暗殺任務失敗したのが組織にバレて、処女なのにハニトラさせられることになりました。密かに思ってた先輩がHの指導役とか聞いてません!

甘酒ぬぬ

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第3章 指導編 最終日

3-8 私は、もうずっと、ずっと

「フォウせんぱ――」

 意を決してリヤーナが顔を上げた瞬間、唇が重なった。音が奪われる。
 羽根のように軽く二度キスをした後、リヤーナの首筋にフォウの手が添えられた。

 リヤーナは知っている。

 長いキスの先触れだ。
 予告されていても、心臓が跳ね、身体が強張ってしまうことには変わりない。

 リヤーナが目蓋を伏せたタイミングで、下唇をちゅっと吸われた。柔らかく濡れた舌に、中に入り込まれる。

(遮られた? それとも偶然? ……ああもう、うまく考えられない)

 控えめな水音と絡み合う舌の感触に、リヤーナは陶然となってしまう。
 何度キスをしても自分がどうすればいいかわからないし、息継ぎもちっとも上手くならない。わかるのは、フォウからほんの少しだけコーヒーの香りがする、ということだけだ。

 先週くらいから、フォウはよくコーヒーを飲むようになった。町で買い物をした時に大量にコーヒー豆をもらったらしい。一人で買い出しに行く時も美女に扮しているため、コーヒー豆に限らず、色んな物を貢がれて帰ってくる。

「キスは考え事の時間じゃないぞ」

 ぎゅっとフォウに頬の肉をつかまれた。

「フォウせんふぁいのことかんがええたんれす」
「何言ってるか全然わかんねえ」
「もうっ、だったあはないてくああいっ」

 リヤーナはフォウの手を払い、頬をさする。

「……フォウ先輩のこと、考えてたんです」
「模範解答だな」

 フォウは疑わしそうに目を細くした。

「ほんとなのに」

 リヤーナは口をとがらせ、フォウの首にしがみつく。

「ねえ、先輩は隠し事ってありますか?」
「……なんだ、急に」

 フォウが唾を飲み込む音が微かに聞こえた。

「隠し事のない人間なんていないだろ」

 ごく一般的な回答だった。

「暴くようなことをされたら、嫌ですか」

 リヤーナはフォウの喉笛に唇を寄せ、噛みつく振りをする。

「自分の秘密を暴き立てられて喜ぶ奴がいるか」

 フォウはため息をつき、リヤーナの背中に腕をまわした。首の後ろから、リヤーナの背骨を一つ一つ指で辿っていく。

「んっ、それ、くすぐったいです……」

 肩甲骨のあたりにフォウの指が来たところで、リヤーナは耐えられなくなり身体をよじる。
 フォウはリヤーナを抱きすくめ、覆いかぶさるような体勢になった。耳の付け根のくぼみに舌を這わせ、耳たぶや耳の縁を唇で食む。

「ぅぅん……はぁ、ぁっ……」

 リヤーナの口から熱っぽいため息が漏れた。刺激に流され、うやむやにしてしまいそうになる。

 フォウは耳をじっとりと責めつつ、首から鎖骨に手を滑らせた。リヤーナが着ているネグリジェは襟ぐりがゆったりとしており、フォウが撫でさするだけで簡単に肩からずれ落ちる。

「フォウ、先輩……」

 リヤーナは声を絞り出し、フォウの胸板に手を置いた。
 フォウはぴたりと動きを止め、ゆっくりと顔を上げる。

「何を隠してるんですか――って聞いたら、私のこと、嫌いになりますか」

 リヤーナはフォウの瞳を見つめた。

「面倒くさい聞き方するなよ」

 フォウはすぐさま目を背ける。

「……俺は、お前に嫌われる要素しかないだろ」

 吐き捨てるような言い方だった。

「任務で何させられるか知ってたのに、止めもしないどころか指導役なんか引き受けて。兄として慕ってくれていたお前を無理矢理抱いて、嫌がることも散々して――」

 だんだんと声に自嘲の色が混じり、まくし立てるように語気が強く速くなる。

「フォウ先輩」

 リヤーナはフォウの顔をわしづかみにし、無理矢理自分の方を向かせた。

 このままフォウの心の内を聞きたい気持ちもあったが、少しでも今回のことに罪悪感を覚えてくれていただけで充分だった。
 それに、自棄になって告白するのと、心を決めて話すのとでは、話した後の心のありようが変わってくる。
『暴くようなことをされたら、嫌ですか』とフォウには尋ねたが、本当に暴きたいわけではない。できることなら、きちんと話してほしい。こんな状況で衝動的に尋ねてしまったのは、我ながら悪手だったと思う。

「私がいつ嫌だと、フォウ先輩のことが嫌いだと、好きじゃないなんて、言ったんですか」

 フォウがいだいているこの勘違いだけは、すぐにでも訂正しなければならなかった。

「先輩が相手だったから、私は……」

 リヤーナは目蓋を伏せ、お互いの額を合わせる。

「私は、もうずっと、ずっと――」

 短くて簡単で、子供の頃は言えた言葉が、喉の奥に詰まって出てこない。
 この期に及んで、まだ心のどこかで怖がっている。長年つちかってきた臆病さは、急にはいなくなってくれない。

「ごめんなさい。興を削ぐようなことを言って」

 リヤーナはフォウの身体を押しのけ、上体を起こした。肩から落ちたネグリジェを直し、唇を噛みしめる。

「リヤーナ」

 フォウは遠慮がちにリヤーナの肩を抱いた。

「夜はまだ、終わってない」

 触れ合っている部分がじんわりと熱を持つ。
 もう終わりしようと思ったのに、リヤーナを強く引きとめる。

(なんでここで振り払えないかな、私)

 リヤーナは自嘲するほかなかった。
 あそこまで自分の気持ちを伝えて、フォウがそれについて触れない時点で、答えは出ている。
 フォウはリヤーナのわがまま――「指導役としてじゃなく、フォウに抱いて欲しい」を叶えてくれようとしているのだろうか。

(人の気も知らないで……優しくて、性質が悪い人)

 リヤーナは涙がこぼれないよう上を向いた。天井に向かって息を吐き、フォウに身体を預ける。

「この夜だけは……全部、任務のことも、なにもかも、忘れさせてください……」

 引き寄せられるように二人ベッドに倒れ込んだ。
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