93 / 120
第3章 翡翠の剣姫
4.求める結果がそれだけだとは限らない!⑩
目の前に迫ったはずのエルシアが消え、代わりに慣れ始めた腕に抱かれた。
そっと伺うと、エルシアから離れた場所に移動していた。
震える手で、目の前にある体に縋りつく。
「さすがだね。聖下を腕にしたまま、そこまで動ける者は居ないな。ね?カイザー」
感心したように、エルシアが柔らかな笑みを浮かべて問いかけてきた。
まったく悪びれもせず、邪魔が入っても慌てもしない。
シャイアも分からなかったが、エルシアはそれ以上に理解できない。
「う~ん…5人相手は厳しいかなぁ」
思ってもなさそうだ。困ったように苦笑を浮かべてはいるが、エルシアからは構えた空気や緊張は伺えない。
「相手になるなら、俺1人だ。ジディとキリアンはマヒロを護衛させる為に連れてきた。後の2人は勝手について来ただけだ」
「勝手にはひどいだろ⁈」
「おまけみたいに言うでない!!」
厳しい顔のまま言うカイザーに、ジオフェスとシャイアが抗議する。
ギャンギャン喚く2人を無視し、カイザーとエルシアが対峙。ひとしきり、カイザーを見やった後、エルシアがチラリと視線を寄越す。
情けないが、それにビクッと体が震えてしまう。
剣を突きつけられた記憶もまだ新しい。
武力なんかとは無縁に育ったのだ。誰かの庇護下に入ったからといって、すぐすぐ平然とできるほど、俺のメンタルは強くない。
それに対してエルシアが微苦笑し、カイザーに向き直る。
「なんだか、私が聖下を虐めたみたいになってるね?」
「……………………」
虐めたって………虐められた覚えなんかない。
さすがにその言い方は、男としてプライドが傷つく。
まぁ、殺されかけはしたが……
カイザーが苦虫を噛み潰したような顔を浮かべた。
「まぁ、もういいかな……」
フッと小さく笑み、エルシアが剣を握る。
「降参」
「…………………………………………へ??」
ニコッと笑い、剣を鞘にしまってエルシアが両手を軽く上げた。
気兼ねもなく、あっさりとした突然の言葉に唖然としてしまう。
「降、、参?」
「ええ。確かめないといけない事は分かったし、これ以上やって、聖下に嫌われるのも、蒼の皇国に睨まれるのも望みではないので」
「それを信じろ、と?」
「拘束を受けても構わないけど?」
しばらく無言でいた後、フゥッと深く溜め息をつき、カイザーが体に纏わせていた闘気を解く。
「キリアン、ジディ。マヒロを護衛して屋敷へ帰れ」
「かしこまりました」
「了解で~す!シャイア様はどうします?」
「ジオ」
「はいはい。城に連れ帰ろってね?分かってる」
ジオフェスが肩を竦めてカイザーに返す。
キリアン、ジディに両脇をがっちり固められ、いつの間にか現れたシュラインが足元に寄り添い、警戒するようにエルシアを見やる。
イライザーはカイザーの足元で、同じく警戒MAX。
悪いが俺も二頭に同意だ。
「先に屋敷へ。キリアンとジディを付かせるから、大人しく待っていろ」
「……わ、かった」
「シュライン、一緒に行け。マヒロを護れ。分かるな?」
グルルと鳴いて、シュラインが俺にピッタリくっ付く。
「聖下」
「ッッ!!」
エルシアからの呼び声に、俺の体がビクッと戦慄いた。
本気で苛つく。
トラウマになったらどうしてくれるんだ⁈
ソッと息を吐き、視線を向けると、エルシアが微苦笑を浮かべた。
意味が分からない。酷いことされたのは俺なのに、まるでこっちが悪い事したみたいだ。
「ご無礼をお許し下さい」
「エルシ……」
「隊長。それではマヒロ様をお連れいたします」
「え?ジディ……?ちょっ、、」
有無を言わせず、ジディにグイグイ押される。
見合ったままのカイザーとエルシアが気になるが、これ以上ここに居たくないし、できるなら少し休みたい。
「この世界来てからバッタバタなんだけど?平穏無事な生活どこ行ったわけ?」
「マヒロ様?」
「……………………なんでもね」
独り言ちは聞き取られる事なく、問い返すジディに、俺は深い溜め息と共に返事した。
あなたにおすすめの小説
性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
【完結】転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して二年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
処刑される悪役令息に転生したらなぜか推しの騎士団長がグイグイ近づいてくる
猫に小判
BL
交通事故で死んだはずの会社員・田中悠人は、気がつくとBL小説『恋と陰謀~はじまりは夜に~』の世界に転生していた。
しかも転生先は、原作で処刑される悪役令息エリオット。
当然そんな未来は回避したい。
原作知識を頼りに慎重に立ち回るつもりだったのに、気づけば王宮を揺るがす事件に巻き込まれていき――。
さらに困ったことに、原作で一番の推しだった騎士団長ガイウスがやたらと距離を詰めてきて……?
平穏に生きたい元悪役令息と、過保護な騎士団長がじれじれ距離を縮める話。
ガイウス(騎士団長)×エリオット(元悪役令息)
冤罪で堕とされた最強騎士、狂信的な男たちに包囲される
マンスーン
BL
王国最強の聖騎士団長から一転、冤罪で生存率0%の懲罰部隊へと叩き落とされたレオン。
泥にまみれてもなお気高く、圧倒的な強さを振るう彼に、狂った執着を抱く男たちが集結する。
人気アイドルの俺、なぜかメンバー全員に好かれてます
七瀬
BL
デビュー4年目の人気アイドルグループ「ECLIPSE(エクリプス)」に所属する芹沢 美澄(せりざわみすみ)は、昔からどこか抜けていてマイペースな性格。
歌もダンスも決して一番ではないはずなのに、なぜかファンからもメンバーからも目を離されない存在だった。
世話焼きな幼なじみ、明るく距離の近い同い年、しっかり者で面倒見のいい年上、掴みどころのない自由人、そして無言で隣にいるリーダー——。
気づけば、美澄の周りにはいつも誰かがいて、当たり前のように甘やかされていく。
異世界転生してひっそり薬草売りをしていたのに、チート能力のせいでみんなから溺愛されてます
ひと息
BL
突然の過労死。そして転生。
休む間もなく働き、あっけなく死んでしまった廉(れん)は、気が付くと神を名乗る男と出会う。
転生するなら?そんなの、のんびりした暮らしに決まってる。
そして転生した先では、廉の思い描いたスローライフが待っていた・・・はずだったのに・・・
知らぬ間にチート能力を授けられ、知らぬ間に噂が広まりみんなから溺愛されてしまって・・・!?
伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい
マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。
最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡)
世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。
美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜
飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。
でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。
しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。
秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。
美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。
秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。