聖獣騎士隊長様からの溺愛〜異世界転移記〜

白黒ニャン子(旧:白黒ニャンコ)

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第1章 黒の双極 傾く運命は何処なりや

10.戸惑い、相互揺れる①




「お帰りなさいませ、カイザー様」

家令のハリスに出迎えられた。家督を継いですぐ、両親は亡くなり、一人で住むには広すぎる屋敷と多数の使用人が残された。
俺一人に対し、多人数で仕えられても困る。大多数は他を宛てがったり、暇を出したり、田舎へ帰らせたりし、今は家令のハリスに、侍女頭と侍女一人、侍従が一人、食事頭が一人のみ。管理は大変だと思うが、皆、よくやってくれる。

「マヒロは?」
「まだ、お目覚めにはなっておりません」
「そうか……」

神殿の火事から一昼夜明けた今、マヒロは未だ眠ったまま。診察をした医療神官の話では、擦過傷に裂傷多数、軽度火傷が見受けられた。熱風を吸い込み、喉も痛めている。
が、問題は、体の傷より心の方で。
いきなりの環境変化に加え、不安や焦りを抱えていたところへ、今回の火事が重なり、負担が限界を超えてしまったとの見立てだ。
強引なやり方でマヒロを招いておいて、このような事を引き起こした神殿には猛烈に腹が立つ。見舞いの品と称し、皇太子殿下の元に品が送られてきているのも、怒りに輪をかけた。
マヒロを心配しているかのように見せかけ、その実、政治的な駆け引きが見受けられる。皇太子殿下の対応如何で、マヒロがどれだけの価値があるのか…また、マヒロの力の大きさや、明らかにされてない立ち位置など……探ろうとしている魂胆が見え見えだ。
皇太子殿下も相手側の意図は分かっている為、特に反応せず沈黙を保っている。
部屋へ向かうと、マヒロの部屋の前で、侍女頭と侍女が立っていた。

「マーリャ。何かあったか?」
「カイザー様!お帰りなさいませ。申し訳ありません、お出迎えもせず」
「いや、いい。それより、何かあったんじゃないのか?」

五十代のふくよかな侍女頭と、年若い侍女が困ったように合わせて俺を見てきた。

「貴人様にお薬湯をお持ちしたのですが……」
「あぁ。何か問題が?」
「喉を痛めてらっしゃるのと、意識がございませんので…なかなか上手く飲んで頂けないのです」

侍女が持つ平板の上には、中身がだいぶ入った薬湯の入れ物がある。
命に関わるとなれば、彼女たちだとて多少は強引にでも飲ませるのだろうが、今はそうではない。
第一、マヒロは貴人。皇太子殿下の命がかかる稀有な者に、薬湯を流し込むといった暴挙に出るなど、侍女たちが恐れ多くてできないと訴えてきても無理からぬことだ。

「分かった。後は俺がやろう。二人は下がれ」
「カイザー様がでございますか⁈そんな……ッ」
「大丈夫だ。それに、俺は殿下より直々にマヒロ、貴人の事を頼まれている。俺がした事なら、とがめは受けん」
「なれど………」

渋る侍女頭、マーリャに苦笑する。マーリャは俺の乳母でもあり、彼女が何を心配しているかは俺にも分かる。当主にこんな雑事をとかではなく………

「薬湯を飲ませるくらいなら、そんな難しくはないと思うが……」
「人のお世話などした事ございませんでしょう?大丈夫ですか?」
「大丈夫だ」
「かしこまりました。それでは、よろしくお願い致します」

多少、不安げにしながら、マーリャと侍女が下がる。
薬湯を片手に部屋へと入る。
寝台で眠ったままのマヒロの頭付近に白い塊。キュウっと、入ってきた俺に向かい鳴くそれに、シッと指を立てて止めた。副神官長の聖獣だった白き癒しの鼬鼠キュアウィーズルだ。神殿の火事から、マヒロについてきた。副神官長、ボリスとの命約・血契は断たれており、ここにいるわけだが……

「どうなってるいるのやら、だな……」

あの場にいたのはマヒロのみ。
なら、マヒロが何かをしたとしか考えられないが。そもそも、他人の聖獣の命約と血契を断つ事ができる力、それができる者など………

「いや……いくらなんでも、考えすぎだろう」

可能性として考えたそれは、あまりにも突拍子もなく、且つ、こじつけすぎる。今のミネルヴァの状況をかんがみて、そうであればと願望が含まれているとしか思えず、思わず苦笑いだ。

「第一、マヒロでは……条件に合わんだろう?無理があり過ぎる」

考えすぎだろうと結論づけ、静かに寝台に寄る。
傷や痣は手当てが終わり、マヒロが静かに寝息を立てている。回復と、休息の為の眠りで、どこかが悪いわけではない。
長い睫毛に縁取られた瞼は閉じたまま。薄く開いた唇から、吐息が漏れている。
綺麗としか言いようのないマヒロの容貌だが、少女めいたところは一切ない。ちゃんと、青年として綺麗なのだから不思議だ。惹かれているのは自覚したが、未だ、それが同じ性別を持つ者というのはまだ、若干戸惑う。
少しばかりその姿を眺め、薬湯を飲ませるべく匙を持つ。掬い取ったそれを唇にあてがい流し入れるが、嚥下えんげする力が弱くなっているのか、唇から殆どが溢れた。
喉の痛みと腫れを取る薬湯だ。飲ませないわけにはいかない。
暫く、逡巡しゅんじゅんした後、意を決して抱き起こした。頭を肩にもたせかけ背中を支える。
薬湯の入れ物を持ち上げ、中身をあおる。
マヒロの顎を指で上向け、唇を唇で塞いで薬湯を流し入れた。

「ん!………ぅ、、ッ、……ん、く」

口中に溢れかえる薬湯に、マヒロが意識が混濁したまま顔を顰めながら飲み込んでいった。
ゴクンと喉が上下するのを目端に認め、ゆっくりと唇を離した。薬湯だけではないもので濡れた唇に、目が囚われて離せない。
柔らかいそれに、もう一度触れたい衝動を必死に撥ねつけ、寝台に寝かせる。
口元を片手で覆い、息をゆっくり吐く。
薬湯を飲ませる口実に、安易に触れてしまった。
気持ちがなかなか静まらない。
これ以上ここに居れば、自分が何をしでかすか分からない。
急ぎ立ち上がり、足早に部屋を出ていった。








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