強く、踏み込んで

七賀ごふん

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休憩場

#8

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でも、家だとよくテンパるよ、と彼は笑った。
「ここしばらくは、塞ぎ込んでたみたいで。全然笑わなかったんだよ」
彼は瞼を伏せ、静かに零した。理由は話そうとしないけど、すぐに二人のお母さんのことだと分かった。

「料理も、家では全然しようとしなかった。だから今のあいつを見てちょっと安心したよ」

陽介さんは台所でてきぱきと動く帷を見て、嬉しそうに微笑んだ。

「迎君。幸耶に料理させてくれて、ありがとね」
「そんな……こちらこそです」

俺が御礼を言うところなのに、逆に感謝されてしまった。
こそばゆくて、少し視線が泳いでしまう。

「叶うならずっと幸耶君のご飯食べたいぐらいでして……」
「あはは! そんなに気に入ってくれたんだ!」

尚さら嬉しいよ、と彼は紅茶を飲んだ。そして急に手を叩き、前屈みになる。
帷に聞こえないように、小さな声で尋ねた。

「実は、迎君に謝らないといけないことがある」
「え。何ですか?」

打って変わって真剣な表情の彼に、ドキッとする。
なにかまずいことをしてしまっただろうか。慌てて姿勢を正し、彼の返答を待つ。
心臓を握られてるような緊迫感の中、陽介さんは深刻そうに呟いた。

「俺はてっきり、幸耶に彼女ができたのかと思ったんだ」
「……え?」

予想外の言葉が返ってきて、反応するのに時間がかかった。
彼女。……帷に。
こっちがフリーズしてることに気付いて、陽介さんは申し訳なさそうに片手を振った。

「そ、その……! 今まで反抗期もなかった幸耶が朝帰りすることが増えて、内心すごく心配してたんだ。恋人を作るのは良いんだけど、いつも家に入り浸ってるとしたら、相手に迷惑かけてないか心配で」
「な、なるほど」

確かに、家に帰らない日が続けば心配だろう。陽介さんからすれば帷はまだ学生で、未成年だ。今ではたった一人の家族だし、気にかけるのは当然。

「それで問い詰めたら、彼女じゃなくて男の友達って言い張るから……どちらにしても、お詫びというかご挨拶をしたくて。それで今日、迎君の家に案内してもらったんだ」

驚かせて本当にごめん、と彼は両手を合わせた。
ようやく大体のいきさつが分かった。いくら仲が良いとはいえ、兄が弟の友達の家に突然行こうとするわけない。
彼の言うとおり突然の来訪はびっくりしたけど。全て弟を心配しての行動だと思えば、むしろ良かったと思う。

帷にこんな優しいお兄さんがいて、安心した。

「本当に、お菓子だけ渡したら帰るつもりだったんだ。そろそろおいとまするよ」
「あ……! 待ってください。せっかくですし、皆で夜ご飯も食べましょうよ」





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