強く、踏み込んで

七賀ごふん

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真夏日

#2

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家に連れ帰った青年、帷幸耶とばりゆきやは同い年とは思えないほど大人びていた。知的な印象なのに、どこか野趣を帯びた瞳と、端正な顔立ち。気だるけだが背も高いので、きっと大学じゃモテてるに違いない。

「帷さんって、珍しい名前」
「迎も珍しいよ。というか、俺のことは呼び捨てでいい」
「ほんと? じゃ、俺のことも! 迎って呼んで!」

ベッドで寝ていいと言ったのに、帷は床に座った。グラスに冷たい麦茶を入れ、彼の前に差し出す。そして帷の真っ暗なスマホを取った。

「熱いから電源入れんのも怖いし、新しいの買わないとだな。必要なら俺のスマホ貸すよ」

スマホをローテーブルの上に置き、床に腰を下ろした。
帷は額を押さえ、静かに頷く。その目元は暗く、影がかかっていた。

「おい、マジで大丈夫? 家の人に連絡して、迎えに来てもらう?」
「いや、必要ない。……それより突然悪いな。もう出るよ」
「遠慮すんなって。俺一人暮らしだから、気にせず寛いでいいよ」

微笑むと、帷は眉を下げた。
「お前、知らない奴を家に上げんの怖くないのか?」
「全然」
「ははっ」
帷は立ち上がろうとしたものの、可笑しそうに肩を揺らした。
初めて自然な笑顔を見ることができて、嬉しいと思ったのは内緒だ。

実際、ずっとひとりだったから……家に話し相手がいること自体嬉しいし。

「心配になるな。警戒心なさ過ぎて」
「ん……? ちゃんとドアの鍵はかけてるよ」
「中に招き入れたら意味ないだろ。……まぁいいや。せめて俺がいる間は守るよ」

背もたれにしていたベッドに手を置き、帷は目を眇めた。

「ありがとな。迎」

優しい視線が向けられる。
何年ぶりだろう。……この、懐かしい感覚。

まるで子どもに語りかけるような声音だったけど、もっと聞きたい、と思ってしまった。瞼を伏せたらそのまま眠りに落ちてしまいそうだ。

「……」

実のところ、夢の世界に入りかけてる。
昨日も全然眠れなかった。大学は行けるようになったけど、まだ昔のように戻れてはいない。

気を遣われたくないから無理に笑い続けた。ひとりで考える時間をできるだけなくそうと、めいっぱいバイトのシフトも入れて。その反動が今頃来たのかもしれない。

「迎……?」

体が前に傾く。視界がどんどん狭まって、真っ暗になる。
最後に聞こえたのは、自分の名前を呼ぶ優しい声だけだった。




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