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第1章 黒の双極 傾く運命は何処なりや
16.心、唇、指触れて、、
言い合いの果て、赤くなったマヒロがみるみる萎れて大人しくなった。
蒼に加え、赤の皇国までマヒロを確認に来たとなれば、不安や怒りが増すのは致し方ない。
血脈を、各国が目の色変えるほど欲しがっているのも事実で、利用されようとする事に、マヒロが怒り苛立つのも当然の事。
皇太子殿下があの手この手でマヒロを逃がさないようにしているのは分かっている。
が、マヒロにも言ったように、マヒロを政治的に利用させるつもりはない。たとえ、皇太子殿下といえど、この大陸に関わりない者をどうこうする権利はない。
ふわとしたものが足に触れた。
見下ろすと、シュラインが俺の足に体を擦り寄せている。
ふと笑い、頭を撫でてやる。
グルルと嬉しそうに鳴き、鼻先を手の平に擦り付けてきた。
マヒロの事で分からない事の中の一つ。
聖獣に異様に好かれているということ。
ちらっと見やると、肩にいるコハクという名の聖獣。白き癒しの鼬鼠。頬に擦り寄られ、擽ったそうに片目を瞑るマヒロ。
俺の傍に居るシュラインとイライザーも側に行きたいのか、ソワソワしている。
「マヒロ。聞きたい事がある」
「聞きたい事?何?」
「神殿での事だ。思い出したくないだろうが、肩の聖獣をどうやって……」
「え~……分かんねぇよ。よく、覚えてない。燃える部屋に入った辺りから、記憶が曖昧…飛び飛びっていうか」
顔を顰めながら、マヒロが深く溜め息をつく。
燃え盛る神殿に飛び込み、マヒロが居た部屋に行くまで、誰かと会ったりすれ違ったりもしていない。
部屋に居たのはマヒロだけ。
なら、マヒロが副神殿長の聖獣の封架印をどうにかしたとしか結論づけられない。
他人の聖獣から何の因果もなく好かれ慕われ、尚且つ、封架印もなく従わせることができる存在。
やはり血脈の力とは隔絶している。
「マヒロ……お前は」
「カイザー?」
軽く息を呑み、やや硬い声で呼ぶ俺に、マヒロがキョトンと見上げてきた。
言葉を発する前に、部屋の扉が叩かれる。
「入れ」
無視するわけにもいかず入室を許可する。
顔を覗かせたのは報告に行かせていたレネットで、少し緊張しながら入ってきた。
「皇太子様への報告は終わりました。勅命をお出し下さるそうで、赤の皇国の方が、これ以降、貴人様に勝手に接触なさることはありませんしできません」
「そうか……分かった」
赤の皇国ガルンディア。
警戒すべきは、皇国王と国だけではない。
ジオフェス。
要注意なのはあの男だ。
常にのらりくらり、へらへらと不真面目腐った風を装いながら、その実、隙らしい隙がまったくない。
もう一度、クギを刺しておくべきか……
「……ザー?カイザー……」
「あ……あ、あぁ。どうした?」
マヒロの呼ぶ声に、考え事から引き戻された。
「いや……あ、のさ」
「うん?」
歯切れ悪く、視線を彷徨わせながら、マヒロが躊躇いがちに口を開く。
「ごめん…さっきは、その、、言い過ぎたと、思う」
当り散らした事を言っているのだろう。
「構わない……実際、俺はお前を守るとは言ったが、あまり実現できてもいないしな」
「そんな事!!……」
慌てたように、マヒロが俯けていた顔を上げる。
勢いに目を見開き言葉をなくす俺に、マヒロが気まずそうに小さく吐息を吐き視線を泳がす。
「カイザーは……悪くねぇよ。密猟者やバカ兄皇子からも守ってくれた。神殿にも助けに来てくれた。今だって、他の国や、皇太子からも庇おうとがんばってくれてる」
「それ、は……」
「分かってる!!義務だから。カイザーがしたくてやってくれてんじゃないのは分かってるから」
義務?
いつぞやうっかり言ってマヒロを傷付けた言葉だ。
同じ轍を踏む気はない。
一つ大きく息を吐く。
「義務じゃない」
「へ?」
「俺がしたいからやっている。俺がマヒロ、お前を守りたいからやっている」
ひたと、視線を合わせたまま言った。
目を見開いた後、マヒロの頬がパッと淡く染まった。
「へ、あ、、う、ぇ?ぁ、の」
意味を成さない言葉を漏らし、可哀想なくらいに狼狽える様に、笑いを噛み殺すので精一杯だ。
ふと、マヒロの唇の端、うっすら色が滲んでいるのに気がついた。
レネットがこんな適当な事をするはずはない。
「マヒロ。唇、色が乱れてる。何があった?」
「へ?あ……あぁ、、あの、赤の皇国の」
「ジオ?」
妙に歯切れ悪く言う、マヒロの口から出たジオフェスの事に、ムッとなった。
眉を顰める俺に、マヒロが戸惑いつつ吐露する。
「唇、擦られて……」
「触らせたのか⁈」
「触ッ…!変な言い方すんなよ!!勝手に指で色落とされたんだッ!!その後その指………」
「指をどうした?」
「指を……ってか、怖いんだけど?何、そんな不機嫌…」
「指がどうしたんだ?」
自分でも声が低く、昏くなったのが分かる。
訝り、若干怯むマヒロを、無意識に引き寄せる。
「カ、、イザー?あ、の……」
狼狽えるマヒロの唇から目が離せない。
ほんのり色がついたそれ。
指とはいえ、自分以外の誰かが先に触れた事実に苛立つ。ゆっくりと伸ばした指でマヒロの顎に触れ、やんわりと上向かせた。
そのまま、指で唇に触れる。
ピクンと小さく震える体。
指先でゆぅるりと唇を撫でた。
「カイ、ザー⁉︎」
小さく、悲鳴のように名を呼ばれ、ハッと我に帰る。
羞恥困惑に揺れるマヒロの瞳と目が合う。唇に触れた指。離れがたいそれを必死に動かし離れた。
「カイザー⁈」
「レネットを呼ぶから、直してもらえ。大丈夫だと思うが、知らん奴が来ても扉は開けるな。勝手に部屋から出るなよ?」
「え、ちょ、、」
慌てるマヒロに返事は待たず、応えることもせず、言うだけ言って部屋を出た。
閉めた扉に背中から凭れかかる。
唇に触れた指を目の前に翳した。
ギュッと指を握り込み、拳に自分の唇を充てがう。
ハァ~ッ、と深く息を吐き、凭せ掛けた背を扉から離し離れていった。
*更新、大幅遅れ!!((((;゚Д゚)))))))大変、失礼、致しました!!(>人<;)
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