83 / 120
第3章 翡翠の剣姫
3.繰り返す運命の輪
「嫌ッッッ!!」
叫んで睨み据える。
自分らしき、が、よく知る者が声を発していた。
目の前にいる別の誰かに、両二の腕を掴まれる。
まるで癇癪を起こした子どものように体を捩る。
「何で⁈それしかないの?ーーーは?それで、ーーーーったら?ーーーーーーーない!!」
ところどころで言葉が消えて聞こえない。
これは、俺?喋っているのは自分だろうか?目の前の相手が見えない。分からない。
必死に目を凝らすが、ただ白い光の塊にしか映らないその人の姿は見えない。
『ーーーーーーーーーーーー』
何かを発したそれは言葉という音にならず、俺の耳に届かない。
ただ、悲しそうな悔しそうな顔をしているのだけが分かり、伏せていた目を開けた瞬間、俺の両二の腕を掴んだ光の腕に亀裂が入る。
「う、あ、、⁉︎」
ビキッ、バキッ、と鈍く割れていくそれを止められない。
「やっ、、ぃ、、、ッッ!」
慌てて亀裂を押さえる俺の手の下でひび割れがどんどん広がる。
バッと振り仰いだ俺の目に、目の前の相手の顔が急に鮮明になり……
「ーーーーーーーーーーーーーッッッ!!!!!!」
*
*
*
*
*
*
*
*
*
*
轟音と共に風が逆巻く。
抱き止めていた体から放たれた衝撃波で、俺の体が弾き飛ばされた。
受け身を取り構える先で、座り込むマヒロの姿が目に映る。
異変をきたしたマヒロの体が傾ぎ、受け止めた瞬間、突如としてこうなった。一度意識をなくしたはずのマヒロの真紅と黒の明滅を繰り返す瞳。他を圧倒する力。
それに……
「カイザー!」
名を呼ばれそちらへ目を向けると、シャイアが地に剣を突き立て風に耐えている。
「聖下はどうなさった⁈一体、この力は何だ!」
「分からん……マヒロがこうなったのは初めて、で」
そう応えるが、不可解な点は多い。
魔導を測った時にも。神殿の時にも。
「力の暴走……かな?聖獣妃様はよほど繊細なお方らしい」
エルシアが同じく剣で体を支えながら言い、どこか面白そうに笑う。
実際は笑ってられない状況ではあるが。
考えるのは後だ。
マヒロをまずどうにか鎮めないと、城の中で力の暴走は駄目だ。
「聖獣石は?そもそも、それがあれば暴走なんぞ…」
「ない……」
「は?ない?聖獣石がか?」
風の轟音が凄まじく、ほとんど怒鳴るように喋っていたシャイアが、俺の返しに素っ頓狂な声になる。
マヒロに関しての不可解なもの。それもあった。
「聖獣石を持たない聖獣妃など聞いたことがないぞ⁉︎そもそも、聖下は真に聖獣妃でいらっしゃるのか⁈」
「それ以外では条件は満たしている。マヒロは聖獣妃なのは間違いない……」
「だったら、何故?聖獣石はど……」
「2人とも。今は、聖下に静かにしていただくのが先決だよ?質問、お喋りは後でね?」
俺とシャイアのやりとりをぶった斬り、エルシアののほほんとした緊張感をぶち壊すおっとり声。
確かに今はそれどころじゃなかった。
シャイアと話していると調子を狂わされる。
そもそも、シャイアの余計な関わりのせいで、マヒロが誤解してこんな事態になったんじゃないか?
「はいはい。カイザー、また気持ちが別に逸れてるよぉ?シャイアと仲良くしないで、聖下と仲良くね?」
「誰がだ!!マヒロとはお前に心配されずともそうだ!お前らのせいでマヒロがこうなった……」
「はいはいはい。それも後!力の暴走は私とシャイアが抑えるよ。カイザーは聖下を引き戻してね?」
いいようにあしらわれたが納得できん!
