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第3章 翡翠の剣姫
4.求める結果がそれだけだとは限らない!⑦
とろりと恥ずかしそうに甘く緩んだ瞳が瞼に閉ざされた。
できれば潤んで煌めく、この世界では何より高貴な黒瞳を見ていたかったが、存外、こういう事には不慣れなマヒロに無理は言えない。
微かに震える唇にゆっくりと己のそれを近づける。
恐怖からではない。緊張しているからと分かっている為、触れる事には躊躇いはなく、が、本当に怯えさせたくはない為、殊更、ゆったりと口づけた。
触れるだけのそれをすぐに離し、間近から見つめると、終わったと思ったのか、マヒロの唇が小さく開き吐息を漏らした。
「ンぅっ⁈」
すかさず、深めに再度口づけると、マヒロが焦って潜もった声をあげる。
一瞬、抵抗するかのようにもがいたが、すぐに肩に手を回し縋りついてきた。
薄く開いた唇をこじ開け、舌を深く差し込む。
柔らかく潤んだマヒロのそれに、自分のそれを絡めると、僅かに逃げを打った後、おずおずと絡め返してきた。
気を良くし、背中に回した手を徐々に下へ降ろす。
腰を過ぎ、尻にかかりかけたところで、マヒロの体がビクッと小さく戦慄いた。
触れるのは2回目だ。あまり性急にすると、怯えて逃げかねない。
舌先と唇を軽く舐めて口づけを解き、ゆっくりと開いたマヒロの瞳と視線を合わす。触れそうで触れない距離。
はふっと、微かに漏らす吐息が俺の唇にかかり擽る。
「まだ…無理か?」
下半身への接触はまだ少し抵抗があるらしい。
そっと囁くように伺ってやると、戸惑うように瞳を揺らし、目元を薄っすら染めて伏し目がちに返事が返る。
「い、きなりは……まだ、ちょっと……いや、、だ」
「そうか…」
小さく返した俺に、マヒロが慌てたように胸元にしがみつく。
「で、も!その………キス……口づ…、は…や、じゃね、、から…」
相当、恥ずかしいらしい。耳まで赤く染まる様に、笑いを堪えるのが必死になる。
笑ってしまえば、マヒロの事だ。盛大に拗ねて、これ以上の触れ合いは終わりになる。
もう少し、触れていたいからな…
「軽く?それとも、先程みたいのがいいか?お前のいいようにするが?」
「そ、、なっ、、、ッ」
お伺いを立てると、吃りながら視線がうろつき、ハクハクと口が開閉を繰り返した後、キュッと噛み締められた。
マズいな……こんな顔を見たら、少し苛めてみたくなる。
自分の中にそういった意地の悪い部分がある事に驚きだ。今まで付き合った者たちには感じた事がないそれに、戸惑うやら楽しいやら複雑な心境だ。
「もういいなら……やめておくか?」
「ッッッ………!」
離れようとすると、服をギュッと掴まれた。
シャイアの件で相当不安に思っていたのだろう。マヒロの性格なら、触れる距離がかなり近い。
弱みにつけ込むようで気が引けるが、マヒロが甘く強請る姿が見れるかもしれない誘惑にも勝てない。
しばらく、何かを言おうとし、やめてを繰り返し、マヒロが俺の胸元に顔を伏せ、小さくぽつと口を開く。
「し、……て」
「うん?」
「深………ぃの、、、して」
「ッッ」
失敗したな……
言わせるべきではなかった。
自分の浅慮が忌々しい。
それどころじゃない。まだこれからやる事が山積みだというのに、今のマヒロの言葉に、それら全て投げ出して、目の前の体を掻き抱きたくなってしまった。
愛おし過ぎて頭が真っ白になるなど経験がない。
自分の中の激情を抑え込むのに必死になるなど……
口元を手で覆い、ぐぅっと唸る。
近衛騎士隊長ともあろうものが、欲望に呑まれそうだ。
「カイ、ザー?」
「………言わせておいてなんだが……あまり、煽ってくれるな…」
「ぇ…?」
キョトンと、場に不似合いなくらいにあどけなく見上げてくるマヒロに、目元まで手で覆い顔を逸らす。
触れたい。
できればそれ以上に。が、これ以上触れれば…
「カイザー……?」
「マ、、」
訝しみ、首を傾げるマヒロに手で待ったをかけようとした俺の言葉を遮るように、部屋の扉が、少し遠慮がちに叩かれた。
「誰だ?」
「あ~~~……隊長、俺ッス」
「キリアンか?」
「はい……取り込み中だったら~、、」
「いや、いい。入れ」
マヒロの体をそっと離し、後ろを向くように体を反転させてやる。
ガリガリと頭を掻きながら、キリアンが申し訳なさそうに入ってきた。
「すいません。マヒロちゃんといちゃいちゃ邪魔して」
「…………………………………………それはいいから、要件を言え」
気が利く腹心だが、こいつはいつも一言多いな。
胡乱な目を向けると、キリアンが佇まいを正す。
「皇太子殿下がお呼びです」
「……………………分かった」
やはりきたか。
呼び出されるのは分かっていた。こうも早いとは思わなかったが……
皇太子の呼び出しとあれば行かないわけにはいかない。
「先に行ってろ。シャイアはどうした?」
「ジディが相手してるっす。怒り狂って、宥めんの大変だったんすよ?」
「落ち着いたんならいい。戻れ」
「了解です」
『はぁ、やれやれ』と、肩を竦めながら戻るキリアンを見遣り、マヒロに向き直る。
後ろを向いたまま、キリアンに顔を見られないようにしていた体をこちらへ向ける。
まだ赤い顔を、頬を手で撫でてやる。
「ここで少し休んでいろ。後で、キリアンかジディを寄越すから、屋敷に送らせる」
「分かっ、た」
「それから、屋敷に戻ったら、俺が戻るまで……その、少し寝ておけ」
「?…………何で??」
疑問顔で聞いてくるマヒロに、グッと詰まりながらも口を開く。
あまり、無防備な顔を今は見せないでほしい。
極力、気を落ち着かせ息をゆっくり吐く。
「次、触れたら……」
「つ、ぎ??」
「多分……しばらく、、離してやれない」
「ッッッ!!!!!」
一瞬で真っ赤に染まり絶句するマヒロの頬をひと撫でし、気持ちを切り替えるように短く息を吐き、振り切るように踵を返した。
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