聖獣騎士隊長様からの溺愛〜異世界転移記〜

白黒ニャン子(旧:白黒ニャンコ)

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第2章 聖獣妃

5.目覚め 聖獣、吼える③




「マヒロ!!」

足が床に着くなり、名を呼ぶ。聖獣妃マヒロの支配下に入ったのか、転送が済むなり、ジオフェスの聖獣の存在が消える。
部屋の中は惨状だ。部屋中が傷つきボロボロとなっていた。
壁にもたれ、座り込んだ第一皇子。それとは逆に、寝台に倒れ伏す体に、慌てて駆け寄る。
が、直前で見えない力と壁のようなものに阻まれた。怪我は免れたが、物凄い拒絶の力を感じた。

「ッッ⁉︎」

ビリビリとした痺れと痛みに、思わず顔を顰める。
俯せて倒れたマヒロの顔は窺い知れないが、ゆらゆらと立ち昇る魔導の揺らぎは見て取れた。
明らかに今までとマヒロが纏う空気が違う。

「はっ!貴様が来たか…カイザー」

壁にもたれたまま、第一皇子が不敵に笑う。

「何故、マヒロは貴方と一緒に居るのですか?そもそも、マヒロに何をしたのです⁈」
「私はここへ来るように言われただけだ。来れば望むものが手に入ると。何をしたと言われたら、私はただ聖獣妃に現実を教えたまで。貴様にとやかく言われる筋ではない!不敬にもほどがあるぞ!カイザー!!」

居丈高に言い放つ第一皇子を睨め付ける。マヒロにした自分の不敬は棚に上げ、厚顔無恥にもほどがあるとこちらは言いたい。

「マヒロが聖獣妃だと、貴方に教えた者は誰ですか?」
「知らぬわ!!顔は目深に被ったローブで見えず、声は変異させていたのか聞いた覚えもないものだった」

何を意図して第一皇子にマヒロの事を教えたのか?
第一皇子が利用されたのは明白だが、利用しようとした者の情報がなさすぎる。
これ以上は、第一皇子に聞いても何も得られないと、半ば歯噛みしつつ聞くのを諦める。

「申し訳ありませんが、貴方様の身柄は拘束させていただきます」
「な、んだと⁉︎貴様、それはどういう事だ!」
「知っての通り、マヒロは聖獣妃。その身は、国王猊下以上の尊さです。殿が、危害を加えていいほど軽くはない」
「な⁉︎、、き、貴様ーーーーッッ!!」

毅然と言い放った俺に、一瞬、呆けた後、第一皇子が顔を真っ赤に怒らせ逆上した。

「俺はこの国の皇子だ!皇太子の座はリステアに奪われた!だがな、皇太子に相応しいのは俺だ!俺がこの国の後を継ぐに相応しい人間だ!!その為に聖獣妃を手に入れようとして何が悪い⁈クソっ!クソーーーーッッ!!誰も彼もが、リステアばかりを遇しおって!俺を認めんのであれば、聖獣妃など要らぬ!!この場で貴様もろとも葬り去ってくれるわッッッ!!!」

癇癪かんしゃくを起こしたように喚き散らし、血走った目で第一皇子が片手の平を俺とマヒロの方へ向けた。
一瞬、動きが止まり、訝しむように首をひねる。

「な、ぜだ⁈何故、出ぬ!」

ぎゃあぎゃあ、気でも触れたのかとばかりに騒ぎまくる第一皇子に呆れしか湧かない。

「聖獣は出せない。今は、マヒロ聖獣妃の支配下にある」
「な、んだとぉーーーー!!くっそーーーー!!!クソがッッッ!役立たずめぇーーーーーーーー!!!!」

淡々と告げた俺に、第一皇子が顔をどす黒く染め、地団駄じだんだ踏む。もはや、一国の皇子とも思えないほどの醜態しゅうたいだ。

『………ラウ』
「⁉︎」

不意に聞こえた微かな声。
慌てて、マヒロの方へ目をやった。
伏していた体がゆらりと起き上がり、ゆっくりとこちらへ向く。
マヒロを見とめ、思わず息を飲む。
左頬から首すじにかけ、宝石のように煌めく新緑の精緻せいちな紋様が彩る。光彩のみの銀緑の瞳にひたと見据えられた瞬間、不可思議な感覚に襲われ体が動かなくなった。
目が離せない。逸らす事も出来ず、ただ見つめるのみ。