言いたい事は山程あるが、今はマヒロをどうにかするのが先なのは確か。元凶の1人に言われるのは気に喰わないが今は仕方がない。
「聖獣妃の力だぞ?抑えられるか?」
「う~、ん、、1人なら無理かな?まぁ、シャイアも居るし。後は2人の聖獣も合わせてなんとか?」
長くは保たないって事か……
間を置かずマヒロを引き戻さないとならない。
溜め息を一つつき、キリと顔を引き締める。
「行くよ、シャイア」
「うん?よく、分からんが…まぁ、分かった!」
「おいで?レット」
エルシアが呼び、胸元が光り白い塊が飛び出す。
真っ白な毛に、首回りと尾の先だけが金毛のキュア・ウィーズル。
エルシアの聖獣だ。
マヒロの聖獣と同じだが、位はエルシアの聖獣の方が上。
「聖獣を出すんだな?来い!メルク」
シャイアが呼び、同じく聖獣が飛び出す。こちらは、翡翠色の毛に、金色の瞳の旋風の聖狐。
俺の炎帝氷帝と並ぶ高位聖獣。
「シャイア。聖下の動きを封じてね?」
「分かった!『エヴァー・プラント』」
風属性の緑の蔦の紋様が四方八方に伸びて、マヒロの体に絡まる。
ギリギリと体に喰い込むように締まっていくそれに、俺の眉間にシワが寄る。
「力が入り過ぎだ!マヒロの体を傷つける気か!」
「馬鹿を言え!!そんなわけなかろう!!木属性のエヴァー・プラントに、メルクの風属性を纏わせての多重属性魔導だ!力が強ければ強いほど込められる力も強くなる。聖下の力が桁違いなのだ!御身を傷つけない為、逆に力を弱めようとしなければならなくて、こちらが余計に魔導を使わされている!」
これだけしか力を使っていないのに、シャイアの息がすでに上がっている。
「では、私も加勢を。『エヴァー・エンシェント・ヴォルト』」
「雷属性⁉︎エルシア、貴様!!」
「大丈夫だよ。威力は微力なまでに抑えてる。痺れる程度だから」
ニッコリ笑うが、こいつの笑みほど信用できないものはない。
「う~、、ん…中々、うん。キツいね」
「早くしろ、カイザー!!エルと2人かがりでも保ちそうにない!!」
ここでも言いたいことはあるが、押し留めてマヒロの元へ駆け寄る。
急いでマヒロの両肩を掴んだ手に、ビリビリと刺すような痛みが走り顔を顰めた。
「マ、ヒロ!正気に戻れ!力を、抑えろ!」
『ァ……………………、……ッ、…』
光彩を無くし、真紅と黒の明滅を繰り返す瞳が僅か揺れる。
嫌だというように首を振り、噛み締めたマヒロの唇が切れて血が流れる。
チッと思わず舌打ちした。
無理やり引き戻すやり方は、いくつかあるにはある。
痛みは与えたくない。苦しませるのは問題外だ。
『レイ、、ド……』
またか。知らない名だ。
と、なれば今のマヒロの状態が見てとれた。
「俺はお前が求めるそいつじゃない。この体はマヒロのものだ。悪いが出て行ってもらおうか」
冷静、且つ、敢えて冷たく言い放つ。
マヒロだけだ。他を構うつもりも、どうにかしてやりたいとも思わない。
「返せ」
マヒロの顔がクシャリと歪み、泣きそうに眉が潜めらた。
さすがに見た目がマヒロなだけに怯みそうになる。
ハァッと溜め息をつき、マヒロの頬に手の平をあてる。
「返してくれ……頼むから」
優しく諭すように言うと、マヒロ(の体にいる誰か)が俺の両肩に手をかけた。
『…………サ、イ。ツ…ハ………………イカラ』
マヒロの口で言葉が紡がれる。
至近距離から放たれた言葉に目を瞠り、問い返そうとした俺の言葉を封じるように唇が塞がれる。
柔らかい唇の感触に目を見開く。
意味を聞かなければならないと思いつつ、腕が無意識に細い体を引き寄せ抱きすくめていた。
あなたにおすすめの小説
性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
【完結】転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して二年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
処刑される悪役令息に転生したらなぜか推しの騎士団長がグイグイ近づいてくる
猫に小判
BL
交通事故で死んだはずの会社員・田中悠人は、気がつくとBL小説『恋と陰謀~はじまりは夜に~』の世界に転生していた。
しかも転生先は、原作で処刑される悪役令息エリオット。
当然そんな未来は回避したい。
原作知識を頼りに慎重に立ち回るつもりだったのに、気づけば王宮を揺るがす事件に巻き込まれていき――。
さらに困ったことに、原作で一番の推しだった騎士団長ガイウスがやたらと距離を詰めてきて……?
平穏に生きたい元悪役令息と、過保護な騎士団長がじれじれ距離を縮める話。
ガイウス(騎士団長)×エリオット(元悪役令息)
冤罪で堕とされた最強騎士、狂信的な男たちに包囲される
マンスーン
BL
王国最強の聖騎士団長から一転、冤罪で生存率0%の懲罰部隊へと叩き落とされたレオン。
泥にまみれてもなお気高く、圧倒的な強さを振るう彼に、狂った執着を抱く男たちが集結する。
人気アイドルの俺、なぜかメンバー全員に好かれてます
七瀬
BL
デビュー4年目の人気アイドルグループ「ECLIPSE(エクリプス)」に所属する芹沢 美澄(せりざわみすみ)は、昔からどこか抜けていてマイペースな性格。
歌もダンスも決して一番ではないはずなのに、なぜかファンからもメンバーからも目を離されない存在だった。
世話焼きな幼なじみ、明るく距離の近い同い年、しっかり者で面倒見のいい年上、掴みどころのない自由人、そして無言で隣にいるリーダー——。
気づけば、美澄の周りにはいつも誰かがいて、当たり前のように甘やかされていく。
異世界転生してひっそり薬草売りをしていたのに、チート能力のせいでみんなから溺愛されてます
ひと息
BL
突然の過労死。そして転生。
休む間もなく働き、あっけなく死んでしまった廉(れん)は、気が付くと神を名乗る男と出会う。
転生するなら?そんなの、のんびりした暮らしに決まってる。
そして転生した先では、廉の思い描いたスローライフが待っていた・・・はずだったのに・・・
知らぬ間にチート能力を授けられ、知らぬ間に噂が広まりみんなから溺愛されてしまって・・・!?
伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい
マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。
最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡)
世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。
美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜
飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。
でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。
しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。
秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。
美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。
秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。