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息を潜めた薄闇の部屋、月明かりだけが窓から射し込んでいる。一糸まとわぬ姿でベッドに転がる自分達が酷く滑稽に思えた。
それでも抱き合って手を繋いでいる。この緩い関係でいたい。大人になっても会社員になっても、皺だらけの爺さんになっても、今日みたいにのんびり彼と過ごしたい。
おしゃれなカップルみたいに特別なデートなんてしなくても、気付けば隣にいる。それが一番理想だ。

多分俺はまだ何も知らない。本当に嬉しいことも、本当に辛いことも。それでも、その時が来るまでは彼を笑わせよう。
だって彼は俺の初めての「友達」で、「恋人」だから。
臆病だった自分に人と関わる喜びを教えてくれたひと。それを言葉で伝えるのはちょっと恥ずかしいから、別の形で返したい。

「なぁ、理貴のタイプってどんな? 実は織部先輩みたいにオッパイ大きくて良いにおいする子?」
「何でだよ」
「織部先輩と一緒に歩いてる理貴はさ……他の誰かと歩いてるよりかっこよく見えるから」

少しだけ身を捩り、理貴の方へ向いた。膝頭が当たる。はだけたシーツは虚しく垂れてぶらぶらと揺れていた。
「それはあれだろ。織部がダイナマイト過ぎるんだろ」
「ダイナマイトって……おっさんみたいな発言だな」
「しっ。大体、それ言ったらお前だってそうだよ。今日クラスの女の子と並んで喋ってだだろ。あれ遠目で見てたら、本当に男って感じだった」
なるほど、分からん。
「男なんだから当たり前だろ」
「真陽がむくれてんのはつまりそういうことだよ。それにな、俺が知ってる真陽は華奢で臆病で純粋で、推しに弱い女の子だった」
確実に貶してる。真陽がキレる一歩手前で、理貴は自分の顔を手で覆った。

「そんなわけないんだよな。時間ってザンコク……俺の知ってる真陽は一日一日過ぎる度に消えていくんだ」
「何だよー……それも当たり前だろ」

自分だってそうだ。ただでさえ歳上の理貴はどんどん大人びていく。彼と全く同じ線路は歩けない。どうしたってその隣のルートか、真上か、真下か、はたまた一番最初に戻って後ろにつくしかないんだ。
それを残酷と捉えることもできる。けど、それは同時に特別であることを指している。この世界に何億人の人がいようと、どれひとつとして同じ道なんてない。同じ人生なんて有り得ない。
誰もが特別だ。だから人を羨む必要はない。きっとこんな自分だって、どこかの誰かに羨まれている。
見えないところで嫉妬されている。恋人は特にそういう存在だろう。

理貴はまたなにかを懐かしむように目を細め、笑った。

「真陽が俺以外の誰かに笑ってるところ見るの、やっぱり嫌いだね」






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