強く、踏み込んで

七賀ごふん

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時々雨

#1

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軽くハイタッチして、台所の明かりを消す。
帷を名前で呼ぶのが嬉しくて、意識しないとニヤニヤしてしまいそうだった。
変人と思われる前に直さないと。頬を両手で叩き、食後の飲み物の準備をした。

「幸耶。今日俺が買ってきた皿どうだった?」
「あぁ、大きくて使いやすかったよ。デザインも良いよな」

幸耶は椅子に座り、頬杖をつく。
「新しい食器があると、料理すんのもちょっとテンション上がる」
「ははっ。それなら良かった」
コーヒーをグラスに淹れて、氷を入れる。色が二層になるようゆっくり炭酸水を入れた。

「ほい、コーヒーソーダ」
「おぉ~、オシャレじゃん。お前も変わったなぁ」

レモンを添えれば、まるでカフェのドリンクのような出来栄えだ。
「いや、レシピってすごいよな。忠実に作ればそれっぽく見えるんだもん」
「はは、確かに。……お、美味い」
コーヒーは砂糖を入れて甘みをつけてるから、かなり飲みやすいと思う。幸耶はストローで軽くかき混ぜ、感動したように頷いた。
「まず、お前が自主的になにか作ろうとしてることが嬉しい」
「うんうん。もっと褒めてくれ」
幸耶と対面するように腰掛け、爽やかなソーダを吸い上げる。

この何でもないひと時が大好きだ。楽しくて、温かくて……ずっとずっと続いてほしい。

「今まで、全然なにかを作る気になれなかった。自分の為だけに作るのが億劫だったんだよな」

しかも、上手く作れる自信もない。それなら出来栄えのものを買った方が絶対良いと思っていた。
でも今は違う。「作らなきゃ」という使命感ではなく、「作りたい」と思えている。

「今は幸耶がいるから……お前の為に作りたいって思うんだ」

何にでも挑戦して、何でも共有したい。独りの時なら考えられなかったことだ。

「お前……それ無自覚で言ってるんだよな?」
「え? 何が?」
「いや……何でもない。大丈夫」

何が大丈夫なのかも分からないが、帷は口元を隠して俯いた。
やばい。変なこと言ったから、引かれたのかな。
何回もやらかしてるから耐性はできてきたけど、内心ではめちゃくちゃへこんだ。
けど、帷はグラスを持ち上げ、急に目を輝かせた。

「……なぁ。もしかしてこのグラスも今日買ったの?」
「え? あ、うん!」

すっかり忘れていたけど、幸耶は新しいグラスに気付いてくれた。
今日お店で一目惚れした、向日葵が装飾されたグラス。コーヒーのおかげで、明るい黄色がより映えている。
帷はグラスを傾け、まじまじと眺めた。

「良いな。夏っぽいし、明るい」
「気に入ってくれた?」
「もちろん」

やった!
帷とお茶する為に買ったから、そう言ってもらえてすごく嬉しかった。

「幸耶、俺さ……花で一番好きなの、向日葵なんだ」
「へぇ。でも何となく分かるかも。お前ってダイナミックなもん好きそうなイメージ」
「どういうことだよ……単に昔向日葵畑に行って、感動しただけだって」

頬を膨らまして言うと、帷は可笑しそうに肩を揺らした。

「そうか。……でも、良いじゃんか。俺は向日葵畑って行ったことないよ」
「ほんと? じゃあ機会あったら行ってみ。暑いけど、一面の向日葵に囲まれんのは中々良いよ」





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