ても?」
「ご随意に。副神官長様の許可は頂いております故」
「ボリス……その、副神官長は?」
案内するとか何とか言ってて、俺をここに案内したのはこの神官のみ。
「副神官長様は御用向きがあり、私めが任されました」
無言で顔を逸らす。
レーヴェといい、ボリスといい……神官はよっぽど忙しいと見える。
レーヴェとボリスの違いは、ボリスは分かり易いというところだ。
大神官長への取り成しは俺がすると約束したが、ボリスには足りなかったらしい。万が一に備えて逃げたのがその証拠だ。書物を見せるという約束を反故にはできない。かといって、見咎められてはかなわないと、下っ端の神官に押し付けた。叱責されれば、この神官に擦りつければいい。
まったく、分かり易すぎる小者っぷりだ。
まぁ、こちらとしても好き好んで相手したいタイプじゃないので、別に居なくても困らない。
どうでもいいのでそれ以上構わず、一冊手に取り開く。
目を瞠った後、パタリとすぐに閉じた。
「貴人様?」
「……なんでもない」
訝る神官に平静を装い応えた。
今、目にしたものに、軽く目眩を覚えた。
気持ち的には『そうきたか!』で、ある。
完全に失念していた。よくよく考えれば、そうできているのがおかしいんだと気付くべきだった。
神官に背を向け、もう一度開く。
結果は同じ。つまり、結論ーーーーーー
読めん……。
書いてある字が全く読めない。何語なのかすら分からない。
会話は問題なくできてる。相手の言葉は分かるし、俺の喋っている事もちゃんと伝わってる。
最初にその違和感に気付くべきだった。明らか人種が違う者たちと、意思言語疎通ができてる。どう考えてもおかしいのだ。
どういう仕組みなのかは分からないが、どうせなら見る方も翻訳してくれればよいものを……
血脈の者と思われている以上、下手に字が読めないから読んでくれとは言えない。
仕方なく開いた本を閉じる。
「読めるのないのかなぁ……まぁ、そんな都合よく…」
本が数冊飛び出した箇所がある。
不自然な飛び出しに覗き込むと、一冊、表を向いた形で奥に挟まっていた。
ちらっと神官を見ると、よほどヒマなのか欠伸をし、あさってを向いたままボーっと突っ立っている。
手を突っ込み、奥から本を取り出す。
表面は毛羽立ち、かなりボロい。薄汚れた装丁のみすぼらしさで、特に気をひく何かはない。
整然と並べられた書物の中、ぞんざいにされたそれがある意味異質。
期待を込めて中を開く。
「変わんないか……やっぱ、読めないなぁ」
薄茶色く変色した紙に書かれた文字は、他と変わらず全く読めない。
ハァッと溜め息をつき、パラパラ捲った。
ヒラっとページから床に落ちた物があり、拾い上げた。本の紙より更に茶色く変色したしおりらしきもの。
ぴらっと裏返し、驚愕に目を瞠る。
「貴人様」
「⁉︎」
不意に神官に声をかけられ、思わずそれを胸元の中に隠した。
「な、何?」
「そろそろお戻りになりませんか?」
「そう…だな。うん、もういいや。戻る」
震えそうになる声を堪え応えた俺に、神官は特に気付いた様子もなく、明らかに退屈から解放されるとホッとしたように表情を緩めたのみ。
「では、神殿内を……」
「あの、さ。疲れたし、喉、乾いたんだけど?」
「さようですか。では、お部屋へ参りましょう。お茶をご用意致します」
神官の言葉にゆっくりと自然な笑みを返し、パタリと閉じた本を棚にさり気なく返す。
ちらっと神官がそれを見る。内心、ドキとしたが、汚い装丁のそれに、特に惹かれるものもなかったか、神官の視線はすぐに逸れた。
先に立って歩く神官の後ろについて行きながら、俺の心臓はバクバクしている。
先程、目にしたもの。今、胸元に忍ばせた物が脳裏を目まぐるしく回る。
一体、どういうことだ?ーーーーーーーーーーー
古い書が集められた場所。読めない文字。ボロボロの装丁の本。落ちたしおりーーーーーーーーー。
その中にあり、あれはーーーーーーーーーーーー?
『つ ぎ を 決 め ろ』
濃い茶色に変色した紙の中に、若干薄れ気味ながら書かれた文字。
読み取れた。
ーーーーーーーーーーーーーーー日本語で。
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