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第1章 黒の双極 傾く運命は何処なりや
10.戸惑い、相互揺れる③
「神殿……どうなったんだ?」
マーリャさんの話では、一応動いてはいるようだが、詳細が分からない。
「焼け落ちた部分は立て直しだ。今は、仮聖殿が動いてる」
「炎の魔導がかなり広範囲に及びましたからねぇ。復旧は大分かかりますね」
カイザーが言い、キリアンが付け足す。
正直、神殿自体がどうなろうとどうでもいい。知りたいのは……
「子どもたちは?」
「今回、神殿から出されそうになった者らは保護した」
「無事なんだな?」
「あぁ。寸でで押さえたからな」
俺が目撃した、あの袋。取引されそうになった子どもたちは保護されたらしい。それには、一応、ホッとした。
「今回以前に出されてしまった者たちに関しては、引き続き調査中です。できるだけ保護しますよ。ただ………」
キリアンが途中で言葉と表情を曇らせた。
「いつからされてんだか分からないんで、間に合わなくなってる場合も、無きにしも非ずって感じですね」
「それ………」
みなまで言わなくても分かる。この非道がいつから行われていたのか……場合によっては…
黙り込んだ俺に、カイザーが溜め息をついた。
「奴らがやった事だ。確かに、巻き込まれた者たちは気の毒だが、嘆いたところで結果は変わらない。酷なことを言うようだが、結果に嘆くヒマがあるなら、この結果を招いた者たちを厳しく罰する方が堅実だ」
泣いてる暇があれば動け。
カイザーの言葉はもっともだ。泣いてたって何も変わらない。
「隊長……もっと、優しく出来ないっすか?ウチの連中に向けるわけじゃないんですから、もちょっとこう……」
「………他にどう言えと?」
憮然とするカイザーに、これだから堅物はどうのとぶつくさ言うキリアン。
「子どもたちに関しては、俺じゃ何もしてやれない…」
「マヒロちゃんまで……」
ほんのちょっとだけど、関わった子たちだし心配はあるけど、今現在で、騎士でも力もない俺には何一つできないのが事実だから受け入れざるを得ない。
「とにかく!子どもたちに関しては全力尽くしますから!!」
キリアンが話を強引に終わらせた。
「神官たちは?」
神殿の事件には神官が多く関わっているし、どうなったのか気になるところだ。
「副神官長のボリスは現在投獄の上、詳しく詮議中だ。数名の下級神官はすでに処罰が決まっている」
「ノルスは?」
「神官ノルスは……」
「逃亡中で、所在を追っている…」
「逃げられたのか⁈」
問う俺に、キリアンが肩を竦め、カイザーが苦虫を噛み潰したように顔を顰める。
「騒ぎに紛れてな。場が混乱していたのもあり、人の救出を優先したから、その隙を突かれた」
「一度は捕まえたんだけどさぁ、俺とジディが止めるの聞かず、隊長が単独、マヒロちゃんを助けに神殿に飛び込んだ隙を突かれちゃって……」
「え……?」
「キリアンっ!!」
「おっと!!」
マズいマズいと、そうも思ってなさそうに笑いながら口を抑えるキリアン。
そっと伺うと、バツが悪そうにカイザーが視線を泳がす。隊長なら、場を指揮する為に残らなきゃならないのに…
燃え盛る神殿に、助けに来てくれた?
誰が助けてくれたのか気になってたけど、カイザーが来てくれた。その事実が、妙に嬉しい。
「え、っと……あ、りがと。なんか、俺のせいで逃し…」
「そうじゃない!優先すべきはお前だっただけだ。俺は、その、、騎士隊の長として、だな……貴人、を守る義務があるわけだし……」
膨らみかけた気持ちが萎む。
隊長だから……義務があっただけ?
普通なら、ショックを受ける話じゃない。
なのに、俺……
意味も分からず、落胆している自分に困惑する。
「なぁんで、そうなるんですか⁉︎違うでしょ?マヒロちゃん、違うからね?隊長はマヒロちゃんを本気で……」
「ごめん……なんか、疲れたから部屋戻る」
「ええぇぇッ⁈ちょ、ここでそんな戻るって⁉︎」
キリアンが必死に何か言う。カイザーがどんな顔をしているのか。何か聞くのが怖くて見る事が出来ない。
聞きたいことの半分も聞けず、そのまま居る事もできず、半ば逃げるように部屋を出ていった。
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