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第1章 黒の双極 傾く運命は何処なりや
10.戸惑い、相互揺れる②
『そんなの知らないわ!!』
不意に後ろから聞こえた声に振り向く。
十代くらいの女の子が、顔を怒らせ睨みつけてきていた。見知らぬ女の子。
俺に言っている?
『あんまりだわ……私、関係ないのに…なんで、こんな』
別の方からも声。悲しそうな顔で見つめられる。
『ひどい!私をかえしてよ!!』
『無理!できないわ!!』
『私は違うってば!!』
『できない!できない!できない!できないできないできないできないできないできないできない……………………』
怒りの顔、泣き顔、困り顔……様々な顔の女の子たちに取り囲まれ喚きたてられる。
『あなたが最初でしょ?逃げないでよ!!』
投げつけられたその言葉に、ハッとして振り返った瞬間、足元が崩れ体が一気に落ちていく。
*
*
*
*
*
大きく息を吸い込み、体が一気に覚醒した。
飛び起きた体が、心臓が物凄くドキドキしている。荒く息を吐き、胸元を手で押さえる。
「な、んだ……今、の」
記憶というには覚えもなく、が、言われた事や女の子たちは妙に生々しい。
ハァ~、っと息を吐き、額に手をやり目を閉じた。
コンコンと、部屋の扉がノックされ、侍女頭の女性が入ってきた。
「失礼致します、貴人様。お目覚めかと思い、お茶をお持ち致しました」
「あ…ありがとうございます」
ニコと笑い、女性、マーリャさんがテーブルにお茶をセットしていく。年嵩とはいえ女性の前で寝間着姿なのは気が引けるが、かといって目の前で着替えるわけにもゆかず、仕方なくそのままソファに座る。
「寝過ごしたみたいで……今、何時なんだろ?」
「まだ、お昼前にございますよ。何かご入用でございましたら、軽くお食べになりますか?」
「……今は、いいです。お腹減ってないし」
「さようですか?まぁ、昨日、やっと意識が戻られましたし、無理もありませんわね」
心配そうに見やるマーリャさんに、苦笑のみ返す。
神殿に招かれ火事に巻き込まれ、そこからの記憶がほぼない。気がついたのは昨日の夕方で、見慣れた部屋で、見慣れた寝台の上だった。
お茶を一口飲み、一息ついた。
「顔色が悪うございますね?ご気分でも?」
「あ、…いや、大丈夫。夢見が悪くて……」
「まぁ…もしかして、神殿での?」
「う、うん……違う、んだけど」
自分でもなんと言っていいやらの夢なので、言葉が上手く継げない。
「そういえば、神殿は?どうなったんだ?」
目覚めた昨日は体も頭も重怠く、話をするどころじゃなくて、まだ何も知らない。結局、あのあとどうなったのか、まだ知らされてない状態だ。
「神殿は今は修繕中にございますよ。大部分が焼け落ちてしまいましたし。しばらくは、仮聖殿の方が主になるようですわ」
「神殿の奴ら……じゃなくて、神官たちは?」
「私ではなんとも……只今、カイザー様たちがお話し中ではあらせられますけど」
「今⁈居るのか?俺も行く!!」
マーリャさんの言葉に部屋を飛び出そうと、慌てて立ち上がる。
「貴人様!そのままではなりませんわ!まずはお召し替えを」
*
*
*
*
*
部屋の扉をノックする。
ゆっくりノブを開けてそっと覗く。
「マヒロ?起きたのか?」
ソファに座ったまま、首を巡らせたカイザーが見てくる。向かいの席にいるのは……。
「マヒロちゃん!」
「キリアン?」
近衛騎士のキリアンだ。
誰かいると聞いて一応気を遣ったが、キリアンと分かり肩の力を抜く。
「入っていい?」
「いいが……体は平気か?」
「うん。大丈夫」
カイザーに許可をもらい入る。ソファに座ろうとして、ハタとなった。
キリアンの横に座るか、カイザーの横に座るか……
ちらっと見ると、キリアンはニコニコ笑ってるだけ。
カイザーを見やり、俺はなぜか狼狽える。慌てて視線を逸らすが、動揺が治らない。
どうしよう。完全に座るタイミング逃した。
さっさと座ってしまえばよかったのに、グズグズ考えてる間に、妙に気不味くなってしまった。
「マヒロちゃん。こっち座れば?」
クスクス笑いながらキリアンに促され、何故かホッとしながら、キリアンの側に座った。
「………話を続けるぞ?」
ムスッとしたまま、カイザーが口を開く。
露骨に避けた形になり、さっきより更に気不味い。かと言って、カイザーの方に座りなおすのも変で……
一人、ああでもないこうでもない考えてたら、カイザーが溜め息をついた。
「いいから、そっちに座ってればいい」
「え?あ………うん」
何で溜め息つかれたんだ?
戸惑う俺と、憮然とするカイザーに、キリアンが堪え切れないとばかりに、ブッと吹き出す。
「二人とも、不器用すぎないですか?」
「うるさい……」
「???」
笑いを噛み殺しながら言うキリアンに、カイザーが不機嫌に返し、俺はわけが分からず首をひねる。
「カイ……」
「今は、事後報告を受けている」
「え?」
「神殿と……今回の事に関与した者たちのな。マヒロも無関係じゃない」
真剣な目を向けられ、息を呑んだ。
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