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相談
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告白したとたん、亜矢は驚きの余り目を丸くして口をぽかんと開けた。
「えっ!? それって大ゴトじゃない! なんでもっと早く言わないのよ!」
「こんなこと、亜矢に話すべきか迷ってしまって」
「迷ってる場合じゃないでしょうが。あの真面目そうな光司さんが不倫? それだけでもビックリなのに失踪だなんて。いつからいなくなったのさ」
「今週の初めから家に帰っていない。あと、会社にも行っていないみたいなの」
亜矢はしきりと鼻をこすった。それは困ったときの亜矢の癖だ。いつも明るい亜矢は殆どマイナスの感情を表に出さないが、その代わりこうした癖が出る。長い付き合いだから、亜矢のことはなんでも知っていた。
亜矢は困っている。思わずしまったな、と思う。いくら親友と言えども、重すぎる内輪の話にどう返していいかわからないのだろう。もうちょっと様子を見てから相談したほうが良かったかもしれない。そう、本当に失踪したとは限らないのだから。
「でもね。もしかしたら、帰ってきたかもしれない」
「それって、どういう意味よ?」
「今朝、私が寝ている間に家に戻っていた形跡があるの。姿を見たわけじゃないんだけど、家の中がすっかり片付けられていて。そんなことするのは、夫以外に考えられないから」
「いや、待って。それってコワい!」
私も身の毛がよだち、いてもたってもいられなくなって、それで思わず亜矢に電話してしまったのだ。
だけど今となっては、亜矢に話したことを後悔していた。親友にだって知られたくないことはある。冷蔵庫の奥へと密かに閉じこめておきたいモノは誰だってある。
私は努めて明るい顔を作り上げ、眉をひそめる亜矢に向かって微笑んだ。
「……ごめん、こんな話をしてしまって。でも、大丈夫。あまりのことにちょっと驚いちゃったから、つい亜矢を呼んでしまったけど。よくよく考えたら、ちょっとした気の迷いで浮気した小心者の夫が、気まずくなって数日姿を消してただけだよね。よくある夫婦の話だよ。ああ、顔を見せたらなんて言ってやろう。わざと離婚届でも突きつけて、脅してやろうかな」
敢えておどけて言ったつもりだったが、亜矢の曇った表情に変わりはなかった。そうして、しきりと鼻をこすっている。
「家の中が片付いていたって……それって、本当に光司さんがしたのかな」
「だって、それ以外に考えられないよ。私の親じゃないのは確かだし、ほら、光司は両親がもういないし」
夫の両親は、高校の時に車の玉突き事故に遭って亡くなった。その日は休日で、両親は車で買い物に出掛けていたらしい。夫は部活があって同乗しておらず事故を免れた。その後は田舎の親戚に引き取られたが、折り合いが悪くその家を飛び出してしまう。大学中退後に東京で一人暮らしを始め、バイトしながら頑張って勉強して、今のシステム会社になんとか入社したと聞いている。
「ううん。誰が掃除したとかじゃなくて」
亜矢はかぶりを振りながら、おもむろに身を乗り出して私の顔をじっと見つめた。
「えっ!? それって大ゴトじゃない! なんでもっと早く言わないのよ!」
「こんなこと、亜矢に話すべきか迷ってしまって」
「迷ってる場合じゃないでしょうが。あの真面目そうな光司さんが不倫? それだけでもビックリなのに失踪だなんて。いつからいなくなったのさ」
「今週の初めから家に帰っていない。あと、会社にも行っていないみたいなの」
亜矢はしきりと鼻をこすった。それは困ったときの亜矢の癖だ。いつも明るい亜矢は殆どマイナスの感情を表に出さないが、その代わりこうした癖が出る。長い付き合いだから、亜矢のことはなんでも知っていた。
亜矢は困っている。思わずしまったな、と思う。いくら親友と言えども、重すぎる内輪の話にどう返していいかわからないのだろう。もうちょっと様子を見てから相談したほうが良かったかもしれない。そう、本当に失踪したとは限らないのだから。
「でもね。もしかしたら、帰ってきたかもしれない」
「それって、どういう意味よ?」
「今朝、私が寝ている間に家に戻っていた形跡があるの。姿を見たわけじゃないんだけど、家の中がすっかり片付けられていて。そんなことするのは、夫以外に考えられないから」
「いや、待って。それってコワい!」
私も身の毛がよだち、いてもたってもいられなくなって、それで思わず亜矢に電話してしまったのだ。
だけど今となっては、亜矢に話したことを後悔していた。親友にだって知られたくないことはある。冷蔵庫の奥へと密かに閉じこめておきたいモノは誰だってある。
私は努めて明るい顔を作り上げ、眉をひそめる亜矢に向かって微笑んだ。
「……ごめん、こんな話をしてしまって。でも、大丈夫。あまりのことにちょっと驚いちゃったから、つい亜矢を呼んでしまったけど。よくよく考えたら、ちょっとした気の迷いで浮気した小心者の夫が、気まずくなって数日姿を消してただけだよね。よくある夫婦の話だよ。ああ、顔を見せたらなんて言ってやろう。わざと離婚届でも突きつけて、脅してやろうかな」
敢えておどけて言ったつもりだったが、亜矢の曇った表情に変わりはなかった。そうして、しきりと鼻をこすっている。
「家の中が片付いていたって……それって、本当に光司さんがしたのかな」
「だって、それ以外に考えられないよ。私の親じゃないのは確かだし、ほら、光司は両親がもういないし」
夫の両親は、高校の時に車の玉突き事故に遭って亡くなった。その日は休日で、両親は車で買い物に出掛けていたらしい。夫は部活があって同乗しておらず事故を免れた。その後は田舎の親戚に引き取られたが、折り合いが悪くその家を飛び出してしまう。大学中退後に東京で一人暮らしを始め、バイトしながら頑張って勉強して、今のシステム会社になんとか入社したと聞いている。
「ううん。誰が掃除したとかじゃなくて」
亜矢はかぶりを振りながら、おもむろに身を乗り出して私の顔をじっと見つめた。
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