『要ラヌナラバ返セ。ソナタニ持ツ資格モ必要モナイ』

フッとマヒロの視線が、俺から背後の第一皇子へと逸らされた。
視線が外れた瞬間、知らず詰めていた息を吐き出した。思わず、ギュッと胸元を握りしめた手に、早鐘のように動く鼓動こどうが伝わる。
緊張。いや、それだけじゃない。これは……高揚こうよう

「がっ⁉︎あ、ぐ、がっあッッ!!」

呻き声が聞こえ、ハッと我に帰る。
マヒロが第一皇子に向けた指先が白く光り、流れ出した魔導が伸び、第一皇子を取り囲むように方陣が描かれていく。
ギリギリと音がしそうな程、第一皇子の体が見えない力に拘束され、はりつけのように固定されていく。

「ぎ、ぎざま!!な、にを、ずるッッ⁈」
『返シテモラウダケ。其方ニハ過ギタルチカラヲ』

第一皇子の両手の甲、腹、胸元、額に小さな光る方陣が浮かび上がる。
更にその上に浮かび上がるのは……

「命約の封架印?」

聖獣と聖獣をつかう者とを結ぶ、契約の印。魂と魂、魔導同士を繋ぐ命綱のようなものだ。
なくなれば文字通り、聖獣との絆をなくす。
マヒロ、、であって、マヒロではない者が何をしようとしているのかは分からない。苦痛と拘束こうそくあえぐ第一皇子を助ける事も出来ず、俺の体はただ固まったまま動かない。

『契約断裂』
「ガッっ⁉︎」

マヒロの言葉で、第一皇子の両手の甲の封架印が、方陣と一緒に弾けて霧散する。

「や、やめ、、ッッ!」
『理 断裂』
「あがっ!!」

腹の封架印が弾け飛び、第一皇子が顔を歪ませ身を捩る。ここまでくれば、マヒロがしようとしている事が分かり、驚愕に目を見開く。
聖獣を引き剥がす気か⁉︎

「よ、せ……やめろッッ、マヒロ!!」

鋭く言葉を放つ俺に、マヒロが一瞬だけ瞳を瞬かせ、ふわりと、場と行おうとしている事には不似合いなばかりに柔らかな笑みを浮かべた。

『命鎖断裂』
「ぎゃっッッ!!」

胸元の封架印が弾け飛んだ。白目を剥き、意識朦朧もうろうになる第一皇子に、ギリと歯噛みしマヒロとの間に立ち塞がり妨げた。

「もう、やめろ!!マヒロはこんな事を望まない。するような者じゃない!マヒロを操るのはやめろ。今すぐに、マヒロを返せッッ!」

睨みつける俺に、マヒロが微笑む。

『…………ッ、、ザー」

言葉が途中で元に戻った。顔は笑みを浮かべたまま、ただ瞳からは止め処なく涙が溢れ出していた。

「あ、ぁ、、う!『彼ノ血……』と、まら、、、ない!」

マヒロとマヒロではない何かの声が重なり混ざる。
第一皇子の血を代償に、封架印を壊そうとしている。
なら、別の血で横槍を入れたら?
迷っている場合じゃない!
結界の弱まったマヒロに駆け寄り手首を掴んで引き寄せる。驚き抵抗が止んだ一瞬の隙を突き、親指の腹を歯で噛み切り溢れた血を口に含み、そのままマヒロの唇を己のそれで塞ぐ。
見開いた目が、徐々に焦点を結ぶ。マヒロの体を包んでいた魔導が収まり消えていく。
唇を離すと、口中から溢れた血が僅か流れ出す。指でやんわり拭い去ってやると、瞬いた瞳が元の黒の光彩を紡いだ。

「目が覚めたか?」
「ーーーーーーーーッッッ!!!」

瞳を合わせ、軽く額に自分のそれを当て、小さくゆっくりと問うてやると、マヒロの顔がくしゃりと歪む。
ヒクッと小さくしゃくりあげた顔を胸元に押し当ててやり、抱き竦め、やっと大きく息を吐いた。












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