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第4章 白花の聖女
5.黒と白⑬
こちらをさも不愉快とばかりに見やるのは、予想に違わない相手。
身軽な服装に着替え幾分砕けた雰囲気ではあるが、一見、夜の気配に呑み込まれてしまいそうな、けれど力強い光を放つ、濃藍色の瞳にひたと睨めつけられる。
そうなりたくない時に限ってそうなるし。
会いたくない相手には会ってしまう。
正直、今は気分も頭の中もグチャグチャで、誰の相手もしたくない心情なのだ。
出会ってから、今の今まで最悪な、目の前の男の相手は、特に願い下げだ。
ざわつく心を落ち着けたくて、冷静になる為外の空気を吸おうと出てきたのに、落ち着くどころか、下がり気味だった気が一気に下降線を下ったのが自分でも分かる。
出てきたばかりだが、はっきり言って今の状態で、今以上に疲れることはしたくない。
目の前の男、黒の聖騎士ジークレイドをそっと見やり、気取られぬよう、小さく嘆息し、踵を返した俺の背に、鋭い言葉が挿し込まれた。
「逃げるのか?」
「ッ!!」
本当に嫌になる。
目の前の、意味不明に敵愾心剥き出しの男も、生来、負けず嫌いで意地っ張りな自分自身も。
無視すればいいだけの話だ。
実際問題、疲れているのは事実だ。
見知らぬ場所に来て、やれ血脈がどうの、聖獣妃がどうたらと……
皆が皆、俺を一人蚊帳の外に置き言いたい放題のやりたい放題。
そんな中を、気力と意地、そして、誰が敵で味方かも分からない中、弱みを見せて自分を窮地にやらないべく、これでも必死に取り繕ってきたのだ。
ややもすれば、怒り、喚き散らしてしまいたいのを我慢して。
「少しは気概を見せたらどうなんだ?俺に何か言われたぐらいで、反論すらせず敵前逃亡か?情けない。聖獣妃以前に、男としても認めるところではないな」
「…………………」
人の神経を逆撫でするのが上手い奴だ。
理路整然と宣う目の前の男を見ていると、無性に反発心しか湧いてこない。
「おい。黙ってないで、何か………」
「あんたさ………………………」
奴が尚も言い募ろうとした言葉を、途中で遮って、ひたと睨めつけた。
「カイザーと俺を引き離したいのか?」
「…………………ッ」
俺だって駆け引きはする。
まだまだ10代の若造ではあるが、それでも、人に気を使う礼儀や言葉遣いは、多少は弁えているつもりだ。
目の前の男にはそれをするつもりはまったくないけど!
失礼な奴に対して、敬意を払うつもりは毛頭ない。相手と同じ態度を取れば、相手と同じ土俵に立つだけなのは百も承知だ。
が、、、
目の前の男には、敢えて失礼な態度と言葉で臨むことに決め、投げ掛けた言葉も一切の遠慮もなしに、ド直球にぶっ込んだ。
この際、下品だ何だと言われたとしても構わない。
どうせ目の前の男は、俺を認めてはいないのだ。
俺が真っ向から、しかも曲解のしようもないほど真っ直ぐな言葉を投げるとは思ってなかったらしく、ジークレイドが鼻白んだように僅かに眉を顰めた。
返答に詰まったのは一瞬で、一瞬とはいえ、言葉を返し損ねたのが心底心外とばかりに鋭く睨みつけられた。
「俺は、お前を聖獣妃だとは認めん」
「……また、それ?別にいいけど。俺もあんたに認められたいとは思ってねぇし」
同じ言葉を再度返され、いい加減うんざりだ。
他に言うことはないのだろうか?
胡乱な視線を向ける俺に、ジークレイドが僅か怯んだように顎を引いてから、小さく嘆息し、ひたと視線を向けてきた。
「リーナ………フィオリナのそばに相応しいのはカイザーだ。逆も然り。それ以外は、認めない」
一言一言をきっぱりと告げてくる。
言葉は俺に向けているが、まるで言い聞かせているかのような僅かな違和感。
「ふ~ん?で?だから、俺が邪魔って事?」
片眉を上げ、両眼を眇め見やる俺に、ジークレイドが苦虫を噛み潰したように顔を顰めてみせた。
「お前は男だろう?なのに、聖獣妃などと…しかも、聖獣妃足りうる証明の聖獣石も持たない」
まただ。
ジークレイドが返す度に、違和感が強くなる。
まるで、何か、自分自身を納得させたがっているかのような、同じ問答ばかりを繰り返す。
「あのさ………………ッッ!?」
口を開こうとした言葉が途切れる。
文字通り途切れた。途切れさせられた!
暗闇から、突然、まるで溶け込んでいたものが実体を持ったかのように、誰かの両手は、俺の口を塞ぎ、耳にそっと吐息と共に、声が吹き込まれる。
『お逢いできるのを待ち焦がれていましたよ?始まりの聖獣妃聖下』
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